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オンラインゲームでおっさん相手に姫プ満喫していたはずが美少女たちに囲われていた  作者: 最宮みはや【11/20新刊発売】
ギルド難航編

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第16話 少しだけ打ち解けましたが。

 ギルド打鍵音(だけんおん)シンフォニアムに入ってくれた三人には、だいぶ問題がある。


 だけどそれは私も同じ事だった。


 三人に変わってもらう前に、私から三人を信じてみよう――そう思い、正直に打ち明けることにする。


 ただ鈴見総次郎(すずみ・そうじろう)のことはどうしようか。


 話すべきか? 鈴見総次郎や鈴見デジタル・ゲーミング相手に、もうなにかできるわけでもない。だからことさらになにか語るべきでもないような気がする。

 姫草打鍵工房ひめくさだけんこうぼうを宣伝するという目的に集中するべきだろう。


 ただ鈴見総次郎への恨みもまだ消えたわけではない。姫草打鍵工房をバカにした罪は一生忘れるつもりもない。どうするべきか。


「みんなにちょっと話したいことがあって、いいかな?」

『ユズ、怒ってない? アタシ……えっと……』

『ユズさん、わたしでよければ何でも言ってくださいね』

『話して』


 三者三様の返事を確認して、話すことにするが念のため少し探りを入れてみよう。なにか嫌なの予感がする。これはゲーマーとしての直感のようなものだろう。


「あのさ、元彼の話なんだけど」

『ん? 元彼?』


 ボイスチャットのノノからだけ、短い声が返って来た。あとの二人からはしばらくなにもない。

 私の話を待っているのだろうか。

 しかし私はもう少し時間を置く。数秒、あるいは数十秒。


『すみません、ユズさん、元彼というのはなんの話でしょうか? ……あの、勘違いだと思うんですが、ユズさんに以前付き合っていた相手がいたということでしょうか?』

『ユズ、男と付き合っていたの?』


 というテキストメッセージと、何故かすすり泣く声まで聞こえてきた。マイクをつけているのはノノだけだから――え? ノノさん、泣いているの? 違うよね?


 ともかく、元彼の話はしないほうが良さそうだ。いや、やっぱり話す必要ないからね。


「あーごめん、そうじゃなくて……家の話で……」

『え、ユズ、さっきのはなんだったの!? 家と元彼って言い間違える!?』

「……ノノさん、聞き間違えないようにしっかり私の声聞いてね」

『聞き間違えって、アタシ以外の二人も聞いてたよ!』


 私はなにがなんでもうやむやにすると決めたので、ノノには申し訳ないが泥をかぶってもらうことにした。


 ただ悪いとは思うのであとで部屋着写真くらいは送ってあげよう。


「本題なんだけどね、私の親がオーダーメイドキーボード専門の製造・販売会社やっているんだ。だけど今いろいろあって経営状態が悪くて。それも原因の一部は私の失敗で……」


 少しだけ躊躇(ちゅうちょ)したけれど、元々私はこのために姫プレイまでしていたのだ。


 覚悟を決めて、会社のホームページのリンクをパーティーメンバーとのチャットに送る。


「これがその会社。それで、私が最強ギルドを目指している理由ってのは、私の親がやっている姫草打鍵工房のキーボードを宣伝したいからなんだ」


 私がそう言うと、ルルのマイクミュートが解除された。


『ユズさんがご自身のことを話してくれて嬉しいです。……でも突然どうしてですか?』

「どうしてって、みんなとパーティーで……ギルドで上を目指そうって言っているのに、ちゃんとその理由を話していないのはフェアじゃないと思って」

『ユズ、そんなのさー言ってくれなくてもアタシはユズとヴァヴァで遊ぶのが好きでパーティーもギルドも入ってるんだから気にしなくてもいいのにー』

「そうかもだけど……うん、ありがとう」


 このなんだか感動的な雰囲気にほだされたのだろうか、アズキまでボイスチャットで話した。


『ユズ、僕は知っていたよ』

「え?」

『ユズのキーボードからは、独特な打鍵音がしていた。叩いているキー配列によっても音の響きが微妙に違うから、キーごとに重さを変えているのもわかった。それも既存のメーカーにはない音と配列だから、オーダーメイドしているキーボードだ。なおかつ入力している文字、ゲームの操作内容と音を分析して、想定されるキーボードをオーダーメイドしてくれるメーカーは姫草打鍵工房だけだった』

「え?」

『そこの一人娘の名前も、少し調べればわかる。ただわかるのは会社だけで、ユズが住んでいる家までは特定できていない』


 アズキがそう満足げに言う。


 彼女は何故わざわざマイクをつけてまでこんなことを言うのか。


『僕も、ユズとゲームするのが楽しい』

「……私は今とても怖いです」

『どうして? 不思議だ。怖い話はしていなかった』

「アズキさんそのものが恐怖だから……」


 知られていたということは、どっちみち隠し通せるわけでもなかったのだから結果オーライということだろうか。――本当にそうか?


