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オンラインゲームでおっさん相手に姫プ満喫していたはずが美少女たちに囲われていた  作者: 最宮みはや【11/20新刊発売】
イベントダンジョン攻略編

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第87話 親孝行できていない娘です。

 姫草打鍵工房ひめくさだけんこうぼうが借りているビルの二階、事務所へ向かうと母が一人で仕事をしていた。


 今日は久瀬さんはいない日のようだった。


 実は他にも社員さんはいるんだけれど、一人は営業で出回っているらしくて数えるほどしか会ったことがない。

 小さい会社なので、実際の発注や組み立ての一部を外注していたり、修理なんかもパーツの受注元に依頼することも多くて、いろんな会社との付き合いで成り立っているそうだ。


 母も実際やっていることはそういった会社同士の営業がメインで、経営的なことはたまにしかやっていないという。

 社員も少ない、小さな会社だからそんなものなんだろうか。


 母はパソコン画面とにらめっこするように、悩んでいるようなでもどこか嬉しそうな顔をしていた。


「母さん、今ちょっといい?」

「あら、柚羽ゆずは。今日は手伝いの日じゃなかったと思うけど、どうしたの?」


 声かけないほうがいいのかなって、ちょっと迷ったけど見なかったことにして一階へ戻るのは、賃上げを胸に誓ったアズキへ悪い気がした。


 もちろん賃上げ交渉については、私が勝手に心の中で思っているだけだ。上手くいかなくてもアズキに恨まれはしないだろうけど。


「……忙しかったら、あとにするけど」

「ん? あー、別にちょっと考え事してただけよ。それで柚羽のほうは?」

「あのさ、小倉おぐらさんのことなんだけど」


 アズキのことはネットゲームの友人であると、母には紹介しているけれどアズキとプレイヤーネームで呼ぶのはマナー的にもあまり良くない気がした。

 バイトとして雇う際に聞いた彼女の本名、小倉沙夜おぐら・さよで呼ばせてもらう。


 これで打鍵音(だけんおん)シンフォニアムのギルドメンバー全員の本名を知ってしまったことになった。

 ゲーマーとしてはトロフィーコンプ的な達成感もありつつも、オンラインゲームとプライベートは最低限分ける派の私としては複雑な心境である。


 ――だいぶ今更感もあるけどね。名前だけじゃなくて、年齢に職業、住所なんかもお互い知っているような状況だ。


 もしかすると、もうヴァンダルシア・ヴァファエリスだけの関係というわけではないし、ゲームとプライベートで分けるというのも無理になってきているのかもしれない。


 いいことなのか、悪いことなのか。


「沙夜ちゃんがどうかしたの?」

「……沙夜ちゃんって」


 母が私のオンラインゲームの友人をちゃん付けで呼んでいる。


 単に娘の友人ならそれでもいいんだろうけれど、一応アルバイトで雇っているんだから、社長がそんなフランクでいいのか。


「あの子、本当良い子よね。仕事も真面目で、すごく優秀。すっごい美人だし」

「……不真面目で不出来な上に、たいして美人でもない娘で悪かったよ」

「本当よねぇ」

「ちょっとっ!! 私も冗談で言ったけどさ、少しは否定してよね!?」


 アズキが母にも好評なのは知っていたけれど、相変わらずの好かれぶりのようだった。


 そりゃ母が言うとおり、アズキは私より真面目に働いているし、優秀だし、美人だ。

 でも――いや、でもって反論できることとくにないかも。家出くらいしか対抗できることないな。


「……ま、まあいいか。そのとっても素敵な小倉さん、アルバイトにさせる仕事量じゃないし、時給とかもっとバンバン高くしてあげてよー。事情もあって紹介したけど、あんな最低賃金じゃ申し訳なくて」

「なに言ってんの、柚羽」

「いや、うちも経営が厳しいのは知ってるけどさ。ほら、あのサイトとかすごいよ。あれ外部発注したら本当いくらかかるかわかんないよ?」

「柚羽……。悪いんだけど、沙夜ちゃんはもうあなたの倍以上の時給で雇っているわよ」

「え」


 よかれと思って母に訴え出た私だったが、逆に申し訳なさそうな顔で母に真実を告げられる。


 考えてみれば当たり前のことでもある。


 ただ既に私の倍以上の時給をもらっていたなんて。そんな聞いていない。


 ――まあ、明日からあの子あなたの倍の時給になったから、って母から直接言われても惨めな気分になるだけだけどさっ!!


