襲来!!魔王降臨エヴィルドライ(後編)
『……な、なあ……なんつーか、急に静かになってねぇか?』
同時刻、ロッソとブルゥルはそれぞれ愛機の『フランマスターク』、『ヴァッサースターク』に乗り込んで、城に1番近い壁の手前で警護をしていた。
『ん〜?じゃあもう魔王なんて倒し終わったんじゃないの〜?』
『だとしたら魔王軍もとんだザコだったって事ったな。あーあ、俺の出る幕なんかハナっから無かったって訳か』
『ああ、そうだなァ。確かに、滅茶苦茶ザコだったぜェ?』
退屈を持て余していた2人の前に、突然上空からエヴィルドライが舞い降りてくる。そして、次の獲物と言わんばかりに舐め回すよう睨みつける。
『な……っ!?テ、テメェ!!まさかたった1機であの軍勢を退けたってェのか!?』
『退けただァ?ブッ潰したと言って欲しいねェ!!ヒェアッヒェアッヒェアッ!!』
『なぁっ、マジかよ……まさかあの2人も……』
動揺するロッソだったが、対してブルゥルは余裕そうに笑ってみせる。
『ふ〜ん、面白いじゃん。最近さぁ、ボクの周りに骨のあるヤツなんて居なかったから、退屈凌ぎには丁度よさそうだよねぇ……いや、違うな』
そう言うと、ブルゥルのヴァッサースタークは後ろ手に握っていた杖を宙へ蹴り上げ、宙返りしながらキャッチして杖の先を向ける。
『新しいオモチャ、見ぃつけた!イヒヒヒヒ!!』
『チッ……ブルゥルがマジになりやがった。こうなると合わせんのダルいんだよなぁ』
そう言いながらも、ロッソのフランマスタークも相手に剣を向ける。
『栄光の七騎士、水の騎士ブルゥル。まあ、このくらい覚えとけば充分だよね。だってボクが壊しちゃうからさ……イヒヒヒッ!』
『同じく、火の騎士ロッソ!面倒なんでさっさと終わらせッぞ!!』
『クキャキャ……同感だァ!!』
エヴィルドライは『ツェアシュテールング』を振り回しながら2機の方へと飛び込む。だが、それにフランマスタークが立ち向かい剣を構える……しかし、先に攻撃を仕掛けて来たのはブルゥルのヴァッサースタークだった。
『魔技、『カタストロフ・コンプレッション・シュナイデン』!!』
ヴァッサースタークは手前に立つフランマスタークの脇から杖型の魔装『カタストロフ』を突き出し、先端から高水圧の刃を放ってエヴィルドライの右肩を貫いて切断した。
『むッ……!?味なマネを……』
『あッれぇ?そんだけ?まだまだ遊び足りないんだけど?』
『おいおい、あんり独り占めしようとするんじゃねぇぞ?』
一歩身を引くエヴィルドライを、嘲笑うように2機が挟む形に立ちはだかる。
『ケキキキキ……キサマら、こんなものでもうアタシに勝つ気でいンのか?』
『じゃあ勝ってみせろよッ!!』
エヴィルドライの後ろに立つフランマスタークが、構えた剣を振りながら迫り来る。
『魔技、『ファキュラ・グリーレン・シュナイデン』ッ!!』
フランマスタークの魔装『ファキュラ』は、刀身を真っ赤に燃え上がらせながらエヴィルドライへと斬りかかって行く。エヴィルドライはそれを片足で受け止めるが、刀身が触れている箇所から炎が燃え移ってしまう。
『このまま焼き尽くす……ッ!!』
『ナメんな!!』
エヴィルドライは片足が燃え上がるのも気にせず掴んだまま飛び上がり、もう片方の足で相手の頭部へと蹴りをかます。
『うおっ!?クソがよッ!!』
そして、宙返りからの左手着地を利用して再び『ツェアシュテールング』を手に取る。
『チッ……デカいクセして身軽に動きやがる……!!』
『問題ないよ。むしろやりがいがある』
ヴァッサースタークが再び『カタストロフ』を槍のように構える。
『『カタストロフ・コンプレッション・シュナイデン』……!!』
高水圧の刃が『カタストロフ』から吹き出すと、それを縦横無尽に振り回してエヴィルドライを攻める。エヴィルドライはそれをひらりと交わしていくも、全てを避けきれずに高水圧の刃で斬り刻まれて装甲に傷を増やしてしまう。
