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魔王合体エヴィルドライ  作者: 南ノ森
覚醒!!魔王合体エヴィルドライ
12/28

追憶!!魔王奮起エヴィルドライ(後編)

 それは、私がまだ幼い子供だった頃だ。

 あの日私は、街を眺めようと城を抜け出し、壁の上へ登ったんだ。

 この日までは、私は私の国の栄華を信じていた。


 目の前に広がっていたのは、活気に栄えていた街などではない。廃墟同然の街と、死んだように街を徘徊する民の姿であった。

 私はその日、信じていたものが全て崩れ去るような衝撃に襲われ、目眩によろめいて壁の上から落ちたのだ。

 幸い、真下には屋台が屋根を張っていて大怪我をせずに済んだものの、父にこっ酷く怒られてしまった。

 そんな説教など、一切耳には入って来なかった。民を苦しめて平気な顔をしている男の言葉など……。


 クレイは差し出された熊肉を食べながら、過去の話を語った。

「なるほどなァ。するッてェとお前サンは王族で、国を変える為に頑張ッたものの、その結果殺されそうになッた、と……」

 グローセスは熊肉を齧りながら耳を傾けている。熊肉からは肉汁が溢れ出し、そこら辺に勢いよく飛び散っている。

「まあ……そう言う所だな」

「出る杭は打たれるたァこう言うこッたな。ただ独りよがりに突ッ走っても誰にも支持されねェ良い例さな」

 グローセスは最後の一口を頬張り、肉汁の付いた口を拭う。

 クレイはその言葉にはっとするも、やるせ無さに頭を抱えて嘆く。

「なら私はどうすれば良いのだ……私は間違っていたと言うのか!!」

「……んにャ、何も間違ッちゃいねェんじゃねェか?まァ、コレだけは確かだけどヨォ」

 彼女はニッと笑い、クレイに指を突き付けた。

「お前サンにャ、“覚悟”が足りンのさ」

「……覚、悟……?」

「あァそうサね。目標だけ立てて真ッ直ぐ進む事に気を取られ、ソコに立ちはだかる障害を越える“覚悟”をしなかッた。だから周りが見えずに後ろを取られンだヨ」

 得意げに語るその顔に、クレイは何処か頼もしさを覚えて表情が明るくなる。

「ま、とニかく喰え!今お前サンに必要なのは飯と薬と体力だ!!熱もあるンだからしっかり喰って休め!!」

「むぐッ!!」

 グローセスは皿から肉を取ると、クレイの口に強引に突っ込んで食べさせようとする。クレイはそれに抗えず、それを受け入れてゆっくり噛んで味わう。

(くっ、豪快なのに味は一級品なのがなんとも……しかし全く品がないな彼女は……)

 その日は肉を食し、彼女の煎じた薬を飲んで丸一日眠りについた。薬が効いていたのか、その夜はうなされる事なく眠れたようだ。


 それからの数日間、2人は色々な話をした。

 クレイの兄妹の事。父の事。国の事。そして母の事。愛していた母が、父に死刑の宣告をされた日の事……。

 クレイにとってお互い種は違えども、彼女との時間は不思議と安らぎを感じられるものであった。

「ところでグローセス。キミはずっとここに住んでいるのか?」

 グローセスの捕ってきた大ぶりのサーモンを丸焼きにしたものを、齧り付くように食べながら聞いてみる。クレイはもうすっかり痛みと熱が引いて、リハビリ程度には動けるようになっていた。

