覚醒!!破壊聖剣ツェアシュテールング(後編)
『でエェェェア!!』
エヴィルドライが手にする破壊聖剣『ツェアシュテールング』の一振りが、ランタナのトパーズトロイへと降りかかる。
『フン、そんな大振りなど』
ランタナは冷静にその一振りを回避する。しかし……。
『……なっ、にぃ?』
『ツェアシュテールング』が振り下ろされた地面には、その刀身の大きさとは釣り合わない深く大きなヒビが刻まれていた。
『これは……衝撃波を放つ剣、か……?』
息を呑むランタナ。
レイレスは好奇と捉え、『ツェアシュテールング』を振り回す。
『はあアアアァァァ!!』
振り回された『ツェアシュテールング』から発せられた斬撃波は、飛び散るように周囲に飛んでいきそこら中に傷を付けていく。
『くっ!『ヴート・ドネ・ディフュージョン』ッ!!』
ランタナは回避をしつつ、魔技を放ってどうにか凌ごうと試みる。
しかし、放った雷撃は飛んでくる斬撃波によって消滅し、簡単に掻い潜られてしまう。
『は!?あ、ありえない!!魔力で発生させた雷だぞ!?』
困惑している間にも、エヴィルドライは距離を詰めて剣を振り翳してくる。
『ツェああアアァァァッ!!』
『や、やめっ……』
『ツェアシュテールング』がトパーズトロイに降りかかろうとしたその時、風の槍が上空から飛び込んでくる。
『ちぃっ!!』
エヴィルドライはそれを凌ぐため、『ツェアシュテールング』を振って風の槍を掻き消した。
『はい、残念。もう飛べるよ』
『ふッ。空はこっちの本分だ、問題ない!!』
上空で見下ろし、風の槍を連発するペルルトロイへ向かって、エヴィルドライも翼を広げて飛び上がる。
それを追って、トパーズトロイも慌てた様子で飛行を始める。
『そ、そんなものを手にしたところで何も変わらんよォォ!!』
『どうだろうなァァ!!』
音を頼りに風の槍を全て掻い潜り、エヴィルドライは『ツェアシュテールング』を構える。そしてその剣は切先を軸に展開して鎌の形へと変形した。
そしてその鎌を大ぶりに振り回すと、より一層大きな斬撃波が相手の2機へと飛んでいく。
『それがどうしたァ!!』
しかし、飛んでくる斬撃波は容易く避けられる。
回避後、ランタナとカルミアは魔装を構えてそれぞれ魔技を発動してエヴィルドライを追い詰めようと試みる。
『『タイフーン・シュネル・アングリフ』っ……』
『『ヴート・ドネ・ディフュージョン』……粉々に砕け散れッ!!』
『タイフーン』から放たれた風の槍は、『ヴート』が放った雷を纏い、稲妻の槍となり猛スピードで襲い来る。
しかし、エヴィルドライは鎌形態の『ツェアシュテールング』を目の前で回転させると、その稲妻の槍は貫くよりも前に、何事も無かったかのように姿を消してしまった。
『へっ、阿呆め!見えぬものを見えるようにしてどうするッ!!』
『な……なんなんだあの武器は!?さっきからまるで、何もかも『無』へと化すみたいに……』
その時だった。
困惑するランタナのトパーズトロイの右腕と、カルミアのペルルトロイの背面飛行ユニットが一瞬にして切断されてしまった。
『なっ!?……な、何が……』
『あー……こりゃあ落ちちゃうなぁ……』
訳も分からず戸惑っていたが、その理由はすぐに分かった。
先程エヴィルドライの放った大ぶりの斬撃波は、回避された後もしばらく滞空し、そのままブーメランのように旋回して戻って来て、そのまま謝線上の2機を切り裂いたのだ。
『ちいぃ、こんなことでェ!!』
『落ちろやアホタレ外道野郎ッ!!』
エヴィルドライはカカトを高く上げながら急接近すると、そのままトパーズトロイの肩へと思いッ切り振り下ろす。
『ぬグゥッ!!』
『エあアアアアァァァッ!!!!』
