覚醒!!破壊聖剣ツェアシュテールング(前編)
心をひとつにし、エヴィルドライを完成させたレイレスたち3人は、その圧倒的な戦闘力で『栄光の七騎士』の4人を倒した。
しかし安堵の時も束の間、暗雲立ち込める天空から『栄光の七騎士』金の騎士ガーベラの駆るゲルドゼーレが現れ、一瞬にしてエヴィルドライを地に伏せたのだ。
『な……ん、だと!!』
『ふん、やはり16年前の魔王とは大違いだな。前の魔王であれば私のことなぞ一捻りだったぞ』
『なにぃ……?』
レイレスは予想外の言葉に驚き険しい顔になる。
しかし、間髪を入れずに落雷が降りかかり、咄嗟にそれを回避する。
『ちィ!!』
『七騎士が4人がかりでこのザマとは情け無い。奴らを本気で滅ぼすという気概がない証拠だな』
そこに、もう1機見慣れない機体が斧を担いで降りてくる。
『『栄光の七騎士』黄の騎士ランタナが直々に、このトパーズトロイで害虫駆除に参る』
ランタナが名乗りを上げると、再びネーゲルの様子がおかしくなる。
『ガルルルル……』
『どうした、ネーゲル?』
『アイツ……アタシの村を滅茶苦茶にしたヤツだ』
『本当なのか?』
『うん……!アタシは一度聞いた声は忘れないから……!』
怒りに唸るネーゲルをそよに、今度は何か見えないものが横切って地面に傷をつける。
『なっ!?今の風はなんです!?』
『あーあ、外しちゃった』
そこに現れたのは、先程のものと同じタイプの白い機体だった。
『『栄光の七騎士』白の騎士カルミア……はあ、眠いからペルルトロイでちゃっちゃとかたしちゃうよ』
気怠げにそう名乗ると、七騎士の3機の機体が並び立ちエヴィルドライと向かい合う。
『我々はキサマを打ち滅ぼし、暁ノ国に安寧を齎さんと誓った。端的に言えば……『ここで死ね』』
ガーベラのゲルドゼーレは剣型の魔装『ハイリヒト』を天に掲げる。すると剣先が眩く発光し、そこから複数の光の刃が出現する。
『『ハイリヒト・ブレンデン・ドルン』ッ!!』
『マズいッ!!』
出現した光の刃は、次々とエヴィルドライへ向かって飛んでいく。
レイレスはなんとかそれを回避しようと試みるも、相手は次の手を打って出る。
『『ヴート・ドネ・ディフュージョン』!!』
ランタナのトパーズトロイが斧状の魔装『ヴート』を一振りする。
エヴィルドライが光の刃を避けた方向へと、雷が駆け抜けて進行を妨害する。それによってエヴィルドライは光の刃を複数身に受けてしまった。
『ぬぅッ!!』
それでも、残りの光の刃は拳で粉砕してなんとか逃れる。
しかし、そこに再び見えない槍が襲いかかる。
『『タイフーン・シュネル・アングリフ』……ふぁあぁ』
カルミアのペルルトロイは舞うように槍状の魔装『タイフーン』を振り回す。
鋭い風が吹き抜けると、それが目視出来ない槍となり次々とエヴィルドライの装甲に穴を開ける。
『くっ……!見えない上に殴って壊す事も出来ないなんて……!!』
『問題ありません!!』
ヒューゲルは翼を強く羽ばたかせると、土煙が舞い上がって視界が霞み始める。
すると、見えなかった筈の風の槍が、土煙を吹き飛ばして向かってくる事により目視する事が可能になった。
『ネーゲル!風の発生源を聞き分けて!!』
『ガッテン!!』
ネーゲルは耳を澄ませる。乗り手の感覚を増強させるエヴィルが3機合体している事により、彼女の聴力もより強化されているのだ。
『……居た!!2時の方向、角度60度!!』
『よし!!』
レイレスは土煙で遮られた視界の中、ネーゲルの指示を頼りに光弾を打ち出す。
そしてその光弾は見事ペルルトロイの浮遊する方向へと飛んで行くも、カルミアはそれを余裕で回避する。
『ありゃりゃ、これはちょっと厄介かも』
『害獣風情が、そこそこやるな』
『お前ッ!!その害獣だのなんだのをやめろ!!』
レイレスは怒りに訴えるが、ランタナは涼しい顔で笑ってみせる。
『害獣は害獣でしょう。我が国はキサマらのおかげでしっちゃかめっちゃかのてんてこまい、故に七騎士の再編成が必要になったのだ』
『そんなものそっちの言い分だろうが!!こっちだって民に被害が出ている!!』
『ハッ、浅ましい……』
ランタナは髪を掻き上げ息を吐くと、急に険しい表情に変わり口調を強める。
『そもそもキサマら化物に存在価値なんざねぇんだ!!畜生とごちゃ混ぜにしたようなナリしやがって、キモいんだよ!!一丁前に人様ごっこで国なんか築きやがって、虫唾が走る!!』
『なっ!?』
『テメーらみたいなクソムシが人間様と同等に扱って欲しいなんざ贅沢の『ぜ』の字さえ与える事すら勿体ない!!だからこそ、テメーらが滅ぶ事が『最良』の『平等』で、『最善』の『平和』なんだよォ!!』
『か、勝手な言い分だ……!!』
その変わりように一瞬戸惑うレイレスたち。しかし、ランタナはため息を吐いてすぐに冷静さを取り戻す。
