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第四話

「ご、ごめんなさい! 私……来月に隣国の辺境伯様と結婚するんです。辺境伯様にはお医者様を紹介してもらって、それから……。マルサス様のことは幼馴染として慕っておりましたが特にそういった感情はなかったので、すごく驚きました」


「ぽえっ?」


 あーあ、振られてしまいましたね。

 嫌な予感は的中ですか。エリナ様とは一年以上会っていませんでしたし、なんせ彼女に気がないのは知っていましたから、奇跡でも起こらないと無理だと思っていました。


 あれだけボコボコにされても、愛を貫くという男気らしいものを見せられて応援はしてみましたが、それくらいでは覆りませんよね。


 というより、婚約者がいるかどうかくらいは確かめてルティア様との婚約破棄をすれば良かったのに。

 まぁ、そんな頭を働かせずに猪突猛進してしまうからこそのマルサス様なんですけども。今回は、もうご愁傷さまという感じです。


 目が死んでいますね。ちょうど、マルサス様に婚約破棄告げられたルティア様と同じように。

 ルティア様は不運な事故ですが、マルサス様は完全に自業自得。同情する余地はありません。


「ですがなぜ私などにプロポーズを? 確か聞いた話では、侯爵家のルティアさんという方と婚約をなさったと……」


「婚約破棄したに決まっているだろ! 君と結婚するつもりだったんだから!」


「え、ええっ!? な、なんということを……」


 エリナ様、お可哀想に。目の前にいる幼馴染がモンスターに見えているのでしょう。

 ええ、童話などに登場するのと実物では破壊力が違いますよね。その怯えきった表情は正解です。


「ふふ、ようやく君のしたことの重大さが分かってきたようだね?」


「わ、私のしたことですか?」


「ああ、僕の気持ちを弄んだという罪のことさ」


「そ、そんなのわかりません。あの、怖いです」


 マルサス様は女性を引かせることにかけては世界一かもしれません。

 ヘラヘラとニヤけながらエリナ様に迫る姿は夢に出てきそうなほどの恐怖を彼女に与えていました。


「君も婚約破棄してくれるだろ? それでイーブンだ。僕はそれで許してあげるよ。真実の愛が僕らの間にはある。試練だと思って共に乗り越えよう」


 もう嫌です。こんな人にお仕えするのは。

 どうしてエリナ様が婚約破棄されるのか、さっぱり分かりません。


 まさか、マルサス様はまだエリナ様が自分に好意を持っていると思っているんでしょうか。


 ポジティブの押しつけが恐ろしい。こんなに人をドン引きさせる前向きさが他にあるでしょうか。


「わ、悪い冗談は止めてください! 申し訳ありませんが、マルサス様を好いたことは一度もありません! 今はどちらかというと嫌いです!」


「ぽえっ!?」


 はっきりと嫌いと言われて面食らったのかマルサス様は愕然としたような表情をされました。

 

 それもそのはずです。マルサス様はこの瞬間までエリナ様が自分に惚れているという妄想に取り憑かれていたのですから。


 信じられないかもしれませんが、これがマルサス様なのです。今まで私は彼ほどの自信家を見たことがありません。


「こ、これ、この指輪もいりません。持って帰ってください? あれ? ええーっと、これ、裏にルティアさんの名前が彫ってありますけど」


「うるさい! 超高級品なんだぞ! スリに遭っても安心なんだぞ!」


「す、スリ? と、とにかく迷惑です。お願いですから帰ってください!」


 エリナ様は明確に拒絶という態度を見せました。

 おそらくマルサス様の思い込みの激しさをルティア様よりは知っていたのでしょう。

 はっきりと物申すことで、マルサス様に気がないことを示したのです。


 その態度は正解でした。マルサス様は意気消沈して俯きます。


「う、嘘だろ? なんて女だ。気をもたせるだけ持たせて! 別の男と婚約なんて……、薄情すぎる! 薄情だ! 薄情! 薄情!」 

「昨日まで他の女と婚約していた男が何を言っているんですか。帰りますよ」

「……うう、それは僕は涙を飲んだだけだし。愛はなかったんだから浮気じゃない」

「若様みたいな人がいるから法律ってできたんですね」


 いい加減、見苦しくなったので私はマルサス様を引っ張ってエリナ様から遠ざけました。

 彼女は呆然としてこちらを見ています。昨日のルティア様と同じです。


「ほら、だからルティア様との婚約破棄なんてしなければ良かったんですよ。あんなに美人で気立ても良くて、頭のいい女性は他にいません。せっかく奇跡的にご縁をいただけたのに無駄にして……」


「確かにお前の言うとおりだ。今考えるとルティアほど素晴らしい女性はいなかった。僕の目が曇っていたんだと思うよ」


 これは驚きました。なんと、あのマルサス様が反省している。これは異常事態です。

 

 なんせ今まで私が何を言っても馬耳東風。聞き流して、一つも意見など聞いたことがなかったのですから。


 やはりこんなのでも失恋のショックは大きかったみたいです。


「アネット、僕は反省したよ。どう考えてもルティアと婚約破棄してエリナにプロポーズしたのは間違いだった」


「……若様、それに気付いただけでも成長です。ええ、通常なら物凄く手遅れですが反省するという姿を見て、私は若様が真人間への道へ戻れる希望が出てきました」


「やはりルティアと結婚してやらねばならんな。それが反省した男の義務だ」


「はぁ?」


 やはりマルサス様はバカ様のままでした。反省などこれっぽっちもしていません。

 なんで私はマルサス様が悔い改めるなどとあり得ぬ妄想をしてしまったのでしょうか。バカバカしい。


 しかし、本当にバカバカしかったのは、このあとの彼の行動でした。

 

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