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魔王合体エヴィルドライ  作者: 南ノ森
覚醒!!魔王合体エヴィルドライ
11/28

追憶!!魔王奮起エヴィルドライ(前編)

 それは、私がまだ幼い子供だった頃だ。

 あの日私は、街を眺めようと城を抜け出し、壁の上へ登ったんだ。

 この日までは、私は私の国の栄華を信じていた。


 信じていたんだ……。


「クソっ!!何がどうなっちゃってるんだよ!!もう、何がなんだか……」

 裁判の様子がモニターされた後、モニター室の空気は沈み、レイレスは荒れていた。

 その荒れ様を見て、メーネが居ても立っても居られなくなる。

「おい、ちょっと落ち着けよ!」

「落ち着けって?どうやって!?あっちの国の王様が母さんの王冠の片割れ持ってて、そんで逆賊なんてよばれて!!アレはなんなんだ!!どうすればいいんだよ、僕は!!」

「だからって当たり散らしてもしょうがないでありんしょう」

 喚くレイレスの頭をゼーエンが扇で小突く。それが思ったより痛かったのか、突っかかろうにも言葉が出なくなってしまう。

「っ……く……」

「ともかく、今はウチらで事の整理をして、来る時に備えるでありんす。分かったらガキンチョは茶室でぶぶ漬けでも食べてはりなさいな」

「う、うぉおい!なんだよブブヅケって……!!」

 ゼーエンは颯爽とレイレスをモニター室から押しのけると、そのまま扉を閉めてしまった。

「クッソぉ……この期に及んで濁しやがって……!!」


 クレイが失踪した裁判から数日後、暁ノ国と宵ノ国両国の情勢は一変していた。

 暁ノ国では、失踪したクレイブラットに変わってその弟であるディステルが就任。それに伴って宵ノ国との停戦協定は破棄され、新たに兵力の拡大が宣言された。

 そして宵ノ国は……その兵力の攻撃に対して守備を固めるしか無かった。


 そして現在、暁ノ国ではまさにお祭り騒ぎの様な催しが街で振る舞われていた。

「いやぁ〜、なぁんかめっちゃ賑やかだなぁ!」

 赤い髪の少年が、呑気にチョコレートの箱を片手に歩きながら出店を眺めている。

 その後ろを、ボロ切れのような服を着た男がせかせかと走って来てぶつかってしまう。

「おっと、にいちゃんごめんよ!」

「わっ、とと!気をつけてよねおじさん!この辺はスリが出るから、そんなフラフラしてたら財布盗まれちゃうよ!!」

「わりぃわりぃ!!」

 男は少年に頭を下げると、その場をそそくさと離れていく。少年はそれを見送ると、チョコレートをひとつ頬張って腰に手を当てる。

 しかしこの時、何か違和感を感じて服の上から弄ってその正体を確かめる。

「……スリあいつじゃん!!?か、返せよ俺の財布〜!!」

 人混みに紛れ、もう既に小さくなってしまったその男の影を、少年は必死で追いかけようとする。男はその様子を嘲笑いながら、スルスルと人と人との間をすり抜けていく。

「へっ、ガキがよ傍が甘めぇんだよ!」

「甘くて悪かったねぇ!!」

「!!」

 すると、頭上から突然少年の声が聞こえると、男はのしかかられて身動きを封じられてしまう。

「なっ……なん、っで……!?」

「この国の騎士だったら当たり前でしょ!伊達に毎日警邏してないっつーの!!」

「き、騎士……!?お前さん、騎士だった……のか!?」

 スリの男は驚き、諦めたように気が抜けてしまう。

 すると、2人の前にひとりの青髪の女性がやってくる。

「エンツィア、何を遊んでいる」

「あっ!レンシア隊長!!コイツあれですアレ、例のスリ常習犯ですよ!!」

 エンツィアと呼ばれた少年は、捕まえた男を起こすとレンシアの方へと差し出した。

