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オンラインゲームでおっさん相手に姫プ満喫していたはずが美少女たちに囲われていた  作者: 最宮みはや【11/20新刊発売】
ギルド難航編

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第26話 こちら時価になっております。

 指の腹に、キーボードのマットな質感を感じる。私の理想を完全に再現した、刻印なしのキー達だ。


 異常な事態であれど、キーボードを触ることによって私は一つの明確な問題を見つけ出していた。


 レアアイテムをもらう代わりに、キスするなんておかしいと心に刻んでいた。


 ――だけど無料でキスしたり、体を触らせたりするほうがもっとおかしいはずだ!!


「そ、そんなユズさん、さっきは好きに触っていいって。……マカロンで」

「それはキーボードの話だからっ!! ルルさんは私の体をマカロンで自由にしていいと思うの!?」

「い、いえ……そういうわけじゃないんですけど、ユズさんも受け入れてくれているのかと……」

「誤解されるようなやりとりがあったのは認める。だから今までの分については不問とするけど、これ以上はダメだから」


 私はルルをよけるようにして立ち上がり、衣服の乱れを整えた。


「そ、そんなっ!! こんなんじゃわたし、まだ全然……っ!!」

「……全然ってこれからなにする気だったの本当」


 だいぶ本格的にいろいろやられたと思っていたのだけれど、ここから先なにがあったのかは考えたくない。私はティッシュで口元を拭って、お茶を少し飲んだ。


 やっと気持ちも落ち着いてきた。キーボードの上に左手を置いたままにしていたが、そろそろ離してもよさそうだろう。


「待ってください! 無料がダメって、お支払いすればいいってことですよね!?」


 ルルの鋭い視線にたじろいで、私はまたキーボードの上に手を戻した。落ち着いてしっかり毅然とした態度で断ろう。


 ――さっきのはあくまで言葉の(あや)だ。無料ではダメと言ったが、もちろん有料でならいいという意味ではない。


「お金……ではないんですよね。ユズさんがほしいのは、ヴァヴァのアイテムですよね?」

「え? いや、そういうわけじゃなくてね。さっきのはあくまで言葉の綾で」

「わたし、払います! わたしが渡せるものであればなんだってお渡ししますっ!! だからあと十五分だけユズさんを好きにさせてくださいっ」

「じゅ、十五分って……」


 その十五分でなにをする気なのだろうか。


 怖いもの見たさというものはあるけれど、自分の身を危険にさらしてまで試すことはできない。


「悪いけど私そんな安くないから」

「……アズキさんとはどれくらいでしたんですか?」

「え?」


 そうだ。アズキにも無料でキスされていた。あとでなにか請求しないと――いや、違うよ! ちゃんともうしないように釘を刺しておこう。


 この場を切り抜けるのが先決だ。下手なことを言って、レアアイテムを万が一たくさん用意されたら私の体がもたない。


「それよりさ、キーボードは?」

「……キーボード?」

「ねえ、ルルさん。私のキーボードを見てみたいって、言って部屋に来たんだよね? 触ってみたいって、私のことじゃなくてキーボードのことだったよね?」

「は、はい」


 そうだ。もっと大事なことを忘れていた。アズキとのキスなんて些細なことに思えてくる。


 キーボードである。私が人を部屋にあげる理由が他にあるだろうか。


「え? もしかして、キーボードあんまり興味ない? 私の部屋にあがる口実にした? 私のこと騙してないよね?」

「そ、そんなことはないですっ! 本当にすみません、そのユズさんがあまりにも魅力的で、キーボードのことが少し頭から……」

「言い訳とかいいから。キーボードのが大事だし」

「……はい。ごめんなさい」


 私がはっきりした態度と口調だったからだろう。ルルもさっきまでの危うげな瞳を押さえ込んで、しゅんっと頭を下げた。


 ――だけど本当にキーボードのが大事だからねっ!!


 反省しているようなので、これ以上は怒らないでおこう。気持ちを切り替えて、私はルルに優しくマイキーボードを紹介した。


「ルルさん、ヴァヴァキーボードで操作したことないんだよね? よかったら操作後ろから簡単にレクチャーしようか。最初は手の位置もわからないと思うし」

「いいんですか?」

「うん、そこ椅子座って。ちょっと後ろからごめんね」


 私はルルをいつも使っているデスクチェアに座らせると、二人羽織のような形で後ろからキーボードを操作した。


 ヴァンダルシア・ヴァファエリスを起動して、練習用にサブアカウントでログインする


「右手はここで左手はこっち。もちろん人によって位置は違うし、キー設定からいじる人もいるから、これは基本形ってことで」

「は、はい」

「こっちじゃなくて、画面と手見てて。で、戦闘が始まったら右手の位置だけこっちに移す。スキルで頻度高いのはここら辺のキーにショートカットで割り振る人が多いかな」

「ユズさんっ、その……ユズさんの息が首に……」


 耳まで真っ赤にしたルルが、小刻みに震えながら小声で訴えかけてきた。


「あっ、ごめん。くすぐったかった?」

「そうじゃないですけど……。ひどいですよ、ユズさん。手を出すのダメって言ったのに、こんな……っ。生殺しじゃないですかっ」

「え? ほら、ルルさんも試しにキーボード触ってみて」

「はい……はうっ、上にユズさんの手がっ」


 後ろからルルの手に、自分の手を重ねるようにして、動きを一つ一つ教えていく。実際にオフで会わないとできない指導方法だ。

 これでルルのキーボード・デビューも上手くいくことを願おう。


 とにかくその後は平和に、ルルへのキーボード操作をレクチャーして終わった。


 キスやら何やらの対価については、最後まで誤魔化すことができて一安心である。


 ――そんで本当に無事でよかったよ、私の体っ。


 一歩間違っていたら大変なことになっていた。


 だが私はまだ冷静になりきれていなかったのかもしれない。


 やはり椅子に座って、両手でキーボード前に構えてこそ本領というのは発揮できるものなのだろう。


 数日後には、ノノとのキスの約束が迫っていたのだ。


 ――あ、二回目のキス、売却済みだった。



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