「沙夜ちゃんのつくった販売サイトも見た? あれすごいでしょ、沙夜ちゃんにバイトの時間できる作業他にないですかーって特にないからカウンターの中でなら好きにしてていいよって言ったら、じゃあオンラインショップ用にサイトつくりますって言ってくれたのよ」

「あ、うん。見た。あれ見て……来たんだけど……」

「すっごいわよねー! ボーナスもばーんってあげちゃったわよ。しかもあれね、ついこないだ公開始めたところなんだけど、もうすごい量の注文が来てて」

「へぇ……」


 嬉しそうな母に、私も大変喜ばしいんだけど。


「それで予想以上の出荷量になりそうだから、これからは製造委託増やそうかなって頭悩ませてたとのなのよね。物珍しくてたまたま今売れているだけかもしれないから、そんな直ぐ委託増やしちゃってもいいのかどうか。でもこのままだと結構出荷まで待たせちゃうことになるから……」

「そ、そうなんだ。なんにしても嬉しい悲鳴ってことなの?」

「そうねー。もし順調にいけば、今までにないくらいの粗利出そうかしら」

「よかったね。……たださ、私全然聞いてなかったんだけど?」


 母とは家で少なくとも朝晩顔を合わせているはずだった。それでなんで全然私が聞いていないのか。

 サイトの制作依頼したこともそうだし、三日前だとしてもオンライン用の販売サイトが公開されたなら教えてくれてもいいはずである。


「だって柚羽、ここ数日心ここにあらずって感じだったじゃない」

「えっ、それはゲームのことでちょっと……」


「柚羽は相変わらずゲームに熱が入るとすぐそうなるから」


 くすくすと母に笑われてしまう。


 会社のために頑張るって意気込んでいたはずが、まるで成果を出せていないばかりかゲームにばかり気が取られていた。


「……ごめん、私ももっと会社のこと手伝いたいって思ってたのに」

「なに言ってんの。柚羽もいろいろやってくれてるじゃない。いつもお店出てくれてるし、今もなにか会社のこと考えて頑張ってくれてるんでしょ?」

「えっ……いや、その……」


 母に私がしていることは話していなかった。


 そもそも最初に始めたヴァヴァで有名になって姫草打鍵工房を宣伝するってのは、効果があるかもわからないことだ。

 鈴見総次郎すずみ・そうじろうとの賭けも私が発端なのだから、私だけでどうにかして終わらせたい。


「それに、姫草打鍵工房のキーボードは元々柚羽のこだわりや要望を上手いこと叶えていってここまでいい商品が出せるようになったところもあるんだから」


 母はデスク前から立ち上がって、私の横に来る。


 母は高身長で私が大学生になった今も、母のほうが頭半分くらい背が高い。

 遺伝とか考えると、もっと私も伸びてよかったのにどうしてだろう。家でゲームばかりしていたからなんだろうか。


 突然立ち上がってどうかしたのかと顔を見ると、母はにっこり笑ってそのまま私を抱きしめた。


「ちょっと、母さんなにするの」

「沙夜ちゃんばっかり褒めたから、しょんぼりしちゃったんでしょ? 柚羽も母さんの大事な娘だからね」


 ――も? 社員は子供みたいな感覚なのだろうか。


「よしよし、ほら元気出して。いつもありがとうね、柚羽。母さん、とっても助かってるから」

「やめてって、もう私大学生だよっ!?」


 そのまま母におでこへキスされた。小学生くらいのときならまだしも、今されると気恥ずかしさしかない。


「うりうり、それに沙夜ちゃんを連れてきてくれたのが一番の功績ね」


 そう言って母が笑った。冗談のつもりなんだろうけど――けっこう胸にダメージ来る発言だよね、それ!?


 私がグレそうになったとき、会社の電話が鳴る。


「あ、ごめんね」

「ううん、私も小倉さんが買い叩かれてないか心配だっただけだからもう戻るよ」


 母が離れたので私も一階へ戻ろうとしたのだけれど、部屋を出る前に母の声が耳へ入ってきた。


「はい、姫草打鍵工房ですがご用件は――す、鈴見デジタル・ゲーミングの……っ!? 今更弊社になんの用ですか? え? 今から来る?」


 ろくでもない相手からの電話だったようだ。私は内容が気になって足を止めてしまう。

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