『ふん、なかなかやるじゃあねェの……!!』
避け続けるエヴィルドライだったが、ヴァッサースタークが『カタストロフ』を振りかぶったたった一瞬の隙を見つけると、素早く懐に飛び込んでそのまま蹴りを繰り出して吹き飛ばし距離を作った。
『そらよッ!!』
『くっ……これはなかなか、壊しがいのあるオモチャだ……』
ヴァッサースタークが得物を構えるのに合わせて、フランマスタークも同じく構える。それを見たグローセスは、あえて出方を伺うような素振りを悟らせないようヴァッサースタークへと斬りかかる。
『ッシェアァ!!』
『甘い』
しかし、振りかぶった左手は『カタストロフ』に払い除けられ、胴体と首筋、そして最後に足払いを繰り出され転倒してしまう。
『その程度!!』
エヴィルドライは起き上がって斬りつけようと試みるも、再び『カタストロフ』を突き立てられて地に伏せてしまう。そして、左手を蹴飛ばされて『ツェアシュテールング』を手放してしまった。
その後も、踏みつけられたり、足蹴にされたり、更には杖で突きを喰らわされたり……一方的な攻撃は続いていく……。
『ほらほらどうしたの〜?まさかもう終わりとかほざかないよねぇ??』
『まあ、所詮は大した事なかったっつー訳だ』
ブルゥルが飽きて来たのを察したロッソは、ボロボロに傷付いたエヴィルドライへと歩み寄り、『ファキュラ』を突き立てて刺そうと振り下ろす。
『解体してテーブルに並べてやんよおォッ!!』
『そうなるのはテメェの方だがなァ!!』
だが、振り下ろした『ファキュラ』はエヴィルドライの右腕によって受け止められてしまう。
そう、先程斬り落とされた『右腕』でだ。
『ファキュラ』を突き立てた事によって姿勢が低くなったフランマスタークは、頭部にエヴィルドライの蹴りを見事に受けて仰け反り、隙を見たエヴィルドライは何事も無かったかのように立ち上がって再起する。
『ぐぁッ!!』
『右腕が再生した……?あの機械、どんな構造になってるの……?』
『ヒェハハハ!!まさか遊んでいたつもりが自分が遊ばれてたなんて、悔しがってる顔が見えないのが惜しいねェ!!クキキキ……』
よく見てみれば、エヴィルドライは右腕のみならず、先程まで与え続けたダメージすらも全て綺麗さっぱり回復していた。
『バケモンめが……!!』
『七騎士としてこんな仕打ち、許していい筈がない……!!ロッソ、アレやろう』
『アレか……さっさと終わらせてぇって事だな!!』
2人は頷くと、エヴィルドライから充分な距離を取ってそれぞれの魔装を構えた。
『魔技、『ファキュラ・グリーレン・シュナイデン』ッ!!』
ロッソが技を繰り出すと、『ファキュラ』の刀身から伸びた炎がエヴィルドライを包み込む。
それにより、次第にエヴィルドライの操縦席の内部は高熱に包まれ、カンカンと金属が焼けて変形する音が響き始めた。
そして、それに続いてブルゥルも技を唱える。
『魔技、『カタストロフ・コンプレッション・シュナイデン』!!』
『カタストロフ』から放たれた高圧の放水は、燃え盛るエヴィルドライの方へ真っ直ぐ伸びると、その機体に触れた瞬間に激しい爆発が起こり、周囲にとてつもなく熱い水蒸気が巻き起こった。
『これで……今度こそヤツは終わりだぜ……!!』
『……いや、まさか……!?そんな……事は……!!』
しかし、水蒸気が晴れていくとそこには、無傷のままの……否、再び『無傷な状態まで再生した』エヴィルドライが何事もなく存在していた。
『ヒャヒャヒャ……楽しかったぜェ……?だが、もうそろそろ幕引きにしようや』
エヴィルドライが翼を広げると、纏っていた水蒸気が全て吹き飛び、視界がクリアになる。
だが、その前に水蒸気に紛れて近付いていたフランマスタークが『ファキュラ』を胴体に向かって振りかぶる。
『『ファキュラ・グリーレン・シュナイデン』ッッ!!』
技を繰り出した『ファキュラ』は、狙い通りにエヴィルドライの胴体を真っ二つに斬り裂いた……かと、思われた。
