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オンラインゲームでおっさん相手に姫プ満喫していたはずが美少女たちに囲われていた  作者: 最宮みはや【11/20新刊発売】
イベントダンジョン攻略編

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第83話 ひび入る人生①(side 英哲グラン隊)

 人生には決して間違えてはいけないタイミングがあるけれど、それが目の前に差し迫っても気づかない人間がいる。


 鈴見総次郎すずみ・そうじろうが、最後の挽回のチャンスをふいにするかどうか――彼の破滅を願う者、風野怜美かざの・れみとっては待ちに待った瞬間であった。


「親父、どういうことだよ? 俺が謝る? わけわかんねぇこと言うなって」


 あまりにも動揺しているのだろう。総次郎は風野をはじめとした大学のeスポーツサークルの面々がいるにも関わらず、声を荒げた。


 周囲の学生達が顔をしかめて遠巻きにしている中で、風野だけは聞き耳を立てる。


『総次郎、お前のワガママを聞いたせいでこんなことになったんだぞっ!! わかっているのか!?』

「俺のせいだって!? 親父だってあのクソキーボードと縁を切るのは賛成だったろ、それで自社のオリジナルキーボードに協力した俺がなんで――」

『お前が口出ししたあのキーボードの評判が最悪だからこんなことになっているんだろうがっ!! くそっ、これなら専門家に任せるべきだった……お前を信頼したばっかりに……』

「なんだよっ! ちげぇだろ、バカ共が勝手なこと言ってるだけじゃねえかよ! 俺のキーボードがあのクソキーボードと比べて劣るわけなんてっ!!」


 かすかに聞こえる総次郎の父親と、不機嫌さを隠そうともしない総次郎の耳障りな声。


 鈴見デジタル・ゲーミングが出した自社製のオリジナルキーボードが不評であることを踏まえ、彼の父である社長は姫草打鍵工房ひめくさだけんこうぼうとの提携を打ち切ったことを失敗と判断したようだ。


 そしてその責任は総次郎にあると言いたいらしい。


 一方的に打ち切った提携を復活させるために、事の発端である総次郎にも同行させて謝罪させようというのか。企業間のやり取りで、社員でもない家族に頭を下げさせる理由が、風野には判然としなかった。


 だがその答えはすぐに電話越しの声が教えてくれる。


『向こうさんが、お前が謝って、あっちのお嬢さんが許すのを条件なら考えるって言うんだ。仕方ないだろ』

「なっ、なんで俺がっ!! ……ちくしょう、これだからバカ親子ってのは。会社のやり取りに家族を持ち出すなんて、バカのすることだろうがっ」


 ――どの口が言うんだ。とあきれたし、顔にもはっきりと出ていたけれど、風野の表情に気づいたのは後輩の芦屋里穂あしや・りほだけだった。


 風野と目が合うと可愛らしく笑って、口パクで『本当バカですよね』と総次郎を見やる。


 芦屋の関係性は、保留状態だった。


 けれど、告白されたからか、利用していた罪悪感からか、風野は彼女を信用して裏で計画していたことのすべてを正直に話した。


 ――総次郎をおとしいれて、ヴァンダルシア・ヴァファエリスのトップギルド英哲(えいてつ)グラン隊から追い出そうとしていること。そもそもの理由として総次郎がどういう人間なのか、ユズというプレイヤーとの間に起きた事件についても。最後に微力ながら、不当な扱いを受けているキーボードを応援していることを説明した。


 怒られる可能性もあると思った。彼女を騙すようにして、都合よく計画に使っていたのだ。


 芦屋は頬を膨らませて、風野をにらんだ。

 怒られる。もしかしたら感情にまかせて総次郎にすべてを話してしまうかもしれない。そう思ったのだが、


「先輩、そのユズって人のこと、すごく褒めますね。そんな代わりに復讐までして、もしかして好きなんですか?」

「ち、違うって!」

「でも指示も的確でプレイングも上手いって」

「ゲームの腕前を褒めただけで……ゲームしながら少し会話したことあるだけだから、実際のユズさんを知っているわけじゃないし」


 風野は予想外のことを責められて慌てた。まるで浮気を咎められているようだ。


「あたしのことは下手って思っているくせに。それで鈴見先輩を怒らせるために利用したって」

「それについてはごめん……。でも芦屋は後衛じゃなくて前衛やったらもっと上手くなると思うよ。性格的にあってそうだし」

「えーなんですそれ、全然フォローされている感じしないんですけど」

「……フォローしているつもりじゃなくて、思ったこと言っただけだから」


 不器用に苦笑いを浮かべてみたが、芦屋はむくれたままだった。


 総次郎とのパーティーを抜けて、もう関わらないと言われるかもしれない。だが彼女は、


「ま、いいですよ。裏があったのはちょっとショックですけど、それでこうやって風野先輩とも仲良くなるきっかけができたわけですし」


 風野はごめんともう一度頭を下げた。


「その代わり、ヴァヴァ教えてくれませんか? あたしももっと上手くなりたいです。それにこのままだと鈴見先輩、キレてあたしのことパーティーから外すって言い出しそうで」

