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オンラインゲームでおっさん相手に姫プ満喫していたはずが美少女たちに囲われていた  作者: 最宮みはや【11/20新刊発売】
イベントダンジョン攻略編

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第100話 クズ男に謝罪させます。

 姫草打鍵工房ひめくさだけんこうぼうの店内に入ってきたノノは、サングラスで顔を隠していた。


 服装もそれとなくおとなしめで、人気アイドルの九条乃々くじょう・ののかだとはパッと見わからない――と思う。

 後ろに立っているアズキは、並ぶとどことなくやり手マネージャー感はあるけれど。


「えっ、ノノさんに……アズキさん。二人ともどうして」

「やっと仕事が終わってこっち来たら、まだユズが忙しいってアズキから聞いてとりあえず合流したんだけど」


 後ろでアズキが、私のスマホを片手に頷いている。


 そういえば、二人に連絡するよう頼んでいたけれど、アズキのスマホはまだ二階の事務所でいい感じの場所に隠れていた。だから私のスマホを使って連絡してくれたみたいだ。

 それはもちろん問題ない。


「話聞いたらすごいことになってるみたいだし、アズキは待ってろって言うけど、アタシおとなしく待ってるとか無理だから来た!」

「いや……来たって言われても……」


 すごい勢い任せだな。この人、自分が人気アイドルだって自覚ないよね。変なもめ事に巻き込みたくないんだけど。


 ――まあもう一人は、私がバイト先で誰かと二人きりになるってだけで、お店へ忍び込んでキャリーケースに隠れてのぞき見しているからな。すごいメンバーを揃えてしまった。


 最後の一人も盗撮とストーカー容疑の前科あり。


 かくいう私もクズ男相手に自分の体を賭けてしまうような人間なので、あまり棚に上げてどうこう言うつもりはない。

 でも、できたらもう少し常識のあるメンバーがほしい。


 考えてないけど、新メンバー募集するとしたら最優先項目だ。


「柚羽、あの子は……? 沙夜さよちゃんも一緒みたいだけど」


「えっと、小倉おぐらさんと同じでゲームの友達。紹介遅れちゃったけど、この子も。ほら、家に友達呼ぶって言ってたでしょ」


 と私はノノとルルをまとめて紹介する。名前とかは、まあ今度でいいか。


「それで、ユズ。……これってどういう状況なの?」


 私と母とルルがいて、それから鈴見親子と秘書の田嶋たじまさんの六人が一階の店内に揃っていた。そこにノノとアズキが増えると、棚が片付けられていない店内はかなり窮屈に感じられる。


「えーっと、手短に説明すると……」


 ルルとアズキも含めて、私はざっと今までの経緯を説明した。


 鈴見親子が突然来て賭けのことで勝手な言い分を押しつけてきたこと。

 母も間に入って、会社同士も加わって契約書をつくったこと。

 賭けに勝ったら、鈴見総次郎が私に襲いかかってきたこと。


 それから鈴見総次郎に謝罪させようとしているんだけれど、まるで反省の色がないこと。


「……ユズ、アタシの事務所でお世話になってる弁護士の人とか紹介するから。訴えよ」


「えっ……う、うん。まあ、そうだよね」


 ノノの反応ももっともで、多分普通に訴えるくらいのことはされている自覚がある。ただ未遂で襲われたのは二回目だからな。もう一人も訴えたほうがいいんだろうか。


 まあルルのことは置いておいても。


「柚羽、母さんもそのつもりだから」


 と母にまで背を押された。


「待ってください。どうか考え直してくれませんか? 正式に訴えなんて起こせば、お互い費用も時間もかかります。もちろん鈴見デジタル・ゲーミングには顧問弁護士もおりますし、そちらがそのつもりであれば対応させてもらいますが」