だが、実際にはなんとエヴィルドライは上半身と下半身に分離した状態になり、その上半身は背部の翼によって飛行していた。
『なっ!?』
『ケヒャヒャ、まだまだァ!!』
上半身状態で飛行しているエヴィルドライは、唖然とする2人へ狙いをつけて両の掌から光弾を放つ。
『もうなんなんだよお前エェ!!』
『ロッソ、熱くなり過ぎないで……!!』
2人はなんとか光弾を退けようとするも、今度はヴァッサースタークの手にする『カタストロフ』に何者かが掴みかかる。
『グルルルル……』
『!?な、なに……』
否、それは『カタストロフ』に噛みついていた。
噛みついていたのは、まるで狼のような形状をした機械であった。その突如現れた狼型の機械の出所について、彼らには思い当たるものがひとつしかなかった。
『この機械犬、何処から……まさか、ヤツの脚が……?』
『グルルルルロロロウ!!』
『ケヒャヒャヒャ!!』
その狼型の機械はヴァッサースタークを軽々と放り投げた後、降下してきたエヴィルドライの上半身と再び合体して完全な姿へと戻る。
放り投げられたヴァッサースタークは、回避に専念して疲弊し動きが鈍くなったフランマスタークと衝突して積み重なった状態になってしまう。
『きゃァ!!』
『ぐアァ!!』
『へへへ……出よ、『ツェアシュテールング』ッ!!』
そして、エヴィルドライは瞬時に2機の目の前へと飛び込んで『ツェアシュテールング』を振り上げた。
『ッぶねぇ!!』
『きゃッ……ろ、ロッソ!!』
ロッソはブルゥルを庇う為に機体を起こし、咄嗟に『ファキュラ』を構えて防御を試みようとする。……しかし、『ツェアシュテールング』は直前で鎌形態へと変形し、その上機体の体格の違いからくる腕のリーチ差によってその刃はフランマスタークの首筋から胴体までをひと刺しで貫いてしまう。
『ロ……ロッソォ!!』
『3匹目ェ……!!』
そして、そのままフランマスタークの胴体を斬り裂いて撃破した。
『あ……あぁ……アンタ……許さないッ!!』
怒りに燃えるブルゥルは『カタストロフ』を突き出して攻撃を行うも、その直線的で単純な突きは簡単に鎌形態の『ツェアシュテールング』に絡め取られてしまい、更に、先程噛み付かれたダメージで負荷のかかった箇所から思いっきり折れてしまった。
『そ、そんな!!』
『ザコがッ!!』
そして、すれ違う形で『ツェアシュテールング』を振り回し、ヴァッサースタークの胸部から胴体にかけて一閃を繰り出した。
『なんで……ぼ、ボクら2人でいっしょに村を出て、やっと七騎士になれたのに……』
『テメェらにゃァよォ、覚悟ってモンが足りなかったのサ……!命懸けで戦う覚悟がよォ!!』
ヴァッサースタークは、ただ立ち尽くしたまま斬り裂かれた所から崩れていく。グローセスはそれを背にしたまま、再び城の方へとエヴィルドライの歩みを向け始める。
『これで4匹目……さァ、残りは犬ッコロ3匹と御大将の首、とくらァ……』
『たのもォ!!』
クレイ、ディステル、ガーベラの待つ城門前。その手前の壁が、突然大きな音を立てて爆発した。
『なっ、何事です!?』
『……来た、か』
爆煙が晴れると、そこには護衛のアイゼンソルダートの残骸を引きずるエヴィルドライの姿が現れる。どうやらその手に引きずった残骸を、壁に打ち付けて破壊した様子だった。
『ケキャキャキャ!!御大将の首を貰いに来たぜェ』
『キサマ……何故父上の首を狙う!!』
ディステルは斧状の魔装を構えて警戒する。しかし、グローセスは心底どうでもいいような素振りで残骸を放り投げて返す。
『めんどくせーからヤダ』
『な……っ!?き、キキキキサマぁ!!もはや城を目前にして今更ァ……!!』
『そもそもさァ、ご丁寧にお前らと1人1人相手にすんのはカッたルかったんだ。怪我したかネェんだったら、道開けンのは今のうちだぜ?』