「んにャ、違う。城ン中は億劫な事ばッかりだからなァ、家出してキた」

「家出……そうだったか……。ん?城??」

 その一言に疑問を感じ、気になって一応聞いてみる。

「もしかして……キミも王家の生まれなのか??」

「生まれも何も、アタシは魔王だガ?」

「は???」

 焼きサーモンを頭から丸呑みする目の前の魔王の言葉に、王子クレイは目を丸くする。

「ま……まさか今まで私は、敵国である魔族と寝食を共にするどころか、魔王に介抱されていたとは……キっ貴様、何故言わなかった!!」

「おヤ、言ッてなかッたかな?まァ気にするな、取ッて食おうなど考えちャいねェ」

「だが貴様は、王子と知って尚私の事を介抱している……目的はなんだ!!」

 理解出来ずに強く迫るクレイ。それに対しグローセスは、何処か遠くを見るような眼差しでクレイの瞳を見つめる。

「なァんかな……戦争だのなンだの、全部が全部虚しくなッちまッてな……」

 一度ため息を吐き、洞窟の外を眺めながら話を続ける。

「お前サンの知ッての通り、戦争を始めたのはウチら魔族の初代魔王だ。とうの昔の出来事過ぎて、正直何が事の始まりなのか知らんけど、それッて結局過去の話だろゥ?」

「……戦争は、今の話だ。今の我々が、今の戦争をしている」

「そりャ分かッてるよ。でもなァ、その怨念を引きずッて何が残ると思う?恨み、復讐……その先にあるものに、果たしてそれだけの価値はあンのか?」

「それは……」

 言葉に詰まる。確かに、このまま戦って勝ちを得ても、それだけだ。

 何も言葉が出ずに黙るクレイに、グローセスは微笑む。

「本当は分かッてんだろ?お前サンにも」

「…………」

 クレイは何も言わない。しかしその目は、答えを示すように真っ直ぐであった。

 すると、そこに何者かが洞窟の入り口から顔を覗かせてくる。

「そこにおりんしたか。早く帰るでありんすよ」


「ん……っ……」

 クレイは目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。

「ようやく起きはりましたね。さぞ長い夢を見ていたのでありんしょう」

「ゼーエンか……私は、生きている……ようだな」

 辺りを見回してみると、どうやら宵ノ国の村院へ運ばれて来ていたようだ。

「……私はどれくらい眠っていたのだろう……何故、私は宵ノ国にいる……?」

「おそらく川を流れて運ばれて来たのでありんしょう。と言えど、見つけたのはあちらの国の領地内でありんしたけど」

「そうか……」

 すると、そこにもうひとり見知った人物が病室に入ってくる。

 その小柄な少年の訝しげな顔を見て、クレイは驚きに目を剥いた。

「キミは……どうしてここに……」

「…………」

 現れたのは、現在の魔王であるレイレスだった。

 レイレスはクレイの元へ歩み寄ると、静かに疑問を投げかける。

「あなたは……母とはどう言った関係なんですか?何故これの片割れを大事に持っているんです?」

 レイレスは懐から、形見の王冠を取り出す。それを見たクレイは再び驚き、胸にかけたロケットを開いて王冠の欠片を取り出す。

「そうか……どうやら話す時が来たようだな。16年前の真実と、キミの出自について……」


 16年前……命を狙われて死にかけていた私は、偶然彼女に助けられた。

 そして、彼女の介抱を受けて回復した私は、彼女と意気投合し、最終的には協力して『魔王襲撃』を計画したのだ。