そして、そのまま地面へと向かって急降下して行き、ありったけの力を込めて叩きつけた。
『グ……あッ……ッ!!!!クッそ、がァ……』
『さあ、観念しなド屑!!』
レイレスは、足元で惨めに踏み伏せられたトパーズトロイへと鎌を下ろす。
『ま、待った!!話そう!話し合おう……!!そうすれば誤解は解ける!!』
『話す?今更何を話す?』
『めっ、命令だったんだ!!私はこんなこと、やりたくなんか全く……』
鎌の先が、より一層操縦席へと近付く。
『ひぃっ!!』
『なんつったっけな……害獣?害虫とも言ったな。クソムシとも聞こえた。そして、滅ぶ事が『最良』の『平等』で『最善』の『平和』だっけか?』
『く……っ』
『よくもまぁ口が回る事だ。あー……こうも言ったな。『議論の必要など無い』ってな』
『だ、だから誤解なのだ!!』
『誤解があったら、虐殺しろなんて命令をするの!?あなたは!!』
ネーゲルの怒りの叫びが響く。レイレスはそれにあえて押し黙って譲る。
『な、なんだお前!?』
『あなたがアタシの村を爆弾でメチャメチャにしたんだ!!みんな家も焼けて、じーちゃんの家も無くなって……』
『う、恨むんならそこの魔王を恨めばいいだろう!!ソイツが要求を飲まなかったから、爆撃する羽目に……』
『言い逃れをするなァ!!』
『ひっ!?』
『村長さんは死んだんだ!!お前の命令で来た仲間が殺した!!だからお前が殺した!!その事から逃げようとするなァ!!!!』
鎌の切先が、今度こそ命を奪わんと狙いを付けて構えられる。
『や……やめ、やめてくれ……!』
『王子、これ以上生かしておいても無意味でしょう』
『ああ、そうだな。端的に言うと『ここで死ね』と言う事だな』
『い、いやだあぁ!!しっ、死にたくない!!助けてェ!!』
『浅ましい……』
トドメを刺そうと、構えた鎌が鈍く光る。
そして、それが迷いなく振り下ろされたーーーーその時。
『お待ちなんし!!今すぐここから逃げるでありんす!!』
ゼーエンからの通信が機体内に響く。そのただならぬ様子にレイレスはトドメを刺すのをやめて指示に従う。
『た、助かっ……』
『総員、退避!!ヴァルキリーヘッド部隊は射線から即刻退避せよ!!』
『なっ!?』
ランタナの乗り込む操縦席からも、退避を呼びかける警告が鳴り響く。しかし、彼の駆るトパーズトロイはもはや身動きが不可能であった。
『そ、そんな!?まさかもう……だ、誰か!!?』
辺りを見回すが、既に動ける人員は退避していた。先程まで共に戦っていたカルミアのペルルトロイも何処かへと消えてしまっていた。
『い、嫌だあァァ!!助けてェェ!!!!』
その頃、地面に降り立って静観していたガーベラのゲルドゼーレが背面のユニットを変形させていた。
『諸君、時間稼ぎご苦労だった。このゲルドゼーレ、魔装『ベシュトラーフング』の魔技により魔族軍を掃討する』
ゲルドゼーレの背面ユニットが展開すると、魔石による眩い発光が露出し、魔力を高まらせていく。
そして、宵ノ国の防衛拠点へと狙いを付けて技を放った。
『魔技……『ベシュトラーフング・ヘレンフォイヤー・アシェ』ッ!!』
『ベシュトラーフング』の魔石が極限まで輝くと、砲身から光の柱が放たれーーーー。
一瞬にして、一直線上の物体が焦土と化した。
その距離は裕に1万mを超えており、防衛ラインはほぼ崩壊していた。
しかし、最終防衛拠点だけは死守されていた。ゼーエンの知らせを受けたエヴィルドライが早急に駆けつけ、『ツェアシュテールング』を盾にして防いだのだ。
「う、ウチとした事が、魔脈が急激に乱れて千里眼る事が叶わなんだとは……とんだ失態でありんす……!」