「パーティー変更はともかく、そうだね。今もだいぶ来てるみたいだけど、できればイベントが終わるまではへそを曲げられないと助かるから……」


 本来だったらもっと早い段階で、総次郎を怒らせて、イベントを途中棄権させ、ギルドへ勝手に呼んだ芦屋をまた勝手に追い出して――とさせることで英哲グラン隊から今度こそ除名させているはずだった。


 ただ総次郎とユズの賭けのことがあって、最低限イベントを完走させて明確な勝敗がついてほしい気持ちもある。


 けれど気分屋で短気な総次郎をどこまでコントロールできるか自信がなかった風野は、イベントがどうなるかは運に任せて少しでも彼が不利になるよう動くことに専念した。


 ――もちろんイベントの結果を気にしなくなったのは、ユズ達のパーティーが総次郎達よりも先に進み出したことを確認できたからである。


 放って置いてもユズ達が勝つなら、あとは最終的に揉めて総次郎がギルドから追放されれば目標は達成である。


 ここでまた予想外に動いたのは、風野に好意を寄せている後輩の芦屋だった。


 ヴァヴァでの下手なプレイングを見込んで、総次郎を怒らせるためにパーティーへ入るように誘導した彼女。先日、風野は思いがけず彼女から告白を受けたわけだが、


『リホっ! てめぇ何度言ったらわかんだよ、タンクの回復も重要だけどな、アタッカーの俺に攻撃補助がのってないんだよっ!! パーティー全体を見渡せ!』


 イベントダンジョン攻略中に、また総次郎がキレたときだ。そろそろ潮時になるだろうかと風野も身構えていた。


『ごめんなさいっ。でもあたし、先輩のこといつも見てますよ……ゲーム中の先輩、かっこよくて』


 しなを作るような声色で、芦屋が甘い言葉をささやいた。


 風野は先日自分に告白してきたばかりの後輩が、今度は総次郎のご機嫌取りを始めたことに困惑する。


『ちっ、次からしっかりやれよ。……俺のプレイングに見惚れる気持ちはわかるからよ、許してやる』

『ありがとうございまーっす! 先輩って本当優しいですよねっ』


 仲睦まじい二人のやり取りで、結局そのまま四人パーティーでのイベントが進んだ。


 風野は狐につままれたような気分だった。


「……先輩、あれでいいんですよね?」

「あれって?」


 翌日、大学構内で芦屋に話しかけられたときは――あの告白が嘘で、騙された自分はそのまますべて真実を伝えてしまった。計画は芦屋の策略通りに、総次郎にも伝わっていたのではないかとさえ思っていた。


「だって風野先輩、ヴァヴァのイベント最後まで攻略させたいって言ってじゃないですか。だからあたし、鈴見先輩の機嫌取るの頑張ったんですけど」

「狙ってやってたんだ……」

「そうじゃなかったら鈴見先輩にあんなこと言いませんよ。あんなわかりやすくおだてて」

「そっか。びっくりしたよ。本当は芦屋が鈴見と仲いいんじゃないかって。告白も嘘だったのかなって」


 風野がそう言うと、芦屋が今までになく怒った。


「嘘なんてひどい! あれ、本心ですよ。今だって本当にドキドキしてます」

「ごめん。……今まで告白された事なんてなかったし」

「でももしかして先輩、嫉妬してたってことですか?」

「嫉妬……そうなのかな……」


 結果として芦屋の頑張りは、総次郎が最後の選択を間違える事へと繋がるのだった。


 ――総次郎に、最後まで自分にも可能性があると愚かな希望にすがらせたのである。


 ヴァヴァのイベントで勝てるということ、自分に惚れている後輩がいるということ。


 どちらもありもしない希望を抱いて、決して間違えてはいけない選択をしてしまう。

しばらく百合が薄まりますが、鈴見総次郎の最後と思って見届けていただけると助かります。

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