『い……言ってる事とやってる事がまるっきり真逆ではないですか……』
ディステルとガーベラは困惑し取り乱す。しかし、クレイは落ち着いた様子で一歩前へ出て問いを投げかける。
『して……もし譲らぬと答えれば、キサマは我らとて殺すと申すのか』
『……そりゃァ愚問っつーモンだナ』
『……そうか』
答えを聞いたクレイは、もはやこれ以上の問答は不要と悟って剣を抜く。
『では……我ら暁ノ国の王族、そして栄光の七騎士の三冠衆、クレイブラット・デメルが相手をしよう』
『同じく三冠衆、ディステル・デメル……!!』
『同じく、ガーベラ・デメル……参ります!!』
ディステルとガーベラも、戸惑いながらもそれぞれの魔装を構えて名乗る。
『威勢のいいこったなァ!!』
グローセスは『ツェアシュテールング』を振りかぶると、クレイのゲルドゼーレへと一直線に斬りかかる。しかし、それをガーベラのブロンゼーレが槍状の魔装を突き出して防いだ。
『あなたの真の目的は何ですか!!この国を攻めて……そこで何を得ようと言うのです!!』
『さァね!!ただ、こっちにも気に食わない事は山ほどあるんでねェ!!』
『なら……捕まえて問い糺すのみ!!』
槍との攻防を繰り広げるエヴィルドライに、シルバゼーレが斧を突き出して割って入る。ブロンゼーレはそれに対し素直に引き下がって立ち位置を変える。
『魔技、『ヴート・ドネ・ディフュージョン』!!』
シルバゼーレの魔装『ヴート』から、無数の雷が放たれる。その雷は、城壁や地面などに当たると更に分裂してエヴィルドライに襲いかかる。
『コイツからは逃げられんぞ!!』
『逃げる必要なんかねェ!!』
迫り来る雷撃に対し、エヴィルドライは何一つ臆する事なく全てをその身ひとつで受け止める。
『なっ!?此奴、正気か!?』
『へっ!悪ィね、コイツは貰ったァ!!』
エヴィルドライのスリット状の目が光ると、背中の翼が展開し、周囲に発生していた雷撃を吸収していく。
そして、翼の中心に位置する瞳が光ると、そこから先程吸収した雷撃が3機へ向かって程走って行った。
『『カウンター』だッ!!』
『ぬオォッ!!?』
3人は跳ね返ってきた雷撃をどうにか回避するが、それに伴い自然と相手との距離が空いてしまう。
この状況で再び動いたのは、武器のリーチ差で有利なガーベラのブロンゼーレだった。
『『タイフーン・シュネル・アングリフ』!!』
ブロンゼーレの魔装『タイフーン』の矛先から、機体の全身を纏うように風が発生。そのまま高速でエヴィルドライへの背後へと向かって突撃して来る。
『覚悟ッ!!』
後ろを向いていたエヴィルドライは、超高速で迫り来るブロンゼーレに反応しきれずに回避をする事が出来なかった。そして、その『タイフーン』の矛先はエヴィルドライの胴体まで届いてしまう。
だが……。
『もらいましったッ!!』
『甘ェんだよッ!!』
その槍は胴体を貫いておらずにただ掠めただけであり、その上『タイフーン』はしっかりとエヴィルドライに掴まれてしまっていた。
『な……』
咄嗟に距離を取ろうとするも、それよりも早くエヴィルドライが掴んだ『タイフーン』を振り回した事により、手を離すことが出来なかったブロンゼーレも同時に振り回されてしまい、接近を試みていたシルバゼーレの方へとそのまま投げ飛ばされてしまう。
『きゃああぁっ!!』
『ぬおっ!!ガ、ガーベラ!しっかりしないか!!』
かなりの勢いで衝突した2機は、突然の事に体制を立て直すのに手間取っていた。
その一方、エヴィルドライが2機を相手にしている間にクレイのゲルドゼーレが間合いに入り剣を突き出していた。
『とゥア!!』
『なんの!!』
エヴィルドライはゲルドゼーレの突き出した剣のガードを握って防ぐ。しかし、捉えたと言わんばかりにゲルドゼーレはエヴィルドライの腕を掴んで技を繰り出した。
『『ハイリヒト・ブレンデン・ドルン』!!』
力が拮抗する中、ゲルドゼーレの魔装『ハイリヒト』の刀身から眩い光の棘が飛び、逃げられないエヴィルドライの全身に突き刺さる。
