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魔王合体エヴィルドライ  作者: 南ノ森
覚醒!!魔王合体エヴィルドライ
17/28

海だ!!青春のトライシュート(前編)

 残暑。それは人々に秋の香りを期待させておいて、その全てをぶち壊す許されざる季節。

 無論、それはどの地域にも均等に降りかかり、宵ノ国全域は真夏日を観測された。

 そんな最中、宵ノ国の城内ではレイレスが何やら燃えに燃えていた。

「ヒューゲル!ネーゲル!!おはよう!!」

 元気満点の笑顔で挨拶をするレイレスに、朝食の支度をしていた2人はポカーンと口を開けて呆けている。

「……おは、ようございます、王子……どうなさったのです?好物を見つけた大食猫犬グーロみたいに目を輝かせて……」

「いや分かりづらい例え!!……じゃなくてさ、昨日の晩によーく考えた訳よ!!」

「……何を?」

 レイレスは顎に手を当ててキメ顔をしながら語り始める。

「この国はこれからとてーも厳しい時期に入るだろ?そんなんで、魔王たる僕がずっとこのままじゃあ国民も安心出来ない訳さ!!」

「はぁ」

「へぇ」

「と言う訳で!!これから僕は真面目に勤勉に励み、最強最善の大魔王を目指あぁす!!」

 再び、2人が目を丸くする。

「……要するに、やっと本気になったという事ですね」

「レイレスが壊れちゃった……なんか変なものでも拾い食いした?」

「あなたじゃないんだから」

 呆れつつも、これはこれでいい方向に進んでいると、なんとなく前向きに考える事にしたのだった。


 それから何やかんやあり、朝食を済ませた3人は早速勉強へと取り掛かる。

「では行きますよ?今回はさほど難しい部分ではありませんから、ゆっくり考えてしっかり覚えましょう」

「おっしゃ!どんとこい!!」

 レイレスの明るい返事が教室に響く。それを見て、2人は本当に真面目に取り組むのではないかと思い始める。

「……では、そのノートに問題を書き写しながら、式を解いてくださいね」

「おう!!」

「授業中は静かにするんだぞ〜」

「お、ォゥ…!」

 レイレスは小さく気合を入れ、真剣に目の前のノートに向かって黒板の数式を書き出していく……。


 ーーーー15分後。


「ッだああァッ!!んなもんやってられッかああああぁぁぁぁ!!!!!!」

「あーやっぱり!!」

「逃げんなコンニャロー!!」

 窓から飛び出して逃げるレイレス。いざと意気込んだものの、やはり急には心変わりなど出来る筈が無かった。

 綺麗に着地を決めたレイレスは、何処ぞへとあらぬ方向へ向かって駆け出していく。

 それを逃さぬと2人は窓から飛び出すも、やはり相手も手だれだと言うべきか、もはやどこへ行ったのか見当さえ付かなくなってしまっていた。

「さっきは見直したと思ったのにぃ……こんのバカ王子がああぁぁ!!!!」


 その後、レイレスは城下街の路地裏まで逃げ込み、何食わぬ顔で大通りまで顔を出した。

「はぁ〜あ……気まぐれに真面目ぶっても意味ねーや。……いい魔王になりたいのは本心なんだけどさ」

 大通りで、真夏日に負けず働く民たちを見ながらそう思う。

(……そうなんだよな。僕がいい魔王になんなきゃ、ここにいる民たちも安心して暮らせないんだよなぁ)

 レイレスは、クレイと初めて面と向かって話をした時のことを思い出す。

(あの人は、国を追われてもめげずに折れていなかった。僕はこの戦いに勝って、あの人の戻れる場所を取り戻さなきゃならない……そんな気がするんだ)

