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初戦【魔獣】3

 魔獣の爪がジークの背中に振り下ろされ、鮮血が舞う。ジークは一つ呻き、エリカと少し離れたヨハンを抱え全速力でその場を離れる。今は何よりエリカ達を避難させるのが先だ。


「ジーク!奴は追ってきていない!この辺りで良い」


 魔獣はジーク達を追うでもなく、その場で暴れまわっていた。魔獣から離れて数分経ったころそのことを聞いたジークはエリカとヨハンを下ろし、目を合わせ諭すように告げる。


「エリカ、ヨハン。ごめんね、ぼくはもう一度あいつを倒さなくちゃいけないみたいだ」


「で、でもジーク兄……背中が……」


 ジークの背中側に回ろうとするヨハンを制し、二人を木のうろへ押し込み、目を見ながら話した。


「いいかい、良く聞いて。君達はここに隠れているんだ。今は動物達も逃げていて安全だからね。そうしたらぼくがあいつを倒してすぐ戻ってくる。大丈夫、ぼくは一回あいつを倒してるんだから。それに背中もちょっと引っ掻かれただけ。掠り傷さ」


 ジークはまた嘘をついた。


「エリカ、ヨハンの言うことをよく聞いてここに隠れているんだよ。絶対にすぐ迎えに来るから、待っててね」


 呆然としたエリカの顔を両手で挟んで言い聞かせるがうんともすんとも言わない。本当に聞いているんだろうかと不安になるがあまり時間をかけられない。


「ヨハン、エリカを頼んだ。また君一人に任せてしまうけど許してほしい」


「うん……。今度は離さないから!だから絶対……戻ってきてね!」


 ヨハンの頼もしい返事を聞き安心したジークは最後に二人を胸に抱いた。その温もりを確かめ、置いて行く。これからやることには連れていけない。……魔獣の音のする方へ走り出した。


「……お、おいジーク!背中の傷は、すまなかった。わしの判断ミスだ。だがお主が態々魔獣に向かわなくても奴はもうすぐ死ぬぞ。人を狙ってる様子もないしほっといても良いんじゃないか?」


 ジーク達の話に割り込めずやっと発言の機会を得たイルマはジークに止めるよう言う。しかしジークは……


「いえ、師匠を信用していないわけではありませんが最後に人を襲うかもしれません。なにより、ぼくはあいつを殺しに行かなくてはならない」


 聞く耳を持たない。


「せ、背中の傷は!相当深いはずだ。大丈夫なのか!?」


「はい、充纏を背中に集めて防御しましたから、あいつを殺す分には問題ありません」


 そういうことを言っているのではない、とイルマは思うが先に口から出たのは単純な疑問だった。


「な、なんだ。お前のその様子はなんだ!?何をそこまでこだわる!?」


 今日ジークに起こった理解できないことの連続にイルマはパンクし、その不安とイラつきをぶつける様に言った。ジークは足を緩め心の内を開ける。


「師匠、ぼくはあいつを殺そうとしました」


 それは分かる。あれだけの怒りと殺意を籠める姿を見れば、口先だけの出任せでないことは誰でも理解できる。


「だけど、殺せなかった。あそこまで追い詰めておきながら、反撃が怖いと自然に死ぬのを待ったんです!ぼくはあの時絶対にとどめを刺すべきだったッ!」


 ジークは一つ呼吸を入れ自分の心を落ち着けると更に続ける。


「前に狩人の方の話を聞いたことがあります。狩人は一撃で獲物を殺すべきだと。中途半端な傷を与えて逃がしてしまうのが一番悪いのだと。ぼくはその方の言葉を今、理解しました。だからぼくがとどめを刺す、それがあいつを追い詰めた者の責任なんです」


 イルマは理解できる部分とできない部分があった。追い詰めた者の責任というのは分かる。イルマ自身敵を甚振る趣味は無いし狩人の話は聞いたことは無いが納得はできる。しかしそれらは普通自分が圧倒的に優位に立っている時の話だ。自分が命を懸けて戦う相手で、実際にボロボロになっていて、弟妹達を待たせて、それでも優先しなくてはいけないことなのか?