 今回の内容だと刑事裁判とかになるんだろうか。詳しいことはわからないけれど、私が訴えて直ぐ解決できる話ではないのも確かだろう。


「ここは示談という形でどうですかね? 慰謝料はもちろん払わせていただきますし」

「娘にこんなことをされて、お金で解決なんて……」


 母は納得できないようだったが、私としては面倒なので裁判どうのを起こす気もなかった。

 ただ鈴見総次郎を、このまま親の金で許すのはあり得ない。


「まず謝ってください」

「なんだね? ……もちろん謝罪という意味での金額は、十分用意するが」

「そうじゃなくて、鈴見総次郎さんですよ。今回の私にしたこともですけど……姫草打鍵工房にしてきたこと、謝ってください」


 私のはっきりした言葉に、鈴見柳太郎は顔をしかめた。それから、わかりやくため息をついて、


「総次郎。謝るんだ」


 と言う。


「だからなんで俺が!」

「……いいか、お前がしたことは間違っていたんだ。姫草打鍵工房との提携を打ち切るよう言ったことも、賭けのことも、それからその後のことも……謝るんだ。これ以上、私の手を(わずら)わせるな」


 あまり誠意の感じられる言い回しではなかったし、あのバカ息子を教育するには手ぬるいと思った。


 それでも鈴見柳太郎は、こちらの言い分をある程度は受け入れたようだ。


「いいじゃねぇかよ、裁判でもなんでもよ! やってやろうぜ、ウチの顧問弁護士だったら俺が悪くねぇってちゃんと証明してくれるはずだろ! どうせこいつらじゃろくな弁護士も雇えねぇだろうしよ」

「鈴見さん、本気で言ってるんですか?」

「さっきの動画見ろよ。俺がちょっとこの女にじゃれただけじゃねぇか。軽く押し押しただけで。知ってんだろ? ちょっと前まで俺達、付き合ってたんだぜ。これくらい普通だろ。むしろそれで俺は殴られて、縛り上げられたんだぞ! こいつらのほうが謝るべきだ!」


 こいつは。


 私が何か言おうとしたら、横で母が拳を握りしめているし、ルルもキャリーケースを持ち上げていたので、二人の肩を一応つかんでおいた。


 鈴見総次郎を、殴り飛ばして済ませたくない。


 ――こいつを黙らせる方法は他にもあるはずだ。鈴見総次郎の自己肯定感がへし折って、客観的に自分を見直してもらわないと話にならない。


 鈴見柳太郎が納得している以上、ここから先はハッタリでもいい。まずは鈴見総次郎に負けを認めさせれば。


「動画なら、他にもありますよ。……アズキさん、スマホかノートパソコンであの動画と音声流せる?」

「パソコンならある」


 そういえばスマホはまだ二階か。アズキは私の頼みを聞いて、背負っていたリュックからノートパソコンを引っ張り出してくれる。


 アズキが、私と鈴見総次郎が賭けをすることになった通話の音声を再生する。聞き返すと、頭を抱えたくなる自分の考えなさにあきれてしまうけれど――。


 次にお店から家への移動中、私が鈴見総次郎に絡まれたときの動画も。


 鈴見総次郎には一度どちらも見せているが、母や鈴見柳太郎は初めて見聞きするはずだ。あまり母見せたいものではなかったが、やむを得ない。


「鈴見さん、この二つも忘れてないですよね? これだけ揃って、まだ言い逃れできると思います?」

「か、関係ねぇ! 俺だって殴られた被害者だっ!!」

「いいですよ。鈴見さんが殴られて縛られたとこまで含めて、今までの経緯とこの動画……ネットに全部上げて、みんなに誰が悪いか判断してもらいますか?」


 ――もちろん、そんなこと軽はずみにはできない。


 ネットでの告発は、一歩間違えれば名誉毀損やらプライバシー侵害になりかねない。鈴見デジタル・ゲーミングの有能弁護士とやらと戦うつもりはないから、あくまで脅しではある。