 強く拳を握り、再び街の方へと目を向ける。

 だが、よく見てみれば何やら騒がしいというか、ただならない困惑が見て取れる。

「ん、なんだろ?困りごとかな?」

 話している様子を見ている内に、次第に気になってしまい話しかけてみることにした。

「おーい、どうかしたの?」

「あっ、王子!いやぁ、どうしたもこうしたもねぇんすよ!!!」

「ええ、ええ!この数日、漁港から入ってくる魚の数が少なくなってて困っちまってるんでさぁ!!」

「魚が、少ない……?」

 予想外の困りごとに驚くも、詳しく話を聞くことに。

「ええ。なんでも漁師の話じゃあ、デッケェ魔物が海で暴れ回っていて近付けないし、ソイツに魚を食われちまって店に回んねぇんですわ」

「それはかなり深刻な問題だな……」

 腕を組んで神妙な顔をしていると、両脚でネーゲルを抱えたヒューゲルが空からゆっくりと降りてくる。

「見〜つ〜け〜たぁ〜!!!!」

「げ」

 2人に見つかり逃げようと試みるレイレスだったが、ふと思いついてある提案を持ちかける。

「あー、オホン!お2人さんちょいとお待ちよ」

「なんですかその気持ち悪い話し方は」

「見よ、我が国の民が困ってらっしゃる。その問題を解決せねばならないのが王の勤めだとは思わないかね?」

「授業サボりたいだけでしょ〜?」

「ゔ」

 図星を突かれるも、問題が深刻な事には変わりないのでどうにか説得を試みることにしてみた。

「だ、だとしてもさぁ!!このままじゃあ漁師のみんなも魚屋さんも干上がっちゃうよ!!それに、そんなに沢山の魚を食べる魔物だなんて、いつか魚よりも深刻な被害が出ちゃうかもだろ!?」

「む、むう……確かに」

 その言い分に納得出来なくもないと言う風に唸る2人。そんなこんなで、2人はその話に乗ることにした。

「……分かりました。我々でこの一件、解決しましょう。その代わり……帰ったら授業の続きですからね」

「えぇ!?」

「レイレス……自分で言ったことを曲げちゃう王様なんてカッコ悪いと思うよ」

「は……ははは……」

 こうして、3人は海へと駆り出す事となったのであったーーーー。


「海だああぁ!!」

 魚屋の話の通り、普段漁師が漁をしている付近の浜辺へ来たレイレスたち。

 しかし……3人は何故か水着姿であった。

「あのー……2人とも、渋々来たんじゃないの?」

「海へ行くからには、それ相当に楽しむ権利はあるでしょう。ほら見てくださいあの煌びやかな海面を……」

 まぶしい。とてもまぶしい。

 その輝きはまるで彼らを誘っているようだ。

 既にネーゲルは吸い込まれるように海の中へと飛び込んで遊んでいる。

「あははは!見て見て、モズク!!」

 全身に昆布を巻きつけながら、ネーゲルが手を振っている。

「ああもう、ワカメまみれじゃないですか。仕方ないですね……」

 そう言ってヒューゲルも海の方へと走っていく。

「仕方ないならそのボールはいらないでしょ、って!!」

 レイレスも、ボヤきながらも笑ってその後ろへついて行った。


 それからはもうめちゃくちゃ海を堪能しまくった。

 揺蕩う波。眩く舞う水飛沫。ボールを追いかけ、水音を立てながら年相応にはしゃぐ少年少女ーーーー。

 もはや、誰一人本来の目的を忘れつつあった。

「ほら、取ってこいっ!!」

「わんっ!!」

 ボールを追いかけて走るネーゲル。その水飛沫が2人にかかって笑い合う。

「こっちです!こっちに投げて!!」

「えいっ!!」

 ネーゲルが取ってきたボールを投げる。

「うわわっ!?高すぎっきゃあっ!!」

 ヒューゲルはボールまで手が届かず、尻餅をついて派手に水飛沫を上げてしまう。

「あいててて……」

「あははは!大丈夫?」

 レイレスが手を差し出し、ヒューゲルはそれを受け取ってゆっくり立ち上がる。

「ふふっ、あーあ……羽までこんなにびしょびしょ!水鳥みたいに優雅にって訳にはいきませんね」

 ネーゲルも少し心配になり急いで駆け寄る。

「ねえ、怪我とかしてない?」

「大丈夫ですよっ!それより、早くボール取らないと流されちゃう!!」

 そう言ってヒューゲルはボールを追いかけて走り出す。2人も、そんな彼女を追いかけて走り始める。

 眩しい太陽の下……そこには、等身大の青春があった。

(こうやって笑い合えるのもいつぶりだろう。辛いこと、苦しいこと……みんな、遠い昔のことみたいに感じる……)

