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第三話

「いやー、肩の荷が下りたよ。僕の心の中にずーーっとつっかえていたんだよね。やはり愛には正直になるのが一番だよ」


 スキップしながら、上機嫌そうにそんなことを言うマルサス様。

 信じられませんが本当にルティア様との婚約が不本意だったみたいです。


「今すぐ、エリナ様にプロポーズされるのですか?」


「当たり前だ! 鉄は熱いうちに打て、と言うだろうが」


「それ使い方あっていますか?」


「知らん!」


 テンションが高くて機嫌よくプロポーズ宣言をするマルサス様は、胸を張って酔っ払ったような喋り方をされていました。


「しかし、婚約指輪。ルティア様の名前が彫ってあるんですけど渡してもいいんですかね?」


「アネット、君は何も知らないんだな? 指輪っていうのは、旅行中にスリに遭ったときに換金できるアイテムなんだ。それなら高級品ほど好まれるに決まっているだろ」


「本当ですか? それ。というか、本当だったとしてだから何?って話です」


 はぁ……、不安ですね。

 婚約破棄するために飛び出したとき、止められなかったのは私の責任です。

 

 このまま彼をエリナ様のところに向わせては彼女にも迷惑がかかる可能性は大。


 ならば止めておいたほうが新たな被害者を出さずに済むのでは……。


「若様、婚約破棄の件を旦那様に伝えたほうがよろしいかと存じます」


「はぁ? 父上にだと? 面倒なことを言うなぁ」


 案の定、旦那様のことを口にすると彼は露骨に嫌そうな顔をされました。

 まぁ、婚約破棄を無許可で行った時点で有罪確定なんですが、これ以上の暴走を止めるためにも旦那様に説教してもらう他ありません。


「しかし、仮に運良くエリナ様が信じられぬほどの物好きの極みだったとして、若様の恋が成就しても、旦那様の許しがなくては結婚は無理です」


「そっかー。まぁ、父上の許可なしでは確かに無理だよな。んっ? 今、僕に酷いこと言った?」


「つまり若様が大願成就させるためには、旦那様の許可取りが必須。ご理解ください」


「それはわかった。ねぇ、今、酷いこと言ったでしょ?」


 ようやくマルサス様は旦那様に今回の件を打ち明ける気になってくれたそうです。

 

 ええ、もちろん激怒されるに違いありません。

 下手するともう一度ルティア様に土下座して許しを乞うことになるかもしれないです。

 まぁ、ルティア様は絶対に復縁しないと思いますが……。


「仕方ない。これは愛の試練。僕も僕の義を通すよ。……愛のために戦うのは男の運命(さだめ)だからね」


「はぁ、若様の同類として一括にされるとは、世界中の男性が不本意と感じるでしょうね……」


 こうしてマルサス様はまずは屋敷に戻って旦那様に婚約破棄の一件を話すことになりました。



「この! バカ息子がああああ!!」

「ぐぎゃーーーー!」


 まぁ、わかっていましたけど凄い怒鳴り声が聞こえます。

 旦那様はあらゆる格闘技をマスターしている達人中の達人。若様、どうかご無事で。


 ◆


「こ、殺されると思った……。痛っ! 染みるから、ゆっくりやってくれ。うう、痛っ、痛っ、痛っ、痛っ、だから、ゆっくり――痛っ、痛っ、痛っ」


 顔を赤く腫らして、身体中が痣だらけ。誰がどう見てもボコボコになるまて殴られたのが見え取れるくらい酷い有様のマルサス様。


 どうやら、旦那様にかなりお灸を据えられたみたいです。


 消毒ですから痛いに決まっています。その前に痛い目に遭っているのですから、これくらいで情けない声を出さないでください。


「それで、ルティア様に謝るように言われたのですか? 間違ってもエリナ様にプロポーズなど――」

「いや、父上がルティアや侯爵殿には謝ってくれるってさ。僕がいくら殴られても折れない根性が通じたのさ」


 旦那様でも無理でしたか。このマルサス様を更生させるのは。

 わからない。何がマルサス様を奮い立たせているのか。

 バカは死ななきゃ治らないというが、ことマルサス様に限ってはそれに当てはまらないかもしれません。


 死ぬほど殴られても、彼はエリナ様にプロポーズするという持論を曲げずに、ついには旦那様の了承を得るに至ったのです。

 

 ここまでいくと、エリナ様への気持ちは本物のだと考えていいでしょう。惜しむらくはその根性をやらかす前に見せていただけなかったこと。


 ルティア様とあんな形で婚約破棄したことが全てを台無しにしていることです。


「さぁて、いっちょやりますか。幸せを掴みに!」


 腕をブンブン回しながら、腫らした顔で目一杯の格好をつけるマルサス様。

 

 なんて自信なんでしょう。この方は自分が振られてしまう可能性について1ミリも疑っていない。

 

 ここまで頭にバカがつくほどの前向きな人も珍しいです。

 きっと、マルサス様の辞書に迷うという文字と疑うという文字はないのでしょう。


「告白、成功すればいいですね。若様」


「んっ? なんで失敗するんだ? 愛し合ってるのに」


「はぁ、若様が羨ましいです。でも若様にはなりたくありません」


 最低な人なのに、本当に良いところがないクズなのに、その前向きさが時々羨ましくなる。


 ですが、若様。そんなセリフを吐いたら、すっごく嫌な予感がするのですが、大丈夫でしょうか……。

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