『くッ……!!』
『『ハイリヒト・ブレンデン・ドルン』……』
更に追い討ちをかけるように、今度は刀身から生える形で光の棘が伸びてエヴィルドライに突き刺さる。更にダメ押しと言うように、既に『ハイリヒト』を押し込んで深く深くと刺し込んでいく。
『どうだ、逃げられまい』
『逃げる、訳ャあ……』
『ならここで死するが良いッ!!』
動きを止められたエヴィルドライへと、再びシルバゼーレとブロンゼーレが得物を振り回して接近してくる。しかし、エヴィルドライもやられまいと『ハイリヒト』のガードを強く握りしめたまま投げ飛ばそうと試みる。
『クッ……ソが!!ウザってェ!!』
しかし、なかなか持ち上がらないので仕方なく『ヴート』は腕で、『タイフーン』は体で受け止める。その結果、もはや蜂の巣状態になってしまうが、それでもグローセスは余裕の笑みを浮かべる。
『へっ……こんだけホネがなきゃァなあやっぱ!!』
エヴィルドライが再び翼を展開すると、周囲に旋風が巻き起こり始める。そして、それが激しい上昇気流となり次第にその機体が浮き上がり始める。
『なにっ……!?』
『こ、この状態の機体を浮かせてしまうとは……!!』
『くぅ……っ!このままじゃ、持ってかれてしまいます……!!』
やがて、エヴィルドライへ得物を突き刺していた3機も釣られて浮き上がる。
『コイツ、無理やり振り払う気か!?』
『いいや、違うねェ!!こう、すンのさ!!』
ぶら下がる3機を連れ、エヴィルドライは高く飛び上がる。その上、3機が落ちないように両手と片足でしっかりと掴んだまま飛行していく。
そして……充分と言える高度まで辿り着くと、今度は地面に一直線に降下し始める。
『ダアァッシャッシャッシャッシャッ!!』
『お、落ちます落ちます!!うわあぁぁぁ!!』
『正気かキサマあァァァ!!』
もはやただの金属の塊となった4機は、そのままもの凄い衝撃で地面に激突して衝撃波を撒き散らす。
その衝撃により、無数の砂利と金属の破片が散らばり、周囲にあった壁や城の一部はボロボロと吹き飛んで剥がれていく。
やがて……土煙が晴れると、2つの影が立ち上がった。
『む……うゥ……。これはなかなか、力技が過ぎる……』
『ケキャキャキャ!!テメェもよく立ってられるじゃねェか!!』
そこに立っていたのは、エヴィルドライとゲルドゼーレだった。
先程の墜落により、シルバゼーレとブロンゼーレはかなりの距離まで吹き飛んでしまったようで、そのとてつもない衝撃によって操縦していたディステルとガーベラは身体を強く打ち気を失っていた。
『さァて……これで残るはテメェだけだな』
『……して魔王。最後にキサマに問おう』
クレイは再び『ハイリヒト』を構えると、最後の問いかけを投げる。
『キサマにとって、正義とは何だ』
『決まってンだろ……?そんなモン、問いかけるだけ意味がねェ!!』
それを聞いたクレイは、やはりと言うように何処か納得すると、顔に手を覆い唐突に高笑いを吐き出した。
『ク、ククク……アーッハッハッハッハッ!!ああ、そうだな!なれば私が下すはひとつのみ……』
クレイのゲルドゼーレは、もはややっととも言える動きで、それでも懸命に『ハイリヒト』をエヴィルドライへと突き出す。
それに対し、エヴィルドライも『ツェアシュテールング』を構えてそれに立ち向かった。
『『ハイリヒト・ブレンデン・ドルン』ッ!!』
一方その頃、彼らの戦いの行方をひとり待つ者がいた。それは勿論、この国の王であるデルフィニウム・クラウン・デメルである。
デルフィニウムは、我が国の精鋭と子供たち3人の勝利を信じて玉座に腰をかけていた。しかし、その表情も外から漏れ出てくる激闘の音に険しくなる。
「むうぅ……このままでは本当に駄目かも知らんな……」
すると突如、激しい衝撃と共に城内の壁がガラガラと崩れ始め、そこから外の光が漏れ出して土煙を照らし出す。
