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魔王合体エヴィルドライ  作者: 南ノ森
覚醒!!魔王合体エヴィルドライ
7/28

防衛!!疾走合体エヴィルツヴァイ・ウォルフ(前編)

 関所での戦いから数日後、宵ノ国では着実に復興が進み、人々は次第に活気を取り戻しつつあった。

 しかし、街は修復出来ても、戻らないものもあった。

「もう!また花壇をこんなにして……花は摘まないでってネーゲルには言ってあるのに!!」

 ヒューゲルは困っていた。何故なら、ネーゲルが墓参りに行く度に、持って行く花束を花壇から拝借していたからだ。

 しかし、横からフルークがやって来て新しい花の苗を持ってくる。

「大目に見てやんなよ。あの子も、大切な家族を亡くして傷付いてるんだ」

「だとしても、花くらいはお店で買って欲しいものです!!」

 ヒューゲルも、新しい苗を手に取ってひとつひとつ丁寧に植えていく。フルークは、その隣に座って花壇を見ながら語り始める。

「この花壇はね、ホイレン卿の提案で設置されたんだよ。あの人、レイレス王子が初めてここに来た時に、元気で優しい魔王様になって欲しいからって色々考えてくれてたのさ。だからだろうねぇ……大好きなお爺ちゃんの、大好きな花が植えてあるって思って、ここから取った花を花束にしてたんだろうさ」

 それを聞いたヒューゲルは、しばらく思案して深くため息を吐く。

「まったく……幼馴染なんだから、辛い時はちょっとくらい頼りなさいよね」


 その頃レイレスは、メーネとゼーエンたちと情報の共有を行っていた。

「で、だ。国を襲って来たあの機械……外側はアイゼンソルダートと同じ風に作られているが、中身はまるっきり別もんでな。あの構造なら2、3日必死こいて訓練すれば、素人だろうと歩行くらいなら容易だろうな」

 メーネはこの数日、宵ノ国を襲った機械と、それと戦ったエヴィルアインの解析をレイレスに任されていた。

「成程、どうりで兵隊でもない人間が乗れた訳、か……」

「だがやっぱり気に食わねぇ!ヤツらは何のために和平を結んだ次の日にこんな頭の沸いた事を……信じた俺様がバカだったぜ!!」

「でも、あんさんも人族は信用ならないとあの場で息巻いてたでありんしょう?」

「ゔっ……あ、ありゃあただのパフォーマンスだ!あれに反論出来なきゃ協定なんざ結ぶ気は無かったんだよ!!」

 ゼーエンに図星を突かれて慌てて言い訳をするメーネ。しかしそれを見たレイレスは早く話を進めて欲しそうに咳払いをする。

「……それで、エヴィルについては何か分かった事は?」

「……いや、何も。装甲については、未知の金属としか言いようがないな。いつの間にか傷が無くなっているし……動力についてもサッパリだ。試しにウチの隊員に動かして貰おうと思ったが、そもそも出入り口もねぇから入る事すら出来ねぇ。アンタ、アレをどうやって動かしている?」

「どうって……こう、えい、やー!って……」

「いや、分からんが……??」

 レイレスのボディランゲージに戸惑うメーネ。それを見たゼーエンはなんとなく意図を汲み取る。

「つまりは自らの手足と同じ動きをする、と言いたいのでありんしょ?」

「そう、それ!」

 レイレスが指を指すも、ゼーエンはそれを邪魔臭そうに払う。

「つまる所アレでありんしょう、『何も分からない』事が分かった、と」

「み、身も蓋もない事を言うんじゃあない……」

 正論を突きつけられるその姿は、残月ノ郷の長の威厳など何処へやら、まるで首根っこを掴まれた子猫のようであった。

 その様子をレイレスは傍目で見ていたが、その後ろを見知った人物が通るのを見て、つい声をかけた。

「あれ……おーい、ネーゲル!!」

「あ……レイレス……」


 ネーゲルを見つけたレイレスは、彼女を一度城へと連れ帰ってヒューゲルと共に庭園のガゼボでお茶を飲んでいた。

 いつも元気なネーゲルだったが、あれから数日間メイドの仕事にも顔を出さず、それどころかレイレスとヒューゲルの前にも姿を見せる事がなかった。2人はその事を心配していたのだが、大荷物を背負ったその姿を見て目を丸くしていた。

