真昼の虹色朧月~エピローグ
後日、ワラスボを吐き出す令嬢と歳が子供と孫ほど離れた兄妹なのに不適切な関係だと自白した元校長は、嘘がつけなくなる呪いの為に色々な犯罪行為が明るみに出てしまい、髪の代わりに純金が生える頭皮になる魔法をかけられた。
そして、気持ち悪い意味で仲良しな妹令嬢と共に、牢屋の中で国語の先生の生活を助ける事になったとさ…。
いやさどうなんだろな。
純金ってかなり重たいんだよ。それが生えると頭皮を守る為に短いウチに全ての髪を自力で毟るハメになるって、カツラを必要としてたハゲにしては愉快な刑じゃないか?
まあ「お金あって嬉しい」って、ニコニコ廊下をスキップする国語の先生を、雪解けの春風のような笑顔を浮かべて見守る用務員のイケオジと学園長夫妻も尋常じゃないよな。
「賢者試験に最速で合格して、早くこの国を出ないとな」
元校長が学園を去る最後の日に、白目部分までも土気色の顔をし、紫の唇の色をした不死者の群れがあの集会場に現れたとの情報が掲載されている週刊誌を閉じてトイレの個室から出て、洗面所へと進む。
閉じた週刊誌を脇に挟んで、水道の水を出す。
不死者の群れがなぜ俺達がいたあの日、あの会場へ現れたんだろう?
そしてなぜか、俺達のクラス全員と一部の教職員だけがその不死者を見ていない。
石鹸を泡立てた手を丁寧に洗い清める。
洗浄は、魔法使い系にとってとっても大切な行為。これの精度で魔法効果が左右される。だから洗う必要がなくても念入りに洗う。
しかしなぜ、情報取得系が発達しているはずの俺が不死者の存在に気づかなかった?
腑に落ちないが、もうじき国が国語の先生一味によって王の血族もろとも滅ぼされるからまあいいか。
賢者試験に合格したら授与される全魔法が掲載されている魔法書をもって、外国で暮らせばいいだけだし。
頭の片隅で警戒が強く鳴り響く。身体全ての血脈が力弱くバラバラに不規則に鼓動するような、最大級の警告。
「知ってるか?」
鏡に映るトイレの個室のドアが美しい低い声を伴って、薄くゆっくりと開いて行く。
「王族って全員性癖が異常だし、都合の悪い事は素早く忘れるんだ」
なんだ、背後の個室にいるのは用務員のイケオジだ。
彼がいれば大抵の不幸は回避できる。
「そうなんですか」
俺は、おさまる気配のない恐怖をねじ伏せて鏡越しに用務員のイケオジに微笑みかけた。
「君は一度もかわいいあのコを助けようとはしなかったね」
男の手が俺の首に触れた。
「君の全智スキルが少しでもあのコの為に使われれば、あのコはあんなクズ女と婚約しなくてもよかったし、悪ガキ共の余興に嫌がらせを受けなくて済んだし、王族に搾取される事も回避できたのにね」
彼が真綿のように艶やかに優しくフワフワに言うあのコが、幼い頃から交流のあった国語の先生の事だと理解する前に、俺の人生の幕は閉じていた。
首の骨が砕けたおかげでトイレの窓から見える、朧月のようにぼんやりと虹色に霞んでいく太陽が、とても…美しい……。