 男の連行を引き継いだレンシアは、エンツィアの手に握られた香る箱を見て、その間抜けな顔を訝しげに睨む。

「お前、警邏中にチョコレートを食べていたのか?」

「え?あっ、ははは……美味しそうだったから、ついつい……」

「…………」

 笑って誤魔化そうとするエンツィアだったが、意外にもレンシアは思うところがありそうな眼差しでそれを見てため息を吐く。

「はぁ……今回は目を瞑っておいてやろう。戦争になれば、チョコレートみたいな輸入品は真っ先に手に入らなくなる。今のうちに楽しんでおけ」

「あ……は、はい!お目溢しありがとう、ございます……」

 エンツィアは例を言うと、スリの男に目を向け声をかける。

「お金がないのは分かるけどさ、泥棒は良くないんじゃない?」

「るせぇ!!ガキに何が分かる!!」

「ああ分かんないね!けど、いい大人ならもうちょっと考えて行動しないとね」

 そう言うと、男の口にチョコレートをひとつ突っ込む。

「っぐっ!」

「もし釈放されたら、これをタルひとつ分くらい食べれられるくらいには頑張って働かなきゃね!」

 エンツィアは馬鹿にするでもなく、むしろ背中を押すような優しい笑顔で語って再び警邏へと戻った。

(……彼は少し優しすぎるきらいがあるな。これでは推薦状を書いた甲斐がないな)

 そう呆れながらも、どこか誇らしげにレンシアは笑ってエンツィアを見送った。


 それからしばらく時間が経ち、中央広場にてこの催しのメインイベントが開催される。

 広場には沢山の兵士が列を作り、これから現れる人物たちを迎える準備をしている。

 すると、広場の中央に設置された壇上にディステルが現れ、中央に立って挨拶を始める。

「紳士淑女の諸君。この度はお集まり頂き、誠に感謝する。さて……本日の主役はこの私ではなく、この国を守る新たなる7人の騎士たち……そう、新生『栄光の七騎士(ロイヤルセブン)』!!早速、彼らに登場して頂こう」

 ディステルが手を正面へ差し向けると、そこへ6人の男女がレッドカーペットの上を歩いてくる。

「さあ、壇上に上がり1人1人挨拶してくれ」

 6人が壇上に上がると、向かって左から順番に挨拶を始める。

「七騎士がひとり、黄の騎士ランタナ。此度の任命、誠に光栄です。以後よろしく」

 ランタナの挨拶に、拍手が巻き起こる。

 しかし、次の人物の挨拶の番で会場の空気が静まり返る。

「ん〜……むにゃむにゃ……」

 その人物、小柄な女性は壇上で胡座をかきながら、うとうとと眠りこけていたのだ。

「…………」

 ランタナは早く進行を回したいがために、その女性の背中を軽く小突く。それを受けて彼女は目を覚ますと、ようやく名乗りを上げる。

「うにゃっ……!えと〜……白の騎士、カルミアだよ〜……むにゃ……」

 カルミアは名乗ると、再び夢の中へと入ってしまう。会場では、困惑の中で疎な拍手が響いていた。

「……あ、えと……み、緑の騎士、シェフレラ、ですっ!!隣のは方は黒の騎士、バンブスさん、です!!よろしくお願いします!!」

「…………」

 シェフレラと名乗った女性は深く頭を下げる。同じく、バンブスと呼ばれた大男も腕を組んだまま小さく頷く。

(な、なんだあの男……)

(なんであの子が紹介しているんだ……?)

(ひ、一言も喋らないぞ……??)

 会場はざわつき始めるが、バンブスは一切気にせず口を黙み続けている。

 静まり返る会場だったが、そこに元気のいい声が響き渡る。

「この度七騎士に任命されました!赤の騎士、エンツィアです!!精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!!」