「それはお前にとって、それ程重要な事なのか……?」


 ジークは初めて足を止め、答える。


「……分かりません。僕自身、初めての感情です。ですがここで逃げたらぼくは一生後悔する。強い力を持った時、それを上手く振るうことができなくなってしまう。そんな気がするんです……」


 答えた後ジークは自分の心を見つめる。言葉にすることで自分の心の変化を理解できた。胸の内にあった妙な焦りが薄らいだ気がする。


「……分かった。お主がそう言うならわしはもう止めん。だがここまで来て返り討ちに会いましたは許さんぞ!」


 イルマにジークを止める気はもう無い。恐れくこれがジークの譲れないモノ。魂に近い部分なのだろうから。


「ええ、ぼくはあそこで、あいつにとどめを刺す!」






「おい!おまえの獲物を奪ったのはぼくだ!ぼくはここにいるぞ!」


 ジークは元は森だった更地で、尚暴れている魔獣の前に立ち声を張り上げた。


(これでついて来てくれると良いんだけど……)


 魔獣は見えているのかわからない殆ど潰れた目でジークを睨み……


「オマ……エ……ボク……ノ……モノオオオォォ!!!」


(食いついた!)


 ジークが逃げ、魔獣が追う。魔獣が見失わないようかつ追いつかれないようにジークは前を、イルマは後ろを見ながら走る中イルマは先程ジークから聞いた策を思い出していた。






「しかしジーク、一体どうするつもりなのだ。奴は今暴れ回って手が付けられんぞ」


 魔獣に向かう最中、イルマはジークに策の有無を聞く。実際動きまわる額の目を狙うことは難しい。


「ぼくがあいつを殺しきれなかったのは、突進に巻き込まれない様に横から、それも飛び出して攻撃したからです。つまり、あいつの目の前に立ち地に足をつけて攻撃すれば必ずとどめを刺せます!」


「……確かにそうかもしれんが、そんなことできるのか?」


「できます。ついでに足を止めることも。……決着は、そこでつける……」






 魔獣は追う。何も見ず、何も聞かず、ただ思って追う。

 あいつは奪った者だ。痛めつけた者だ。許してはならないものだ。

 考えてはいない。ただ心に思い、ひたすら追うのだ。

 少し経った頃、急に地面が一段下がった。進むにつれ地面がぬかるみ体の動きも悪い。目が見えていないため急な変化に驚くが構わず進む。もう少しなのだ。あと少しで追いつく。魔獣は目が見えておらず、魔力を追ってここまで来た。その魔力が今、魔獣に近づきつつある。だがあと一歩というところでその魔力が変化し、高まった。魔獣はその光景を()()ことがあった。


「おい!おまえから獲物を奪った人間はここにいるぞ!」


 そうだ!おまえが奪った!


 ――高まった魔力が蒼く変わる


「だがおまえもぼくから奪おうとし、これまでも多くの人から奪ってきたんだろう!」


 知らない!ただ取っただけだ!腹が減ったから喰っただけだ!


 ――魔力が右拳に集まる


「ぼくはおまえのことが嫌いだし、憎いし、許すつもりも無い。だがそんなことでぼくは殺さない。ぼくはぼくの為におまえを殺す!それが……」


 ――魔力は極限まで高まり


 うるさい!奪うな!痛めつけるな!全部、全部……


「……ボクノモノダアアアアア!!!!」


「ぼくの覚悟だ……!」


 ――放たれた


 湖の上に大空が現れ、魔獣の赤い瞳が蒼く染まる。

 そして魔獣の魔力は、湖と、森と、一人の人間に溶けて消えていった……

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