 ただこのバカに、自分の愚かさを教えるだけだ。


「ユズ、告発用の資料なら準備がある」

「え? ……なんで? ……で、でもありがとう」


 アズキのノートパソコンに、今回の経緯がまとまった画像ファイルが表示された。なんでこんなものがあるのか。


 ――もしかして、告発用に前からつくっていた? ……なにかあったとき、鈴見総次郎を脅すために? ……なにかってのは、私が賭けで負けてたときとか。


「お前がそんなもんネットに貼っても、誰も見向きもしねぇだろうが! 言っとくけどな、俺のフォロワーは千人超えてんだよ。てめぇみたいなカスが言ったことなんて、デマだって俺が言えばフォロワー達が――」

「んー? それならアタシが宣伝してもいーんだけど? アタシ、フォロワー五百万人いるけど、鈴木さん、それだけの数の人にあなたのしたことが知られたら、この先の人生すっごく生きにくくなると思うよ?」

「はぁ!? お前誰だよ、フォロワー五百万人!? 嘘ついてんじゃねぇぞ!!」

「嘘じゃないし、今なんか投稿しようか?」

「えっ、ちょっとノノさん……」


 カシャっとノノが自撮りして、そのまま写真を投稿してしまう。「ほら」とこちらに画面を見せてくると、今撮ったばかりのノノの写真と「やっと仕事終わったー! 今日はこれから友達の家で遊ぶー!! 女子会だよっ!!」というメッセージが並んでいた。


 写真にはサングラス姿のノノと姫草打鍵工房の店内が映っているものの、棚だけだから特に特定等の問題にもならないと思う。


 人気アイドルが軽はずみに変な写真あげたら、騒ぎになりかねないからやめてほしい。――アイドルが来たキーボード専門店とかで、姫草打鍵工房が人気になったらどうしてくれるのか!! ……せめてもうちょっと上手いこと看板が見切れてたり、ロゴ入りのエプロンをノノに着せるとか……ってダメダメ、下心で余計なこと考える場合じゃなくて。


「お、お前が……九条乃々くじょう・ののか!? はぁあ!? なんでここに九条乃々花が……」

「っと!! 今はそれ関係ないから置いておきますけど!! ……鈴見さん、あなたさっき聞いてたらサークルでもゲームでも居場所なくなっちゃたみたいですよね。それでこれがネット上で何百万って人に見られたら、もうネットにもリアルにも居場所亡くなっちゃうんじゃないです? ……これでもまだ、そんな態度続けるつもりですか?」