 その元気な声に会場は安心を覚えたのか、再び活気の良い拍手が響く。

 そして、それに続いてもうひとりが挨拶をする。

「七騎士に任命された、青の騎士レンシアだ。以後よろしく頼む」

 レンシアの挨拶が終わると、会場は再び拍手に包まれる。

そして、拍手がゆっくりと静まった後、突如巨大な影が会場に落ちる。

「な、なんだ!?」

「おい!アレを見ろ!!」

「ヴァ、ヴァルキリーヘッドが空を飛んでるぞ!!」

 そこに現れたのは、背中に妙な装備を背負った、空を飛ぶゲルドゼーレだった。

 ゲルドゼーレは広めに取られた会場の駐機場へ着地すると、胸部のハッチが開いて乗り手が顔を出した。

「諸君、我こそは栄光の七騎士が頭領、金の騎士ガーベラ・デメルである。たあっ!!」

 ガーベラは名乗ると、ゲルドゼーレの操縦席から壇上へと飛び降りる。

 壇上では、女兵士たちがヴェールを張ってクッションを作り、そこへガーベラは見事に着地して6人の手前へと出る。

「ご存知の通り、私はこの国の国王ディステル・クラウン・デメルを兄に持つ、王家の人間である!なればこそ、私は兄上の治めるこの国を全力で護り通す所存である!!これからもよろしく頼む!!」

 ガーベラの宣言に拍手が巻き起こり、更にそれを盛り上げるように女兵士たちがクラッカーを鳴らし、紙吹雪を巻き起こす。

 かくして、新生『栄光の七騎士(ロイヤルセブン)』のお披露目イベントは大成功を博し、続いてパレード進行が始まり、七騎士はフロートに乗って街中を練り歩いた。


 そのフロートの上、ディステルとガーベラの2人は小さな声で話をしている。

「なかなか派手な演出だったじゃないか。良かったよ、ベラ」

「あなたがそう命じたのでしょう。でなければ反逆罪で首を刎ねると」

「意外だったよ。兄上を逃すために危険を冒したお前が、私の出した条件を飲むなんてね」

「兄様を生かしたからには、この命投げ捨てる訳には行きませんから」

「フン、相変わらず可愛げのない妹だ。安心感すらある」

 人差し指でこめかみを掻きながら、苛立ちを隠してディステルは笑っていた。

(本当、兄上が聞けば泣いて喜ぶだろうよ)


「ん……っ……」

 雨の降り頻る森。クレイは洞窟の中で目を覚ました。

「こ、こは……っ!!つぅっ……」

 身を起こして辺りを見回そうとすると、全身に激しい痛みが起こる。どうやら、崖から落ちた時に身体中を強く打ち付けたようだった。

「く、っ……私も相当、悪運が強かったみたいだな……」

 しかし、耐え難い痛みから汗が噴き出してくる。樹がクッションにはなったものの、受けたダメージは大きかったようだ。

「よォ。お前さん、目を覚ましたかい」

 すると、横から女の声が呼びかけてくる。

 暗がりから目を凝らしてみると、少し距離を置いてそこに、ツノの生えた高身長の女が腰を掛けていた。

「お前は……魔族、なのか……?」

「そう言うアンタは人族みてェだナぁ」

 お互い、警戒心を剥き出しにする。しかし、魔族の女の方からはどこか好奇心のようなものを感じ取れる。

 それを察知したクレイは、女へ疑問を投げかけてみる。

「お前は……何故私を助けた?放っておけば、いずれ勝手にくたばっただろうに……」

 クレイの問いに、女はあっさりと答える。

「あァ、なんか面白そうだッたからナ」

「お…………面白、そう、とは?」

「ケキャキャキャ!!」

「うわ」

 女は恐ろしく品のない笑い声を洞窟中に響かせると、身を寄せて顔を近付ける。

「こンな高そうな服を着てるイイトコのお坊ッちゃんが、森のド真ん中で虫の息キメ込んでやがるワケがどうしても気になってナぁ。まァそう言うこった、くたバッちまう前に聞かせてくれヤ」

「……あ、悪趣味だな……」

 とは言ったものの、怪我をした上に暗い洞窟の中で二人きり、雨の音だけが語り部のこの場所で黙っているのも少しばかり心細かった。

「……私はあの時、遠征の下準備のために下見をしていたんだ。朝霧が立ち込めていて見通しは悪く、残念ながら下見は一時見送る事となったのだ。……だから、護送者が道を外れて崖へ真っ直ぐ進んでいる事に気が付かなかったよ。私は……信じていた国に見限られてしまったんだ……」

