海だ!!青春のトライシュート(後編)
それから3人は、浜辺から少し離れた場所にテントを張り座って会議を始めた。
「それじゃあまず、あのケートスの処遇から決めよう」
「ええ。そもそもそこから話し合わなければ始まらない事でしたね……」
「というか、レイレスはどうしようとしてたのさ?」
「え、僕ぅ?」
問い返されて黙るレイレスだったが、2人に睨まれて黙っていられなくなり、観念して答える。
「えーと……よく考えてなかったや」
「ちょっとそれどういうこと!?信じらんないんだけど!!」
「全くです!!なんの解決策も無しに海へ駆り出そうとしていたなんて!!」
「だ、だって!!あん時は助けになりたい一心でいっぱいいっぱいだったんだ!!後先考えなかったのは悪かったけど……」
しょぼくれるレイレスだったが、2人は呆れつつも苦笑いして返す。
「まあ、レイレスらしいっちゃらしいんだけどさ」
「ええ、それもそうですね。ともかく、今は策を練りましょう。そのためにはまず、色々と整理しなければなりません」
「あ、うん、そうだね……」
気を取り直し、3人は事の解決に向けて協議を始めた。
「そもそもだけどさ、どうしてケートスはこの海域に来たのかな?」
レイレスは2人に投げかける。それに、ヒューゲルが手を挙げて発言する。
「はいっ!おそらく、季節の変わり目によって移動した魚を追って来たかと思われます」
「なるほど、つまりは食い意地が祟って、本来の生息地から逸れてしまったと……」
腕を組んで考える3人。先程の推測はなかなか的を射ているようで、あまり良い解決法の種にはならなかった。
「うぅん……もし元の生息地へ戻すのなら、餌で釣る……とか」
「あんな大喰らいを釣れる餌なんてどこにあるのさ?」
「じゃ、じゃあ、エヴィルドライで抱えて行くなんて……」
「今し方、力負けして手こずったばかりじゃないですか」
「っっっっ〜〜〜…………っづぁあもう!!どうすりゃいいのさぁ!!」
「まあまあ、落ち着いて」
思わず熱くなり頭を掻きむしるレイレス。それを宥めるネーゲルを他所に、ヒューゲルは自分の案を提示する。
「……やはり、駆除が1番手間のない策だと思います。漁に支障が出ている以上、獣害案件で駆除対象に指定出来るはずです」
「そんなのかわいそうだよ!!あの子はただ迷い込んだだけなんだよ!?」
ネーゲルは感情に任せて大声で主張するが、ヒューゲルはあくまで冷静に、優しく語り諭す。
「ネーゲル、そう思う気持ちは分かります。ですが、感情だけではどうにもならない事もあるのです」
「そ、そうだけど……」
「民の命とケートスの命……どちらも変わりのない、尊い命。ですが、やがてどちらかの命の問題に発展する事になりかねません。ならどうすべきかは、分かるでしょう?」
「う、うぅ……」
押し黙り俯くネーゲルの手を、仕方がないと言う風にヒューゲルは包み込むように握る。
しかし、レイレスはまだ結論を決めかねていた。
「でも、それは最終手段だ。まだ答えを出すのは早いと思うんだ」
「確かにそうです。ですが、他にやりようが無ければ……」
「そこなんだよなぁ……」
レイレスは倒れ込み天を仰ぐ。
その時、不意に何かが手に触れて転がっていく。
「……ボール、か。……ボール……」
そのボールを手に取ると、何かを閃いたように目を見開かせる。
「……2人とも、まだ遊ぶ元気はあるかな?」
それから数分後、レイレスたち3人は再び愛機へと乗り込み、エヴィルドライへ合体して海中へと潜る。
『さぁて、第二幕と行きますか!!』
そう言うと、エヴィルドライは手の平に光弾を作り、更にそれをより大きく膨らませる。
『『エヴィルドライ・ハリケーン』ッ!!さあ、取ってこい!!』
そして、それを思い切ってケートスに向かって投げつけた。
『オゔッ……?』
放たれた光弾は真っ直ぐケートスへと飛んで行くと、その鼻へと思いっきり衝突する。
しかし……その光弾はぽよんと軽く弾んで跳ね返った。するとケートスはそれに興味を示したようで、再びその光弾……光のボールを鼻で弾き返した。
『オォゔッ!!』
『やったぁ、手応えありだよ!!』
『なるほど、『フェアシュヴィンデン・アウフ・ヌル』と同じ構造の、凝縮した魔力を弾性のある魔力で包んだ玉を、より凝縮濃度を薄く、より弾性を強くして生物が接触しても安全なものに変か……』
『よし、今度は分離して誘導だ!!』
次にエヴィルドライは3機に分離し、跳ね返ってきたボールに対しエヴィルアインが海上へと蹴り上げる。