 もちろん、ノノのアカウントから鈴見総次郎の告発なんてさせるつもりはない。


 名誉毀損とか以前に、「なんでアイドルがこんな話を?」とファンを混乱させてしまう。それこそ事務所にも怒られるだろう。


 ただ鈴見総次郎みたいな、上辺の数字でマウントを取るような男には効果的な脅しになったようだ。結局、自分が上だと思っているから私の話を聞かなかったのだろう。

 そう思うと、ノノの威を借りて鈴見総次郎をたしなめる私もかっこ悪いけれど、今回は特例だ。


「五百万……クソッ……なんでだよ、なんでユズハの知り合いに……クソッ」


 鈴見総次郎もことの重大さが、やっとわかったようだ。デジタル世代はネットでさらし者にされるのが一番効果あるのかもしれない。もちろんそれは個人だけの話ではなく、


「鈴見さんの人生だけじゃなくて、鈴見デジタル・ゲーミングの評判も地に落ちると思いますけど」

「総次郎、お前の負けだ。謝るんだ」

「親父っ……ちくしょうっ!!」


 父親にドスの利いた声でにらまれて、鈴見総次郎がやっと頭を下げる。ただ謝罪と言うより、頭と首が斜め下に移動したような姿だ。


 ――全然、足りない。それに。


「誠意感じられません。言っておきますけど、今回のことは弁護士に相談して、しっかり落とし前付けてもらってもいいんですよ」

「おいっ!! 謝ったら終わりだろうが!!」

「……それは賭けの話で、鈴見さん強姦未遂は別の話ですよね?」

「ふざけんじゃねぇよっ!! そんなもんはウチの弁護士がっ……」


 形だけでも一度負けを認めた鈴見総次郎の言葉には、先ほどまでの自信も力もなかった。


 私が断言できる話ではないけれど、これだけ証拠もあって、目撃者もいるんだから、未遂ってことで罪状が軽くなっても無罪なんてことはないと思う。


「実刑ついたら、ネットで晒される以上にこれからの人生大変になると思いますよ? 当然、あなたの父親の会社にも迷惑かかるんじゃないですか?」

「て、てめぇ……っ」


 散々『鈴見デジタル・ゲーミング』の名前で好き勝手言われてきたのだ。今度は私が社名を的に適当言ってもいいだろう。


 ――実際問題、こういうのも脅迫とかになるんだろうか。まあ細かいことは多めに見てほしい。秘書の田嶋さんもさっきから鈴見総次郎の言動にドン引きしているっぽいし、黙っててね。


「申し訳ないが、先ほども言ったように、今回の件は示談という形でお願いできないだろうか? ……息子に前科がついては、会社の評判にも影響しかねないのでね。それ相応の金額は当然用意させてもらうつもりだ。幸いなことに、今回は未遂ですからな。お互い話し合いで済ませたほうが、時間もお金も無駄に使わずに……」


 鈴見柳太郎が話に割って来た。


「……金額のことは、そうですね。相場くらいもらっておきましょうか」


 お金なんていらない、なんて言える人間じゃない。会社にかかった迷惑分の補填にもならないだろうけれど、鈴見家からふんだくれる分はもらっておこう。


「ただそれだけじゃ、納得できません。誠意を見せてください。それから、鈴見さんの……息子さんにしっかり(しつ)けつけてください」

「誠意とは……」

「さっきの謝り方じゃ全っ然、伝わってきませんでした。あと、息子さんが原因ですけど、正直親の教育も問題ですし、鈴見柳太郎さんも息子さんのあんな話を信じて、ウチの会社にいろいろ迷惑かけてきたんで……わかりますよね? 二人でちゃんと謝ってください」

「……わ、私は関係ないはずだ。責任は息子に」


 寝ぼけたことを言うので、私はノノに目配せする。


「アズキにもらった画像と動画、あとルルからもらった動画も一緒に投稿すればいいの? 鈴見デジタル・ゲーミングってタグもメッセージにつける?」

「ま、待ってくれ!! ……それはお互いの為にならないと思わないか? 当然だが企業に不利益を出されれば、私ももちろん法的な処置を執らせてもらう」

「え? だったら私も法的な処置取りますよ? 示談とか別になくていいんですけど?」

「わかった!! 謝るっ!! 私も悪かった!!」


 インターネットに一度情報を発信したら、どういうことになるのか。一応これでもパソコン関連の会社の社長だし、想像が付いているのだろう。


 私のことを名誉毀損だとか営業妨害だとかで訴えたところで、発信した情報が事実である以上、会社にとって取り返しの付かないこととなる。

 最低限の社会常識のある私には口だけでしかないが、それでも脅しとしては十分だった。


 鈴見柳太郎が息子の頭をつかんで、深々と頭を下げる。だがまだ足りない。


「……キーボードのパーツ、床にばらまきましたよね。キーボードと同じ目にあってくださいよ」

「き、キーボードと同じ目? そ、それは……」

「言わなくてもわかりません? 土下座してください。二人で」

「お、俺がなんで……クソッ!!」


 鈴見総次郎はまだ何か言おうとしたが、横で父親が大人しく膝をついたことに観念したようだ。私がにらみつけると、すごすごと床に膝と付く。


「私と、母と、仲間達と、姫草打鍵工房と、全世界のキーボードに頭下げてくださいっ!!」


 鈴見親子が、不格好な土下座を披露する。


 鈴見総次郎に踏みつけられた可哀想なキーボード達のことを思うと、頭を踏みつけ返してやりたいくらいだけど復讐はなにも生まないから頑張って耐えた。


 ――キーボード達も、きっとそこまでは望んでいないだろう。


 あとは躾けだな。

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