 ひと通り話して、クレイは虚しくなり目を伏せる。

「まさか運転手まで犠牲にして私を亡き者にしようとするなんて……考えたヤツは人の心がないのか!?」

 怒りに、叫びが洞窟に響き渡る。しかしその後、話し相手がその遠征の相手である魔族である事を思い出して青い顔をする。

 だが、意外にも女はその話を興味深そうに聞いていた。

「ソイツぁ災難だったナぁ。でも生きてンだから後は好き勝手すりャあいいさ」

「……馬鹿言うな。あの国はこのままでは腐る!権力者が金を独占し、下層階級が飢えているのだ……私はあの日、それを変えると誓ったのに……」

 悔しさに拳を強く握るクレイ。それを見て女は、俄然彼に興味を持ち始める。

「……お前サンが何を抱えてンのか、知りたくなッた!もっとだ、もっと話を聞かせておくれや!!」

 目鼻の先まで詰めよる女。しかしクレイは落下の怪我によって体力を消耗していた。

「すまない、少し眠らせてくれないか……話を聞きたければ、あとで相手をしよう……」

「なンだ、つまんねーの。まあイイや、アタシもしばらくはココに居るからな」

「ああ……すまない、な……」

 そしてクレイは、ゆっくりと眠りについた。


 翌朝。まだ日も出始めて薄暗く、上がった雨の雫が落ちて、水たまりに波を作る音が洞窟へと聞こえてくる。

「う……っ……」

 朝の心地良い空気に目を覚ましたクレイだが、まだ傷が痛むため起き上がるのにも苦労する。

 その時、何かが掛けられているのに気がついてそれを捲って見てみる。

(布……?毛布……いや、違うな。ブランケットでも無いが、マントが1番近い……マント?)

 ふと、この布の正体を思い出す。思い出して、思わずそれを放り投げてしまった。

「こっここここコレはッ!!?あの女の羽織りではないか!!?」

 驚きに思わず声を上げてしまい、そっと口に手を当てる。しかし、辺りを見回しても焚き火が焚いてあるだけで誰も居なかったため、ほっと胸を撫で下ろす。

(それにしても……何も身に付けずに外出とは、なんなんだあの女は。余程身嗜みに頓着が無いと見えるが……他人を気遣える心意気はあるみたいだが)

 そんな子を考えていると、何やら大きな塊を抱えて女が洞窟へと帰って来た。

「おイす!!起きたか!!」

「うおっ!?」

 クレイは二重に驚く。女が全裸だった事もあるが、彼女が運んで来たものが大きな熊だったからだ。しかし女の体を見てみると、柔肌と鱗の混じった皮膚をしており、やはり魔族である事を思わせる。

「お前サン、クマは好きか?」

「い、いや……食べた事はないな……美味いのか?」

「あァ、トンでもなくウマいぞ!コレを喰えばそんなケガなんかすぐ治っちまう!!」

 そう言いなが女は熊の皮を剥いで、素手で器用に肉を切り分けていく。

「私のために……か?」

「さァね。どっちミチ腹減ってンなら、喰ってもらわネーと話の続き聞けねェだろ」

「そう、か……」

 気がつくと、女は既に切り分けた肉を焼きに入っていた。熊の肉は串に通され、薄い石の上には潰された木苺が手製の木ベラで掻き回されている。どうやらご丁寧にソースまで作っているようだった。

「そう言えばお前サン、名前を聞いてなかッたな。アタシの名はグローセスってんだ。お前サンは?」

 クレイは名を聞かれて、戸惑いつつも素直に答える。

「クレイブラット……私の名はクレイブラットだ」

「クレイブラット、ねェ……もうちッと短い呼び方はねェのか?」

「……妹からはクレイと呼ばれている」

「そうかィ……!ならクレイと呼ばせてもらう!」

 グローセスはとても楽しそうに笑った。

宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。

読んでいただきありがとうございました!

後編もお楽しみください!!

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