メイドの宿
昔、昔。今から20日前。
西方辺境にて魔獣のスタンピードが起こったそうだ。
地層が折れ曲がって縦ストライプに走る断層の崖。
凶悪な目付きをした緑の果実頭な熊…ではなくて、巨大な緑のパプリカ頭犬の頭蓋骨の化石をそのまま建物にして、黄色い金属の筒に海獣の香料煮を詰めた保存食や、高級瓜科果物の漬け物を販売する謎のラインナップの土産物店や……。
なんで桐箱に入れて都の百貨店で売るような高級果物を漬け物にしてるんだ? って?
味は、美味しいキュウリの漬け物味だったな。食感は形が違うせいか違ってたけど。
まあ、意味がわかんないよね。なんで小さなうちに収穫してキロ単位銅貨価格の漬け物にするんだろな。両手で抱えるほど育てたらさ、金貨複数枚にの果物に育つんだけどさ。パプリカ犬の店がある地方は、貧乏だって有名だし。
そんな化石地方や一面の紫の花畑地方。
地平線地方の川で鮭を雷魔法で10キロ単位捕まえていたら、赤い閃光を放つパンダ色の馬車に乗った自警団に襲撃されるイベントが発生したりするド田舎なんだけどさ。
川で鮭を採取したら密漁になるって?
そんなの血族に王家がいるんだから無罪にしてもらえばいいんだよ。
そんな何にもないド田舎に魔獣が大量発生して、無秩序にトイプードル魔獣がラインダンスをして拍手を浴びていて放送していた娯楽箱の視聴率を下げたり、ホラー演劇のお化け役でスターになった魔獣がヨガのポーズで歩き回って通行人の鞄を強奪していたひったくり犯を恐怖で泣かせたりと、利権とズブズブやってたら困る事が発生してたんだ。
魔獣じゃなくて魔神やアンデッドだったらさ、そこで寝転んで落語の本を読んでケタケタ笑ってる令嬢が秒速十発の腹パン連打で一時間かけないで殲滅するんだけどさ。あ、いや貧血ですぐ倒れるかよわい令嬢なんですよ。彼女。
そう言わないと半殺しにされるんですよ。ええ。
魔獣の大群討伐に第一騎士団が出陣し討伐に向かった。
え?
今、脱走に失敗して国民的美少女級に可憐な国語の先生に亀甲縛りされて会場の天上から吊るされている普通科の問題児5人組と、とうとう寝転んだまま瓶でエールを飲みだして本を汚した令嬢の方が攻撃力があるだろ? って?
色鮮やかに浮かび上がるプラチナブロンドに青酸カリじゃなくて…シアンブルーの目をした国語の先生と、影絵でしかない問題児5人組は暗部よ。王家直属の暗殺者集団。まあ、給料を偽男爵令嬢あたりとの豪遊に使われたから、多分来月脱走するんじゃないかな。
あと偽貧血令嬢が聖女だって発覚したら、彼女の事だから悪魔召喚でもすんじゃないかな?
自由気まますぎる令嬢だし。
ま、とにかく容姿端麗で垢抜けしてるだけの第一騎士団が、ド田舎でショッピングモールすらない西方辺境に出陣し、開戦早々敗走した。
だと思ったって?
王家の考えそうな事だもんな。高身長・細マチョ・ツーブロックで、原色シャツ・ドハデネクタイ・白スーツ・純金ジャラジャラアクセサリーなイケメン集団が汚い格好して敗走する姿を指差して大笑いってさ。
国語の先生の火柱爆裂舞一曲で全滅する数の魔獣の暴走に追われた、第一騎士団は散り散りに山中へと逃げ惑う。
火柱爆裂舞なんかダメだろうって?
いや西方辺境だよ?
わずかな農村集落さけたら、広大な森林や山脈地帯だよ。小さな州が納まる森林や山脈がクレーターになって誰が困る?
誰も困らない?