 そして、私の話はもう少し続く。


「宣伝するのが目的だから、今後もう少しギルドが強くなって注目されるようになったら、私は姫草打鍵工房のキーボードを使ってヴァヴァやってるってみんなに発信していこうと思っているんだ」


 具体的な方法は決めていないが、多分SNSなどを使うことになるだろう。


「もしかしたらパーティーのみんなからしたら、鬱陶(うっとう)しいかもしれないし、ゲームに関係ないこと持ち込むなって思われちゃうかもしれない……でもこれはごめん。私が最強ギルドを目指す元々の目的だから。嫌だったら、ギルドはいつでも抜けて大丈夫だから」


 ゲームをやるのに、不純な動機だと言われたらなにも反論はできない。愛想を尽かされる可能性もある。


 本当はもっと早く、ギルドを結成する前にでも言うべきことだった。


『わたしも、応援します。わたしはユズさんがどんな目的でヴァヴァをやっていてもかまいません。ユズさんと一緒にできるなら……』

『アタシも全然気にしないよー。なんだったらアタシも宣伝手伝おうか? 九条乃々花(くじょう・ののか)としてやるにはちょっといろいろ面倒な大人の事情とかあるし直ぐには無理だけどねー』

『僕も、姫草打鍵工房のキーボード気になっている。今度、買いたい』

「みんな、ありがとう」


 面と向かってだから気を遣ってくれている可能性もある。


 だけど、この問題児達のことだからそんな表面上の嘘はつかない気がした。


 変な話だけれど、そういう信頼感みたいなのがもう既にできていた。本音をぶつけ合える仲になれる――そんな気がしたのだ。


 少しだけ、ギルドとして、パーティーとしてまとまった気がする。


 もう一回と潜ったダンジョンも、ルルとアズキはテキストチャットに戻ってはいたけれど連携はさっきよりもよくなっていた。


 よかった。一歩前進できた。


 久しぶりになにか心が満たされた気がしていた。


 ――夜までは。


 その日の夜、私はヴァヴァの最新情報を流し見しようとネットサーフィンしていた。

 攻略サイトの更新されたページを流し見したり、ニュースサイトを巡回したりと、そんなとき何気なく、鈴見デジタル・ゲーミングの名前が目に入った。


『鈴見デジタル・ゲーミング、ハイエンドパソコン付属のキーボードを完全リニューアル』


 という広告がでかでかと画面の端に表示されていたのだ。


 知っていたことだ。聞いていたことだ。それでも改めて目の当たりにすると、イラッとくる。


 せっかくだし新しいキーボードが、どんなものになったのか見てみよう。どうせ、姫草打鍵工房のキーボードに比べたらたいしたことのないものに違いないけど。


 クリックして飛ばされた、鈴見デジタル・ゲーミングの販売特設サイトには、目を疑うような文字が並んでいた。


『従来まで付属していたキーボードには不評の声が多数あり、大変ご迷惑をおかけいたしました。しかし、今度のキーボードはなんと鈴見デジタル・ゲーミング初の自社制作キーボードになっております』


『安心と信頼の自社制作製品!!』


『以前まで付属しておりましたH社製のキーボードとの性能比較――下記の図通り、当社のキーボードは数倍の数値を出しております』


『多数ゲーマーから早くも絶賛の声多数。「正直今までキーボードだけは付属のものから買い替えていました。鈴見さん、パソコンは最高なのになんでキーボードはゴミなんだろうって(笑)でも今回は鈴見さんオリジナルでしょ? もう完璧なゲーミングパソコンですよ。プロゲーマーから初心者まで全員におすすめできますね」などとありがたい声をいただいております』


 ――などと書かれていた。


 H社、とイニシャル表記にはなっている。


 だけど少し調べれば以前付属していたキーボードが姫草打鍵工房の製品であることはすぐわかる。


 ――それなのに。それなのにっ!!


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