「どうしちゃったんだよネーゲル、その荷物は……」

「なかなか顔も見せないから心配したんですよ!!」

「……あのね、2人とも……アタシ、村に帰ろうと思うんだ……」

「えっ」

 それを聞いて2人は驚いく。確かに最近の彼女は塞ぎ込んでいたが、普段の彼女を知る2人にもその言葉が出てくる事など想像していなかった。

「あ、かっ勘違いしないでね!ちょっと、心の整理がしたくって、さ……しばらくしたら、また帰ってくるから……」

 彼女は席を立ち、荷物を手にして背を向ける。その立ち姿に、まるで見えない壁に隔てられているように錯覚してしまう。

「それじゃあ……ね。ごめんね、2人とも……」

 そう残して、ネーゲルは宵ノ国の城を後にした。レイレスとヒューゲルには、彼女の気持ちを尊重し、ただそれを見送るしか出来なかった。


 一方、暁ノ国の王室ではクレイが無数の資料を漁っていた。と言うのも、これまでの事態に対し、ディステルへ是非を追及するための武器になる材料を集めているのだ。

(目ぼしい資料は粗方集まったが、奴の怪しい動きを問えるものは無さそうだな。奴の管轄の兵器事業を攻めれば何かあるとは思ったのだが……)

 クレイはため息を吐いた後、資料を置いて紅茶を口に運ぶ。

(あとは機械部品の搬入数の明細か……数は特に怪しい所は無さそうだな)

 パラパラと簡単に資料をめくるクレイ。その時、ふと搬入明細の最後の1枚のとある部分に目が止まる。

「いや……成程、これはもう少し精査する必要がありそうだな」

 クレイは席を立つと、その資料を抱えて王室を後にした。


 宵ノ国の某所。そこには、人狼ライカン族が暮らす小さな村があった。

「……おや、もしかしてネーゲルちゃんじゃねえけ?帰っとったの?」

 畑仕事をしていた老婆が、道を歩くネーゲルに気がつく。

「あ……おばちゃん、久しぶり、だね……」

「ホイレンさんの事、大変じゃったねぇ。慰めにもなんねけど、これ持って行きんさい」

 そう言って老婆は、両手いっぱいに採れたての野菜を持たせる。

「あっ、ありがとう……」

「ええてええて!とにかく、気が済むまでゆっくりしてきぃよ」

 老婆は優しくネーゲルの背中を押すと、再び畑の方へと戻っていく。

「……なんだか懐かしいな、こういうの」

 ネーゲルは帰ってきた事実を噛み締め、実家のある方へと足を運んで行った。


 それからネーゲルは、久々の生まれ故郷の空気を堪能した。帰ってくるのは3年ぶりだったが、見れば見るほどに変わりのない風景に安心感を覚える。

「3年前は……あ、そっか。お向かいのおばあちゃんのお葬式の時だっけ」

 そう思いつつ畑道を歩いていると、目の前に見知った老人が小岩に腰を掛けていた。

(あれって……村長さんかな?なんだか具合悪そうだけど……)