ゼーエンは頭を抱えて嘆く。と言うのも、先程の『ベシュトラーフング』の魔力充填によって周囲の魔脈が一時的に枯れた為に、千里眼の力が発揮されなかったのだ。
「此度の事態によってゴーレムとゴーレムライダー隊に多大な損失……面目ない」
「否ッであァアる!ゼーエン殿のご尽力によりィ我が隊はァ被害を最小限に食い止めらァれたのであァアる!!気に病む事はないのであァアる!!」
先程の光の柱から逃れ切ることが出来ていたホルンが、水筒を差し出して慰めの言葉をかける。
一方、レイレスたちはエヴィルドライから降りて状況を確認していた。
「みんな、生きてるか!生存者は!?被害状況を教えてくれ!!」
レイレスの叫びを聞き、メーネが駆けつけて報告をする。
「言いたかないが最悪だぜ。あの一瞬で兵の半分が蒸発……しかも、相手方の被害もお構い無しさ」
「そんな……クソっ」
「だが、お前さんが居てくれて助かったよ。じゃなきゃあ多分、半滅じゃ済まなかった。ありがとうよ」
メーネは軽く肩を叩いて礼を言う。それに気が抜けたのか、体力の限界が来ていたレイレスは崩れ落ちかける。
「お、おい……」
「王子っ!」「レイレスっ!」
その後ろから、ヒューゲルとネーゲルが支える。しかし、2人も体力の限界が来ており、3人同時に尻から崩れてしまう。
「あっ、いてて……」
「……なーにやってんだよ、お前ら。まあしゃあない。あんだけ頑張ったんだ、撤退の準備の間休んどけ」
そう言うとメーネは、その辺に置いてあった大きめの毛布を3人に渡して何処かへと歩き去って行った。
「あ、ありがとう……」
レイレスは小さく言うと、3人で毛布に包まって撤退準備の様子を眺めていた。
「…………」
暫し、沈黙が流れる。その沈黙に涼んでいた3人だが、ネーゲルが毛布の下でレイレスの手を握るのと同時にそれを破る。
「……あのさ、ずっと言い出せなかったんだけどね」
「……なんだよ、改まってさ」
「あの時、アタシ無責任な事言っちゃった。……してくれてありがとう、って」
「…………」
再びの沈黙の後、俯きつつも、横から顔を覗かせて口を開く。
「……ごめんね」
「……気にしてないよ、そんなこと」
「……ありがとぅ……」
そう言って、毛布に顔を埋めて表情を隠す。
レイレスは気を遣い、これ以上は何も言わなかった。
「…………」
そのやり取りを横目に見ていたヒューゲルだったが、その胸の奥に何か刺さるものを感じると、どうしても口を開く事が出来なかった。
『はあ……あひぃ……死んだ、かと……思っ……』
同じ頃、先程の光の柱に巻き込まれたかに思われたランタナは、どうにか奇跡的に一命を取り留めていた。
『いやぁ、フランマスタークがまだ動けて良かったや』
ランタナのトパーズトロイは、エンツィアの乗るフランマスタークに引き摺られるようにして救出されていたのだ。
『お、おい貴様!私を引きずるな!!』
『なんだよぅ、あんなに情けなく泣き喚いてたくせにさぁ』
『私は王直属の騎士なのだぞ、不敬だとは思わんのか!!』
『は〜あ、ダッせぇの!そもそも七騎士に任命された時点でこっちも王直属で、アンタと同じなの!それに助けられといてお礼も言えないとか、騎士としてどうなのさ』
拠点に辿り着き、エンツィアはトパーズトロイを放り投げる。
『ぎゃあ!』
『まあ命あっての物種ってヤツだね。あ、それとも助けない方がいい薬になったかな?』
『し、死ぬだろうがそれだったら!!』
『それもそっ、か!あはは!!』
エンツィアは笑い声を響かせながら、颯爽と輸送車の方へと去って行った。
それから数時間後、両軍は拠点を撤収。戦闘続行は不可能と判断して撤退した。
そして互いの戦力が整う間、戦争は一時中断される事となる。
