第37話 引き続き目標などを相談します。
みんな、なんだかんだで順位を決めること――つまりランキングってのが特に好きだと思う。
例えばヴァンダルシア・ヴァファエリスの攻略サイトを見れば、人気閲覧ページのトップに非公式にオススメ最強装備ランキングがあることなんかが顕著だ。
攻撃力や防御力なんかの装備することによってスーテタスがどれだけ上昇するか、みたいな目に見えてあきらかな数値だけじゃない。
その装備に付いたスキルみたいに一見優劣のつけにくいことまで、いろいろな情報を様々な判断基準で順位付けする。
剣士系職の最強装備ランキング一位『神無甘楽ノ剣』、全装備中三位の攻撃力上昇値に加えて現環境必須と言われるスキルが四つ付属していて、多くのボスモンスターと相性が良い聖属性である。
――みたいな感じ。
そんな中で期間限定ダンジョン攻略イベントは、ヴァヴァが公式でランキングを発表するのだ。
参加者は当然のように盛り上がりるし、傍目に見ているだけのユーザーですら一段とにぎわってお祭り騒ぎとなる。
――のは、わかるんだけど。
『イベント期間中、ユズさんにほめてもらった回数で決めるのはどうでしょうか?』
『ユズは褒めるより、問題のあるプレイングを指摘することのほうが多い。だから指摘が少ない人間が勝者とするべき』
『そんなのしなくてもユズが決めてくれるって。ま、アタシだけどっ! みんなごめんねー』
打鍵音シンフォニアムの面々がボイスチャットで盛り上がっているのは、チーム創設者として嬉しい限りではある。
――だけど。
「いやいや、そこの順位を争うとこじゃないからねっ!? 大事なのはまずイベントの順位で……」
私達がこれから争うのは、イベントダンジョン攻略だ。
決して、私を一夜好きにできる権利などではない。あと――。
「今でてる方法だと私が一番になる可能性ないから却下ね。公平に私にもチャンスがなかったら、絶対ダメ。というかそもそも……」
そもそも『私、姫草柚羽を一夜好きにできる』という賭けはあくまで私と鈴見総次郎の間で交わされた約束だ。
私が勝てば『鈴見デジタル・ゲーミングの販売サイトに掲載されている、姫草打鍵工房に対する誹謗紛いの事実無根文言を削除し、今後も会社が不利益を被るような情報発信の禁止』というのが条件。
こちらが一方的に受けている被害に対しての解消と、私の体。
この二つを天秤にかけていいのか。
納得できないことはあるが、会社を守るためなら、我が身などいくらでも――いや、いくらでもは無理だけど――賭けようじゃないか。
という、ついついの勢いもありつつ、口車で賭けに載ってしまった。
だから決して!!
決して、私達のパーティーがもし鈴見総次郎に勝ったとしても、パーティーの中の誰かが『私を一夜好きにできる』という話ではなかったのだ。
――なかったんだけど。
空気の悪いギルドメンバー達が妙に一致団結してやる気を出しているあまり、私もうやむやで頷いてしまった。
こちらにも非はある。
事の整合性よりも、鈴見総次郎に勝てる確率を少しでもあげたいと、利を優先してしまったのだ。
――よく考えてみればずっとそうだ。ヴァヴァで上を目指すために姫プレイを始めたり、レアアイテムにつられてあれやこれやをしてしまったり。
反省するべきだろう。ただ今からさっきの話をなかったことにするのは無理だ。
そんなことをすれば、今は三人がそれぞれ言い合っているのが、きっと徒党を組んで私への反抗体勢に変わるだろう。
三対一になってしまえば勝ち目はない。それはもうわかった。
オフ会に誘われたときも、さっきのキスバレのときもそうだった。
――私にできるのは、なんとか自分の身は自分で守る逃げ道を確保することくらい。
「ここは公平に四人で競える方法にしよう。ほら、アズキさんも言ってた貢献度でいいんじゃない?」
『……公平なのは、わたしも賛成です。ただ貢献度というのはなんでしょうか?』
ルルに聞き返され、私も言葉に詰まった。
ヴァヴァにおいて、プレイヤーのパーティー貢献というのはよく出る話題である。
ただし一概に同じ意味では語られないし、基本的には同じ役職同士を競う場合に使うことが多い。
たとえば、他のメンバーが同程度のサポートだったときに、アタッカー職のプレイヤーが特定のモンスターにどれだけダメージを与えられるか、みたいのがそうだ。
他が同じ条件なら、アタッカーの技量によってどれだけのダメージを与えられるか数値として差が出る。
これは単純なダメージ量だったり、十分間に倒せるモンスターの数だったり、一分間に与えられるダメージの平均値だったりするが、なんにしてもわかりやすく数字で優劣が付く。
サポート職でもタンク職でも似たようなことができる。
けれどこれは同じ役職の場合での貢献度を測るのに使えるものだ。
それぞれ別の役職の場合には、同じ条件で測定できるものはほとんどなく――ここでいう貢献度がなにを指すのかは私にもわかっていなかった。
「えっと、ごめん。……アズキさん、具体案ってある? 私も役職混合で貢献度出す方法に覚えがあるわけじゃなくて」
『僕がつくった測定アプリがある。役職別の格差を誤差数パーセント以下にまで丸めて、純粋なプレイング技術、特にパーティー間の連携を数値化できる』
「……そんなものつくったんだ。すごい、けど」
パーティー間の連携を測定できるアプリ開発した割に、アズキのパーティー連携技術がいまいちなのはどうしてなのか。
――そのアプリ、信用できるの?
『んー? それってさっきアズキが言ってた、アズキが一番になるってアプリなんでしょ? それ使ってよくわかんない数字出されてもアタシ納得できないかも、なんか疑わしいし』
ノノが私の気持ちを代弁してくれた。
――うん、アズキの技術力が高い分、私達にバレないよう適当にズルすることは可能なはずだ。私は別に疑うわけじゃないけど!!
『計算式についてはすべて公開できる。納得できないなら他の方法でもいい』
「……そのアプリって私も使わせてもらえるの?」
『後で送るから、好きに使って』
「とりあえず私も使ってみてから考える、って事でいいかな?」
パーティー内の競争はあくまでおまけだ。
私の提案に反対意見もなかったので、四人の争いについては後回しとする。
「それで次のイベントダンジョン攻略、パーティーとしての目標は……私の都合で大変申し訳ないんだけど、かなり高いところにもっていっても……本当にいいの?」
大事なこと、そして覚悟のいることなので、私はもう一度三人に確認する。
「多分相手はかなり上位になる。勝つとなると百位以内を目指すことになるから……だいぶ無茶もしなくちゃいけないと思う」
無茶をいくらしても、無理かもしれない。
それでも目指すという選択を、私はみんなに取らせていいのだろうか。
『ユズさんのためなら、わたしはなんでもします』
『うんうん、ユズが賞品なのに戦わない、なんてありあえないでしょっ!!』
『勝率はゼロじゃないし、僕はユズを守りたい』
「ありがとう、みんな。……いつも私の勝手に巻き込んでごめんね。でも、本当にありがとう」
どれだけ無謀でも、あきらめない。
HPが残されている限り、勝つ可能性があるのだ。
「ただ百位以内を目指すに当たって……イベントの対策だけじゃどうしょうもないから……うーん」
イベントに向けていくつか作戦は考えていた。
ただ百位以内を目指すには、それだけでは全然足りない。
もっと基本的な部分、個々の技術と何よりのパーティー連携をどうにかしないといけない。
『ユズ、合宿しよう』
「え? 合宿って」
アズキの提案を、思わず聞き返した。