『いっけぇ!!』
蹴り上げられたボールは真っ直ぐ飛んで行くと、今度は海面を走るエヴィルウォルフが尾でそのボールを打って飛ばす。
『ヒューゲル、パス!!』
『ほいきた!!』
海面スレスレを飛ぶエヴィルファルケは、そのボールを翼で打ち上げてケートスの真上まで投げ落とした。
『さあ来いっ!!』
『行けっ!!』
『行ってぇっ!!』
『ゔモオオォォォッ!!』
そして……海面から大きな飛沫が上がると、そこからケートスの巨大な体が飛び上がり、鼻先でボールを突いてトスを返して来たのだ。
『や……やった!!』
『よし、このまま元の生息地まで誘導するぞ!ヒューゲル、指示を頼む!!』
『了解です!家庭教師の経験で生物と地理は得意ですから!!』
そうして3人は、ボールをトスし続けながらケートスを元いた海域へと誘導していくのであった……。
それから2、3時間後……陽は傾き、既に空は紅に染まっていた。
その間、3人はケートスを誘導するために休むことなくトスを続けていた。
『ゼェ……ハァ……ヒュ、ヒューゲル、あと何キロォ!?』
『だ、だいたい……2、3000キロは進んだので……もう、すぐっエホッエホッ!!』
『もー!!いつまでやってればいいのォーーー!!!!』
3人の息絶え絶えの悲鳴が広大な海に響く。そんな事もいざ知らぬ顔で、ケートスは相変わらずボールで遊んでいる。
『キャぁッキャぁッ!!』
『んなろぉ〜……誰のためにこうなってると思ってんだ……?』
『あの顔は多分何も考えていないでしょう……』
もはや思考力も枯れ果てそうになりそうなその時、ふと、水面の揺れが一瞬高くなったような気がした。
『ねえ、2人ともアレ見て!!』
ネーゲルが指した先、波がうねった方向を見ると……そこには、複数のケートスの頭がぷかぷかと見え隠れしていた。
『群れだ!ケートスの群れだ!!』
『やった、合流出来たんですね……!!』
『やったあ!!』
大喜びする3人。そこに、群れから外れていたケートスからのボールのトスが巡ってくる。
『よっしゃ、これで最後だ!『ドライユニオン!!モーダス・トイフェル』ッ!!』
レイレスの合図で3機は再びエヴィルドライへと合体し、手に取ったボールに再び魔力を注ぎ込む。
『来い、ケートス!!『トライ』だ!!』
『オォゔッ!!』
意図を汲み取ったのか、ケートスは真っ直ぐにエヴィルドライの方へと向かって行くと、手に取ったボールを尾で天高く打ち上げる。
すると、魔力を限界まで充填されたボールは天空まで飛翔し、爆発して色鮮やかな火花を煌めかせた。
『うわぁ、綺麗……!!』
『まるで花火みたい……!』
見惚れていると、遠くでケートスの群れが海面から顔を覗かせてこっちを見ている。その様子はまるで、礼を言っているようにも、3人を見送っているようにも見えた。
『……帰りましょうか。お仕事も完了しましたし』
『うん、そうだね』
『これにて一件落着、ってヤツだな!』
一安心した3人だったが、ふととあることに気がつく。
『……そういえば、帰りもここから3000キロなんだよな……?』
『うへぇ……冗談じゃないよおぉ!!』
こうして3人は、無事に漁師たちの悩みをを解決して城下街へと戻って来た。
しかし、3000キロの距離を往復して来たために空には既に星が灯っていた。
そして……城内ではけたたましい雷が落ちていた。
「あんたたち、こんな時間までどこに行ってたの!!!!」
「うひぇ!?」
メイド長のフルークの怒号は部屋の外まで轟き、目の前で座らされている3人は耳を劈かれてしまう。
「まったく……ヒューゲル、あんたが付いていながらこの体たらくったらありゃしないよ!!」
「そ、それには訳が……」
「ワケもワケギもありませんっ!!だいたい、人族の軍隊があちこちに前進基地を組んで攻めを伺っている大事な時に……!!」
それを聞いたレイレスは、寝耳に水という顔で目を丸くする。
「前進基地……?なにそれ、知らないんだけど??」
「あら、言っておりませんでしたか?ともかく、こんな時だからこそいつまでも遊んでるんじゃありませんよ!!そこでしばらく反省なさい!!」
「あ、ちょっ……」
退室するフルークを他所に、きょとんとする3人。そのしばらく後、はっと我に帰って騒ぎ出す。
「……き、聞いてないんだけどォォォ!!!??」
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