そんな中、謁見の間ではランタナがダラダラと冷や汗を流しながらディステルの前で膝を突いていた。
「申し訳ございません……っ」
「…………」
ディステルは玉座にふんぞり返ってランタナを見下し、一息ため息を吐いた。
「ランタナよ……私は別に撤退した事に怒っている訳ではないのだ。此度の醜態の責任は皆にある、連帯責任なのだからな」
「し、しかし……私の策で出した損失。責任は私に……」
「……何か勘違いをしているな?」
ディステルは立ち上がって、ランタナの頭を踏み付ける。
「っ……くっ……!」
「私が怒っているのは、この16年間中止されていた兵器開発……その再開のフラッグシップモデル、トロイフレームの真価を発揮できずに壊した事だ」
頭を踏んだ足を、更にグリグリとねじ込むように押し付け始める。それがなんだか楽しくなってきたのか、今度はカカトで旋毛を叩き始める。
「っ、たっ!いっ……」
「いいか、貴様は、私の推薦で、騎士に、なれているのだ!私の、匙加減で、貴様の処遇など、どうとでもなると、心しておけ!」
「っ、は、はい……っ、贔屓にしていただいたご恩は忘れません……」
床に顔を押し付けられているランタナの顔は、どこか満足げに笑みを浮かべて見えた。
翌日の宵ノ国。その城の庭のガゼボの下では、談笑する4人の男女がいた。
「えーと……こっちのがネーゲルの入れた紅茶だ」
「あったりぃ!」
「この子のブレンドは、ここの城の誰よりも美味しいんですよ」
「そうなのか。では、ありがたくいただこう」
クレイはカップに手を伸ばす。しかし、痛みに一瞬動きが止まる。
「っつ……」
「父さ……」
レイレスは思わずその手を庇いそうになるが、自らが発した言葉にその手で口を覆う。
「……ははっ、父か。私が」
「あっいや、違くって……その……」
レイレスには母だけでなく、父もいない。そのため、母と親しかったクレイに父の影を重ね、ついそれが口に出てしまったのだ。
顔を赤らめて目を逸らすレイレス。その様子をヒューゲルとネーゲルはニヤけて見ている。
「な、なんだよぅ!!」
「いいえ〜、なにも〜?」
「なにも〜?」
「お、おいおい……」
笑い合う3人を微笑まし気に眺めるクレイ。それと同時に、その笑顔に面影を感じてどこか切ない目をする。
それから4人はしばらくお茶を楽しんだ。しかし、そんな時間もずっと続いてはくれない。
「そろそろ出発でありんすよ」
「ああ、もうそんな時間か」
ゼーエンに急かされて立ち上がり、横から来たフルークから上着を受け取って羽織ると、振り返って微笑む。
「もう行っちゃうのか?」
「ああ。あまりここに長居も出来ない。もはや逆賊と知れた今や、国へ戻る事もままならんからな」
「故に、中立地域であって、ウチの統治する弦月ノ森で匿う必要があるでありんす。お互い暫くは顔が出せなくなりんすが、その時が来るまでは息災でいるでありんすよ?」
「……ああ、分かったよ」
レイレスは頷き、去り行く背中を見送る。だが、どうしても後ろ髪を引かれる思いがして、つい声をかけてしまう。
「……あのさぁ!」
「……ん?」
「……秋になったら、街で収穫祭があるんだ!その時は一緒に街をまわろうよ!!」
「……ああ!」
こうして、人族と魔族の間に巻き起こる波乱は一旦幕を閉じた。
しかし、一度切って落とされた火蓋に、未だその銃口を下ろす者はいない。
果たして人と魔族は、この争いを終わらせる事は出来るのだろうか?
その運命は、未来ある3人の若者と、それに相対する7人の騎士に託されたのであった……。
宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。
読んでいただきありがとうございました!