『ふう……とにかく、もうこれ以上の議論の必要はない。あとはただここで潰すのみ』
そう言って再び『ヴート』を構える。警戒するレイレスだが、横から見えない槍が襲いかかる。
『なんでもいいけど、さっさと終わらせてよね……ふぁあぁ』
『くっそ……さっきの4人以上に訳が分からない!!なんなんだアイツら!!』
レイレスは翼を羽ばたかせると、迫り来る見えない風の槍を土煙で可視化させながら回避して接近を試みる。
『浅ましい浅ましいッ!『ヴート・ドネ・ディフュージョン』!!』
しかし、突然巻き起こった落雷が土煙の砂粒を伝ってエヴィルドライに感電する。
『グゥッ……!!』
そして、動けなくなったエヴィルドライへと風の槍が次々と貫いていく。
『グハあァァッ!!』
痛みに膝を突くエヴィルドライ。
ランタナとカルミアはトドメと言わんばかりに魔装を構える。しかし、急に動きを止めるとゆっくりと着地し始めた。
『おっとぉ……魔力が切れたようだ』
『まあ、降りたらまた飛べるし、いっかぁ……』
『な、なんだ……?どうしてトドメを刺さない?』
『多分あの機体は、背面のユニットに魔力を貯めて飛行しているようです。恐らく今は魔力が底を尽きたために魔脈から補充を行なっていると思われます。好奇かと』
『なるほどな!』
レイレスはどうにか立ち上がると、力強く踏み込んで着地した2機へ向かって駆け抜ける。
『『ハイリヒト・ブレンデン・ドルン』ッ!!』
だが、未だ飛行するゲルドゼーレによる光の刃が襲いくる。
レイレスはどうにか回避しつつ接近するが、得物をクロスに構えた2機に逆に接近され動きを封じられてしまう。
『魔技が使えねば戦えないと思ったか、能無しどもが』
『もういいから早く降参しなよ、眠いし』
『フッッッ…………ザケるな!!降参した所で殺すだろうが!!』
エヴィルドライは必死に押し除けようと抵抗するも、無駄だと分かった瞬間に策を変える。
『くっ、合体解除ッ!!』
エヴィルドライは分離してなんとか逃れると、上空へ飛び上がって再び合体し、そのまま垂直に勢いをつけてキックをする。
それに対し相手の2機は散開して回避する。
『ちぃ、これじゃあ埒が開かないな……もう一度『フェアシュヴィンデン・アウフ・ヌル』を使うか……?』
『多分、充填の時間と威力を考えれば得策ではないと思います』
『うん……それに、何回やろうとしても充填が効かないから、今はまだ使えそうにないよ』
『そうか……なら、どう対抗する……?』
にじり寄る2機を交互に睨むエヴィルドライ。その様子を勝機と捉えたのか、ゲルドゼーレも地面へ降りてくる。
絶体絶命の時が迫ってくる。その時ーーーー。
『……むっ。何か……来るッ』
雲の切れ間から光が差し込むと、そこから一振りの剣が飛び出してエヴィルドライの目の前へと突き刺さる。
『こ……これ、って……魔装、なのか……?』
『この剣、まるでアタシたちを選んだみたいに落ちてきたけど……』
レイレスはその剣を慎重に手に取ると、脳裏に声が響いてくる。
『破壊聖剣……『ツェアシュテールング』……』
『それが……この剣の名前……』
魔装、破壊聖剣『ツェアシュテールング』から力が溢れ出してくる。それを全身に感じると、機体内の魔力が急激に上昇し、先程までのダメージが回復していく。
『なにっ!?』
『あらあら、これは……』
七騎士の2人は驚愕する。
力の漲るレイレスは、手にした剣を構えて反撃の姿勢に出る。
『『ツェアシュテールング』……お前の力、見せてもらおうか!!』
その頃、宵ノ国陣営の第一防衛ラインでは、ゴーレムライダー隊がヴァルキリーヘッド部隊と激しい攻防を繰り広げていた。
『諦ァめてはならなァいのであァアる!!魔王が覚醒した今こォそ、勢いを増ァして戦うのォであァアる!!』
ホルンが大砲を放ちながら、ゴーレムライダー隊へと檄を飛ばす。その、大砲の音よりもけたたましい声に背中を押されたゴーレムライダー隊と武装ゴーレムたちは、一歩も通さないと言うようにヴァルキリーヘッド部隊を押し返して行く。
『気張れや気張れェエ!!』
『オォオー!!!!』
勢いを増す第一防衛ラインから更に後ろ……第二、第三防衛ラインよりも後ろの、最終防衛ラインである防衛拠点。
そこでゼーエンは、戦いの様子を千里眼を使って伺っていた。
(あの小童、どうやら『ツェアシュテールング』を呼び寄せられたようでありんすね……これでエヴィルドライは完全に覚醒……あとはあの3人次第……)
しかし、彼女は不安を孕んだ表情で息を呑む。
(であるが……なんでありんしょう、この拭いきれない嫌な予感は……)
扇で口元を隠しながら、心の中で勝利を祈るのであった。
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読んでいただきありがとうございました!
後編もお楽しみください!!