「大丈夫ですかーっ!!」

 ネーゲルは駆け寄って見てみると、その老人は息を荒くし、滝のような汗を流していた。

「うぅっ、み……水……はぁ、はぁ……水、くれんか……?」

「えっ、あっ!ほ、ほら!水!!はいっ!!」

 ネーゲルは水筒の蓋を開け、老人の口へと手早く運んで水を飲ませた。

 それからしばらく、老人は充分な水分を補給し息を整え、申し訳なさそうに頭を下げる。

「っかぁ〜!!いやいや、面目ないねぇ。こんな暑い日に、まさか水を持ってくるのを忘れてしまうとは」

「もう〜、熱中症になるとこだったじゃん!村の長が行き倒れでポックリなんて洒落んなんないよ!!」

「あはは、すまんすまん!」

「も〜……」

 ネーゲルは呆れつつも、安堵して笑う。だが、そんな彼女の笑みに影を見た村長は静かに語りかける。

「……お前さん、無理はしとらんか?」

「あー……ちょっと、ね」

「……ホイレン卿の事、残念じゃったの」

「……うん」

「人族は、憎いか?」

「……うん。だって、じーちゃんは人族に殺されたから……」

 押さえ込みながら、溢すように言葉を返す。だが、その言葉は涙と共に溢れ出してくる。

「でも……でもアタシ、じーちゃん殺した奴の事、死んで良かったって思っちゃった……それに、仇を打ってくれた時も、無責任にありがとうだなんて、酷いよね……」

 小さく啜り泣くネーゲル。そんな彼女の吐露を静かに聞いていた村長は、胸元からハンカチを取り出して渡した。

「……やった事には取り返しがつかん。無論、言葉であれどうであれ」

「っ、だったら……どうすりゃあいいのさぁ」

「どうすりゃいいかねぇ、本当に。じゃが、これだけは確かじゃ」

 村長は立ち上がると、ネーゲルの前に膝を突いて両肩に手を置く。

「向き合って行くしかない。目を背けても着いてくるのなら、尚更のぅ」

 親身に語る彼の腕には、未だ消えぬ古傷が刻まれていた。


 その頃宵ノ国の教室では、レイレスがヒューゲルのスパルタ授業を受けていた。

「……であるからして、魔脈の通り道を利用した通話方法が確立され、個別信号を認識し……」

 しかし、当のレイレス自身はまるで上の空のように物思いに耽っていた。

(ネーゲルのやつ、本当に戻ってくるよな……?確かに、唯一の家族を目の前で亡くしたらああもヘコむだろうけどさ。やっぱ一言くらいは頼って欲しかったなぁ……)

「はあぁ〜……なんだかなぁ〜」

 頭を掻きむしりながら呻くレイレスの頭に、まるでダーツの如くチョークが突き刺さる。

「いっ……ッでェエエ!!」

「コラ!そこ集中しなさい!!」

(ったく……こんな時でもヒューゲルはいつも通りだなぁ!!)

 呆れるレイレスだったが、そんな彼女も胸の内ではネーゲルの事を思っていた。

(ネーゲル、あなたなら必ず乗り越えられます。本当は明るくて元気な、あなたなら……)


 その夜、ネーゲルは実家の自室で横になり、昼間に村長から言われた言葉を思い出していた。

「……向き合う、か……」

 これまでの事が、頭の中をぐちゃぐちゃと巡ってくる。目の前で大好きな祖父が死んだ事。その仇を取ってくれた事に大層喜んでしまった事。喜びのままに心無い事を言い、その事を未だ謝れていない事。