だろうな。
それどころか、あそこの海抜0メートルから地底へ3キロ地点に石炭層あるから、4キロほど地面をえぐってくれたら、1キロ掘削するだけでエネルギー問題が解決すんだよね。
ま、自然保護とか動物保護とかうるさく活動する団体がいなかったら火柱爆裂舞でケリつけりゃ良かったんだよ。
あの先生セクシーオペラチケット1枚でそういう依頼受けるとこあるし。
三年間給料払われないとマズイよね。
うん。本当。王家は給料払った方がいいって。こないだの大地震で王宮の宝物庫破損したじゃん。アレ、あの先生がオレンジソーダーとドーナツでその依頼引き受けてたし。
話戻すよ。
スタンピードで西方辺境に出撃した第一騎士団は、即座に敗走し、山中で遭難した。
そんで、セクシー美女を侍らせて金貨風呂入ってる広告のモデルで有名な、騎士団長が独り山中をさ迷う事になるんだ。
なんで助けなかったって?
いやさ、魔獣討伐だよ。そんなの体感込みで諜報するわけないじゃん。魔獣臭いしさー。あの騎士団弱いし。
おねーさんとエロい事する体感が味わいたくて騎士団長を魔法で諜報してただけ。だから出陣する時に魔法の精度を落としてたんだよね。
寝る間際暇だから、騎士団長にかけてる魔法の精度をあげたら、山奥に怪しげな建物があってさ。
騎士団長ったら躊躇いもなくそこに入っていったわけよ。
深夜の山奥だよ。ドワーフ建築の豪華な貴族の別宅作り。
海岸のある地方にあったら、金貨百万兆枚の夜景とかキャッチフレーズつけられそうな不夜城建築。
な、普通警戒するだろ?
なぜその別宅の近くに街がないのか?
重厚なクセに軽いドアを開けて、その館に騎士団長が入ったら、やっぱいたのよ。
ピンクのフリフリメイド服着た髭と胸毛が豪華すぎるドワーフのおっさんが!
耐えろ。ここで笑ったら校長の話が二時間延長だ。絶対に無表情を貫くんだ。
グンズリムックリ。かなり頑丈な筋肉の塊にふさふさ剛毛な胸毛、赤銅色の肌に短い手足の小柄なおっさんが、用務員のイケオジよりも低い声をムリして高くしてさ。
それ喉が傷つくって?
俺もそう思ったよ。あの重低音をなんとか高くする努力に白目をむいたね。
そして言ったんだ。
「お帰りなさい旦那様」
笑うなよ。痙攣して涙と鼻水出してもいいから笑うなよ。マジで笑うなって。
校長の話に感動したフリしろよ。マジで。
「ご注文のオムライスに美味しくなる魔法かけますね」
耐えろ!
笑うな!
めっちゃイケメンな騎士団長がこの瞬間恋に落ちたらしくて…な。
わかるだろ?
俺、汚いおっさんもドストライクって……自覚した。
なんだよ。
その恐怖の魔王を見るような顔は。
お前、イケメンで不潔感ないじゃん。
あのドワーフメイドの何日も入浴してないようなゴワゴワベタベタな縮れた髪とか、ゲジゲジ眉と納まってない鼻毛がなんか愛しくてさ。
ナニ白目むいて泡吹いてんだよ。
まあそれが、今日最初の婚約破棄になったわけでな。
今朝騎士団長が、王女との婚約破棄して騎士も辞めて西方辺境に旅立った。
ついでだけど、元騎士団長今フラれたわ。
金と仕事のない男に、仕事で性的サービスするわけないってさ。
そらそうだよな。あんな秘境に豪邸を建てるって王家のろくでもない趣味でしかないじゃん。
この話はフィクションであり、「あー、あそこかーと」思う場所があったとしても、フィクションなので、それっぽい土産物屋に行っても作中にある食品を取り扱っているかは、私は全く知りません。(無責任)