 最終的には、父の首を討ち取った彼女を私が撃ち倒し、私が王座を手にすると言う筋書き……それは見事、成し遂げられる事となった。

 彼女が生き延びていた事も、全て含めて計画通りだったのだ。


 16年前の襲撃の後、兵に捕えられたグローセスは檻の中へと閉じ込められていた。

「すまない、グローセス。……傷の方はどうだ」

「あァ、もうすッかり塞がッてるよ。それに、コレはアタシが考えた計画だ。人質として捉えられるまでがなァ」

 檻の中で、余裕を持たされた鎖を揺らしながら笑う。しかし、クレイはそれを見て悲しげな目をする。

「なァに辛気臭そうな顔してンだ!お前サンはコレからが大事な仕事だろうガ!それに、もし失敗してもこんな檻なんぞ簡単にブッ壊せる、心配すんな!!」

 グローセスは立ち上がり、檻を挟んで向き合う。

「決めたんだろゥが、覚悟をヨォ……!」

「……ああ、そうだ。そうだったな……」


「……しかし、彼女は間も無く命を落とした。ひとりキミを残して……」

「……僕を……?」

 レイレスは驚きつつも、話の流れをどうにか受け入れようと泳ぐ目でクレイを見る。

「ああ。私は……私はキミをずっと見守っていた。この国でずっと外交を行っていたのも、グローセスの残したキミの成長を見届けたいただその一心だったのだ……」

「……あなたは、母の事が好きだったのですか?」

 その言葉に、クレイは微笑む。

「……どうだかな。それも曖昧な程に、彼女とは短い関係だった」

 一度、深い吐息を吐く。そして、未だ動揺の中で震えるレイレスへ言葉を投げかける。

「キミは、どうして戦っている?」

「っ!……僕は……」

 レイレスは考えるが、言葉が出ない。これまでの戦いの殆どが、自らの意思よりも、使命感に迫られて戦っていたからだ。

「僕、は……魔王……だから。だから、民は守らなくちゃ……その為の、力があるから……」

 必死に言葉を探しながら、言い訳をするように口を開く。しかし、その涙目が見るに耐えられず、クレイは目の前の少年を抱き寄せた。

「っ!!」

「すまない……本当に、すまなかった……辛かったろうに、全てこの私が不甲斐なかったばかりに……」

 クレイの力強く、そして優しい抱擁にレイレスは次第に安心感を覚え、同時に父性を感じる。

(なんだろう……どうして、この人はこんなにも優しいんだ……)

 レイレスが落ち着きを取り戻したのに気付いて、寄せる身を離して目を合わせるクレイ。そして、その真っ直ぐな目で再び語りかける。

「もし戦う勇気が無ければ、無理をしてまで戦わなくていいんだ」

「…………」

 戸惑うレイレスだったが、本心では既に答えは出ていた。

「……勇気なんて、ないよ。怖いし、辛いよ。それでも僕は、みんなが幸せになれない方が嫌だ」

 その純粋な言葉に、クレイは感銘を受けつつも、同時に危うさを覚える。

 しかし、彼の意思を尊重してそれを受け入れ、言葉を続ける。

「ならば覚悟を決めろ。目の前に立ちはだかる命、背負う命……全ては等しく、そして不平等であると理解しろ。そしてキミは、王として決意せねばならない」

 そして最後に、こう付け加える。

「『ノブレス・オブリージュ』……高貴なる者には、其れ相当の義務が伴う。キミが挫けそうになった時、思い出して欲しい」

「『ノブレス・オブリージュ』……」

 その言葉を胸に、少年は村院を後に城へと戻って行った。

(グローセス。あの子は今、立派に育っているよ。だから……)