「なっ!!何事だ!?」
壁が崩れた先を見てみると、そこにはまるで皮を剥くのに失敗した果物みたいに凄惨な状態を晒したゲルドゼーレの姿と、その頭部を掴んで城の壁に押し付けているエヴィルドライの姿があった。
「こ、これは何事なのだ!!?い、いったい、クレイブラットはどうなったのだ!?!?」
デルフィニウムが困惑していると、土煙の向こうから何者かが鼻歌を歌いながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
「ふんふんふ〜ん……
ここは愉快な動物園〜
7匹の猿がおったとさぁ〜」
その歌声の主はどうやら女のようであった。
「1匹目は聞かザルで〜
見て見ぬふりが大得意〜
2ィ匹目は金好きで〜
奴隷を売っては大儲け〜」
やがてその姿が見えると、その凶悪な顔がデルフィニウムをキッと睨んでニタリと笑う。
「3匹4匹仲良しで〜
腕を試して大虐殺〜
残りの猿はお利口で〜
パパが大好き独裁家〜」
そして、その200cmはあろう身体を目と鼻の先へと差し出すと、左手の鎧の爪を彼の頬へと食い込ませた。
「ひっ……」
「最後に園長人でなし〜
下民にゃエサは勿体ない〜……っとくらァ」
「な、なんだキサマはァ!!」
女は問われると、喰ってしまうぞと言わんばかりにその大きな口を開く。
「キキキキ……不味そうなフォアグラだなァ!!だがまあ……テメェが冥土に逝っちまう前に教えてやってもいい」
そう言って女は、頬にかけていた左手を喉元に滑らせて力を強める。
「ぐ……っ……」
「まずひとつ、アタシら魔族をコケにしその命を好き放題弄んだ事。ふたつ、下民から莫大な税を強いて上流階級が美味いメシを独占出来る情勢を作り、貧民から目を背けて飢餓に追い込んだ事。そして3つ……自国の民にさえ身勝手な法律を押し付けて理不尽な処刑を繰り返している事だ」
「な……にっ……」
女の言葉を聞いて、デルフィニウムの額に脂汗が浮かび始める。
「だ……だが、法は法だ……!!それに従えぬなら、罰を受けるのは当然だ……!!」
「なァにが罰だァ?歳食って色目の使えなくなった女は嫁に相応しくないから不敬罪だなんて、そんな法律がよおォく罷り通ったなァ!!」
脂汗に唾が混じる。だがそれでも、デルフィニウムは青い顔をしながら反論する。
「だ、黙れ!!私が決めた法律だ……!!私がこの国の、正義だ……!!」
それが、その言葉が、完全に引き鉄となった。
女は怒りに燃える修羅の如き形相でその哀れな男の様を睨みつけると、その身体をとんと軽く突き放す。
「『正義』という言葉を軽く扱う奴に、王の資格はねェ」
そして、その左手のよろいの爪を振り下ろすと、まるでギロチンにかけられたかのように簡単に男の首がぽとりと落ちた。
王の最期と言うには、あまりにも呆気なく。
「…………」
女はその哀れな最後を静かに見下ろす。その間、自らが作り出した静寂がひたすらに続いた……。
次の瞬間、までは。
「魔王……打ち、とったり……」
「……っ、く……っ」
見下ろした視線の先に突然、鉄色に光るものが血飛沫と共に飛び出してくる。
後ろを振り返ってみると、そこには身体中に切り傷を作り血を滲ませているクレイブラットが、満身創痍の表情で背後から剣を突き刺していた。
「ク……キキキ……コイツぁ傑作ってモンだ……」
こうして、魔王襲来による暁ノ国襲撃事件は幕を閉じた。
王の居なくなった玉座には、魔王を討伐した実績を買われ長男のクレイブラットが着くこととなった。
そして、クレイブラットの提案によって人類と魔族との間には長い和平交渉が繰り広げられる事となった。
それから16年後……。暁ノ国と魔族との間に、停戦協定が執り行われる。
はずであった。
宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。
読んでいただきありがとうございました!