3人はボールに追いつき、再び投げ合いが始まる。

(このまま……戦争なんて始まらなければいいな……)

 だがその時……。

「……ん?わ、わっ!?なんだあ!?」

 突然大きな音と共に高い波が巻き起こり、3人を飲み込んでしまった。

「ぶわっ!?な、何が起こったんだ!?」

「うわわっ!?アレ見て!!」

 ネーゲルが指を刺したその先……そこには、まるでクジラのように巨大な体を浮かべて泳いでいる魔物の姿があった。

「あれは……もしや、ケートス!?」

「って事は……アレが大喰らいの怪物の正体か!?」

 3人は本来の目的を思い出し、一度浜辺へと駆け戻る。

「お出ましになったってことは、ここからが本番だな!!」

「ええ、行きましょう!!」

「うん!!」

 3人は手を高く上げ、愛機の名を叫ぶ。

「エヴィルアインッ!!」「エヴィルファルケッ!!」「エヴィルウォルフッ!!」

 名を呼ばれた愛機たちは、天空から降り立って3人の背後に立って待機。そして3人は乗り込んで海へと向かって行った。

『行くぞ!!『ドライユニオン!!モーダス・トイフェル』ッ!!』

 3機は颯爽とエヴィルドライへと合体し、そのまま海中へと飛び込んで行くのであった。


 海中へと挑んだエヴィルドライ。それに駆る3人の目の前には、全長50m程の、魚の胴体に犬の頭を持つ怪物が猛々しく遊泳していた。

『おい、この大バカ食い!!今すぐこの海域から出て行け!!』

 大声を上げるレイレス。その声に、と言うより音に反応し、ケートスは大口を開けて向かってくる。

『ヴオオオォォォ!!』

『うっそォ!?アタシらまで食べようとしてるよ!?』

『させっかよ!!』

 食らいつこうとするケートスの口を押さえ、なんとか耐え凌ごうと試みる。しかし、思った以上に顎の力が強く、押されそうになるもどうにか横へ逸れて回避に成功する。

『バグゥ!!』

『っ……ぶねぇ!!』

『また来ます、気をつけて!!』

 エヴィルドライは振り返り警戒する。対するケートスは旋回し再び大口を開けて向かってくる。

『くっ、『ツェアシュテールング』!!』

 レイレスは鎌形態の『ツェアシュテールング』を呼び出すと、その大口へ向かって鎌を振り下ろした。

 だが……。

『レイレスッ!!』

『なっ……!!?』

 突如、レイレスの身体に激しい痛みが走る。

『っがあァァッ!!』

『王子!!これは……』

『ま、また、合体不全……!?』

 そう、エヴィルドライは完全な合体を行うためには、心をひとつにしなければならない。

 もし統率が不完全であれば、その負荷は痛みとなって一斉にレイレスの身体へと降りかかるのだ。

『このままでは戦闘続行は不可!!今すぐ待避してください!!』

『く、っ……な、何がどうなってんだよ……!!』

 そうして、エヴィルドライは泣く泣くその場を退避することとなったのであった。


 それから3人は、再び浜辺へと降り立って向かい合う。

 各機から降りて負荷から逃れられたレイレスは、一旦冷静になってことの原因を探る。

 だが探るまでもなく、彼の中ではその原因の答えは出ていた。

「……なあ、2人とも。一応聞いておくけどさ……」

 2人は同じく、既に分かっているとでも言う顔でその言葉を聞いている。

「あのケートス、どうするつもりだったんだ?」

「……駆除、するつもりでした」

「……どっかに、逃がせないかなって考えてた」

「んー……やっぱりかぁ」

 3人は顔を見合わせ、困った顔で頭を捻った。

宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。

読んでいただきありがとうございました!

後編もお楽しみください!!

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