 その日の夜。暁ノ国では、栄光の七騎士(ロイヤルセブン)が城に招かれて会食をしていた。

「やあ、七騎士の諸君。今宵は私の持て成しを受けてくれて嬉しく思うよ」

「いやぁ、どうも。へへへ……」

「…………」

 ディステルの挨拶に、エンツィアは気さくに返すも、他の七騎士たちは緊張からか口数が少なくなる。

 そして、彼らの目の前に出来立てのステーキが運ばれてくる。

「うわぁ、美味そうだなぁ!」

「こ、こんなの、孤児院じゃ見た事も食べた事もないや……!」

「…………!」

 エンツィア、シェフレラ、バンブスの3人は、そのステーキの前で目を輝かせる。

「それでは、遠慮せずに食べるといい」

「いただきまぁす!!」

「…………」

 7人は各々、ナイフとフォークを手に取って目の前のステーキに手を付ける。ナイフの刃は驚く程簡単に通り、肉汁の溢れるその肉は、溶けるように口の中で解けていく。

「う、うまい……!!」

「…………」

「レンシア隊ち……先輩!コレうまいですよ!!」

「黙って食え!王の前だぞ!!」

「いい。美味い飯は楽しく食べるに越した事はない」

 ディステルは笑うと、肉を一口頬張る。

 それぞれが食事を堪能していると、奥から何やら布を掛けられた大きな物が運ばれて来た。

「あれ、次の料理ですか?」

「ふふ……」

 運ばれてきた物に掛けられていた布を、使用人が丁寧に剥がす。

 その、布の下にあった物を見た一同は驚愕の表情をする。

「な……っ!」

「えっ、ええっ!?」

「っ……」

 それは、肉を削がれて骨のみにされた牛の死骸と、その内臓だった。その顔は皮が剥がされておらず、元の姿を嫌でも連想させられる。

「な……なんの冗談なのですか、王!!」

「うっ、うげええぇぇ……!!」

 皆が騒然とする中、レンシアはディステルに意図を問う。ディステルはそれに、肉を一口頬張った後に答える。

「冗談も何も、コレは明日キミたちがする事だ」

「は、はぁ……?」

 レンシアは問いの意図が分からなかったが、何食わぬ顔でステーキを食べるランタナが補足をする。

「王は、明日の戦いでは幾多の血が流れると申している。命を奪う行為とはこう言う事であると解いているのだ」

「あ……悪趣味だ……」

「あの〜」

 エンツィアは手を挙げて質問する。

「アレって持って帰ってもいいですか?牛の内臓って煮込むと美味いんで!!」


 会食が終わり、各々は城を後にしながら話をしている。

「お前……あの状況でよくそんな事言えたな…….」

「ええ、実家が畜産家なもんで!なんか勿体ないなぁって思っちゃって!」

「……お前は能天気だな……」

 レンシアは呆れてボヤく。しかし、エンツィアは他の事が気になっているようだった。

「ところでさぁ、俺たちってお互いの事話した事ないですよねぇ?俺はエンツィア!南東のとこの小さい村で牛の世話してたんだけど、ヤんなってこっちに来ちゃいました!!」

 それを聞いて一同はポカーンとするも、シェフレラはハッとして直様口を開く。

「ええと……私、シェフレラって言います。お世話になったグリューン養護施設から、恩返しするために来ました!」

 シェフレラは多少気分を良くする。そして、今度はバンブスに手を向けて紹介をする。

「こっちはバンブスさん。多くは語ってくれませんでしたが、この街に来てからは色々とよくしてもらってます!」

「…………」

 バンブスは黙って頷く。レンシアは流れを察して同じく自己紹介を始める。

「私はレンシア。東の方にある小さな村から、知人を追って騎士を目指した」

 その言葉を聞いてシェフレラは感心したように目を見開く。その横で何故かエンツィアが自慢げにしていた。

「ええと、後は……」

 エンツィアは辺りを見回すが、残りの3人は付いて来ていないようだ。

「あはは……まあ、仕方ない、か」

 その日は全員兵舎へ戻り、翌日の戦闘に備えてしっかりと休息を取った。


 そして翌日、ついに宵ノ国と暁ノ国との戦争が始まった。

『こォちらァゴーレムライダー隊隊長ホルン!戦闘部隊、揃ったァのであァアる!!』

「うム」

 宵ノ国側の最終防衛ラインである防衛拠点。そこにゴーレムライダー隊の戦力が揃うと、メーネは腕を組み頷く。

 その様子を、ゼーエンが遠目に眺めながら物思いに耽っていた。

(かつて、斯様な戦争は幾年幾度と見て来た……しかし、今宵はどうも魔脈の揺らぎが激しいでありんすね……)

 嫌な予感を覚えつつも、今度は最後尾に待機しているレイレスへと“千里眼”を向ける。

 すると、レイレスは以前と比べて凛々しい表情をしており、むしろ頼もしさすら感じられる。

(ほう……あの小童、あの男に感化されてひとつ大人になったでありんしょうか)

 そして、レイレスはエヴィルアインの頭部へと登ると、兵士たちへ向けて宣言する。

『諸君ッ!!僕は……我こそは、宵ノ国を治める魔王、レイレス・ヘルツ!!知っての通り我が国は、かの横暴なる人族の王ディステルの侵攻を全力で阻止せねばならない!!』

 高らかに述べるレイレスだったが、その声が少しずつ弱くなる。

『正直言うと、怖い。多分、誰も死なずに終わらせる事なんか出来ない。それを考えただけで心が折れそうだ……それでも、僕は覚悟を決めるよ。だからみんな、僕にみんなの命をちょっぴり分けてくれないか!!』

 その言葉に、この場の魔族たちの拳が上がる。

 そしてそれは決意となり、受け取ったレイレスはエヴィルアインの操縦席へと入っていく。

『ありがとう……行くぞ!!』

 エヴィルアインは立ち上がり、ゴーレムたちの上を飛んでいく。ゴーレムライダー隊もそれを追い、隊列を成して第一防衛ラインへと駆けて行く。

『『ドライユニオン!モーダス・トイフェル』ッ!!』

宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。

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