 様々な感情が胸を通って喉からしゃくり上げて出てくる。

 滲み出した涙を拭い寝返りをうつと、昼間に村長からもらった大きなスイカが視界に入ってくる。帰った時にみんなと食べるようにと気を利かせてくれたらしい。

「……早く帰らなきゃ、なぁ……」

 ぽつりとそう呟いて、静かに眠りにへついた……。


 翌朝、宵ノ国が陽に照らされ始め、民たちがゆっくりと目を覚まし始めた頃。未だ目を覚していない者も居る中で、城の中でだけは各々が騒々しく走り回っていた。

 通信兵が、暁ノ国からの緊急魔脈信号をキャッチしたのだ。

「おい、みんな集まったか!?」

「え、ええ!多分みんな居ると思うけど……」

「そんなに慌てないでおくんなまし」

 レイレスや視察に来ていた者たちを含めた人員が集められたそこには、いくつかの鉄の箱と、その上に乗ったひとつのガラスのはまった箱があった。

「モニター用意完了!ダイヤル合わせ良し!映ります!!」

 通信兵が信号の示した番号にダイヤルを合わせ、モニターのスイッチを入れる。すると、ガラス面に映像が映し出されていく。そこに映し出されていたものとは……。

「……!!こ、ここって……」

『宵ノ国でのうのうと寝食をしている魔族の諸君、朝早くに失礼する!!』

 映し出された風景に、いきなりひとりの男が入り込んでくる。その男は軍服を身に付けていたため軍人であるようだ。

『今朝方に信号を送ったのは他でもない、今ここに広がる人狼ライカン村を、我々が丸ごと人質に取った事を伝えるためである!!』

「なにっ!?」

 一同はモニターにしがみつくような勢いで声を上げる。よく見れば、画面に映る人狼ライカン村の周辺には、均等な距離を保ってアイゼンソルダートが数体立っていた。

「おいっテメェ!!いったい何のつもりだ!!今がどんな時だと思ってやがる!!」

「め、メーネ殿!こォれはマイクに繋がっていないからァして向こうには聞こえてないのであァアる!!」

 画面に向かって捲し立てるメーネをホルンがなんとか諌めるが、画面の中の男は要件を続ける。

『我々の要求はただひとつ!!魔王の出頭に他ならない!!でなければ、この村を飛翔機で爆撃する!!』

「なっ!!」

「し、正気か!?」

『以上……!』

 一同が困惑している間に、相手の男は通信を切ってしまった。

 それから一瞬、静寂が場を包みこむも、立ち上がったレイレスの一言がそれを破る。

「……僕が行くよ」

「そんな、レイレス王子!!いけません!!」

「ああそうだ、んな野郎の言う事なんざ信用出来ねぇ!!それにお前、脚が震えてるじゃねぇか!!」

 メーネが指した通り、レイレスは決して覚悟の上で名乗り出た訳ではなかった。むしろ、心細さに表情が引き攣ってすらあった。しかし、レイレスにも引けない理由がある……。

「あの村には僕の大事な友達がいる。そうでなくても、あそこに住んでいる民たちを危険に晒す訳には行かないんだ……」

 しかし、そこにゼーエンが扇をぱんと叩いて前に出る。

「その必要はありんせん。要は先手を打てれば良いのでありんしょう?」

 ゼーエンはそう言うと、通信室の窓を開けてそのまま地面へと飛び降りる。

「ちょっ!!いったい何を……」

 レイレスは慌てて窓から顔を乗り出すが、その横でメーネが顎の立髪を撫でながらニヤリとする。

「ほう、さては千里眼を使うのだな」

「せ、千里……??」

 レイレスが困惑していると、ゼーエンの周囲に風の流れが集中し始め、やがてそれが『気』のような輝きを放ち始める。

 そして、横に細く伸びていたゼーエンの瞳がカッと見開かれた。

「ゼーエンの特技の千里眼はな、魔脈の流れを追って遥か彼方の景色を眼下に投影する妙義だ。これで奴らの指揮所を探ればあとは片付けるだけだ」

 メーネが説明している間にも、ゼーエンはこちらへ向き直って結果を報告する。

「村の周囲にヴァルキリーヘッドが25、村の東側、南南西、北西の3箇所に10機編隊の飛翔機を停めた指揮所がありんした」

「でかした!!じゃあ次は俺の番だな!!」

 メーネは間髪入れずに通信機を取り出し、ゴーレムライダー隊へ指示を飛ばした。


 所代わり、先程の映像は暁ノ国でも確認されていた。

「……ディステル、これは何の冗談だ!!」

「おや、そんなにアレが面白かったですか、兄上?」

「戯けるな!!貴様のやっている事は捜査の範疇を超えている!!」

 クレイの剣幕が、作戦室にけたたましく響く。しかし、ディステルは小馬鹿にするようにニタリと笑う。

「……この件は後ほど議会で問答するとして、貴様にはまだ問い詰めねばならない事がある。楽しみにしておくのだな」

「それはそれは、兄上の御好意に感謝いたします」

 ディステルは怪しげに笑い返し、再びモニターを注視する。

(ディステル、私は兄として、何より王としてお前の事を裁かねばならん。残念だよ)

宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。

読んでいただきありがとうございました!

後編もお楽しみください!!

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