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物思う恐喝屋 8

 小舟を操って王都イクリスの西部へ向かっていた。

 アメリアは西部の貧民窟へ行くように指示されたとき、疑問に思った。


「フリオの奴、俺がセスの家に行くのを予想してたらしいんだ」


 ラージヒルはセスの妻に会ったときのことを話した。

 フリオが妻を気遣って挨拶に来たこと、そしてラージヒルへの伝言を頼まれたことを話してくれた。

 彼女は何かを隠している素振りを見せていたが、それが何なのかわからなかったらしい。


「おおよそのことは見当つくけど、強引に聞き出すわけにもいかないからな。どうもフリオに脅されているみたいなんだが、それがなんなのかまではね」

「それで、フリオに訊く必要があると?」


 アメリアは魔力船外機の出力を調整しながら訊いた。

 時おり向こう側から船が来て、衝突しないように気を遣いながら操る。


「それだけじゃないさ、わざわざ日時を指定して俺を呼び出しているんだ。何かしらの企みがあると見ていいな」

「罠ですか?」

「かもしれん。どちらにせよ、出向かない限りは何も始まらないしな。アメリア、念のためおまえさんはインビジブルで姿を消してくれ。フリオはおまえさんまで来ていいとは言ってなかったからな」

「はい」


 ヴァズ川の南西にある船着き場に着いた。

 そこからさらに南西部の奥に行ったところに、貧民街のマロー町が存在する。


 つい何年か前までのアメリアなら、まず立ち寄ろうとも考えなかった土地だった。

 敷石のない道にはむき出しの土が見えている。

 王都イクリスの管理もマロー町までは行き届いておらず、貧民街の浄化を後回しにしているらしかった。

 昼間から道端に寝ころんでいる人、瓶に詰めた酒を呷りながら町中を闊歩している人、路上で小さなテーブルを囲みながら賽子遊び(おそらく金を賭けている)をしている人々など無気力な空気が満ちている場所である。

 時々通るらしい馬車の轍の跡が消えずに残っていた。途中にある広場では炊き出しが行われており、多くの貧民が列をなしている。ひとまず飢えは凌げるのも、彼らをこの境遇にとどまらせる一因かもしれないが、命をつなぐことでわずかな希望を見出せるのかもしれない。

 ここ一帯の淀んだ空気を掃うには、かなりの時間がかかりそうだった。


 彼らのほとんどが襤褸を着て、鼻を打つような異臭を放っていた。

 心身の衛生よりも刹那の快楽にしか関心が向かないようだった。

 貧民窟への来客であるアメリア、ラージヒルの二人を興味ありげに見ては視線を逸らす。

 特にアメリアへの視線が痛々しいほどだった。

 おおよその人に容姿を褒められるアメリアの姿は彼らに新鮮な印象を与えたのかもしれなかった。

 もし憲兵の制服を着ていなかったら、襲われていたに違いない。


 フリオの指定した七番地はかつて職人たちが軒を連ねた地区だった。

 交通の便や品物を卸す関係で次々と作業場を移転し、わずかな民家と廃墟が存在する殺風景な場所に成り果てていた。

 目を刺すような西日が廃墟群の明暗をくっきり分け、不気味な雰囲気を一層際立たせている。

 かつては賑やかだった場所の残り香が幽かに漂っている感じがある。

 道行く人はアメリアとラージヒル以外には誰もおらず、地元の住民でさえも近づかないようだった。


 フリオの指定した廃屋の近くまで行くと、ラージヒルは足を止めた。


「姿を消せ」


 そう言われて、アメリアは〈透明化(インビジブル)〉を遣って自分の姿を消した。


 通りに面する窓が割れ、長年の風雨にさらされた外壁が黒ずんでいる。

 西日の射さない入口はぽっかりと開いていて、濃い闇が広がっているように見えた。


 中に入ると、思いのほか明るい感じがした。

 左側にも割れた窓がいくつかあり、そこからわずかな日の光が射し込んでくる。

 打ち捨てられた木製のテーブルや椅子が散乱していて、細かい埃が光に浮かび上がる。

 かなり広い店だったようで、天井も高かった。

 奥の壁際にうすぼんやりとした二つの陰が見え、荒い息遣いが聞こえてくる。

 ちょうど光の当たらないところで、大柄の男が立っていて、傍らに塊のようなものが目に入る。

 大柄の男はフリオで誰かを座らせているようだった。

 ラージヒルの姿に気づいたらしく、フリオ一歩前へ進み出て射し込む光の中に姿を現した。


「早かったっすね」


 フリオは悪ガキに戻ったかのような口調で言った。


「色々聞きたいことがあるんだがな」


 ラージヒルは後ろ首に手を当てた。


「まず、ビングリー巡査部長はどうした? お前と行動を共にしてたんじゃないのか?」

「へえ、そこまでわかっているのか」


 フリオの顔に薄ら笑いが浮かんだ。

 それに対してラージヒルは観察するかのように見つめている。


「あいつは逃げたよ。こいつをここに連れてきてもらったあとでな」

「その人は?」


 とラージヒルが訊くと、


「こいつですか?」


 フリオは身を屈めてその人の襟首をつかんだ。

 力任せに持ち上げ、光の中へ放り投げる。

 仕立てのいいスーツを着たまま、後ろ手に縛られた男だった。

 身体が濡れていて、目が充血し、息を切らしていた。髪や顔から水滴が床に落ちている。


「セスを殺すように指示した奴ですよ。殺人教唆ってやつですかね。『ラタン』のオーナー、アンドレイ。ビングリーの奴、逮捕を逃れられる方法があるって、こいつにホラを吹いてよ。罠だとも知らず、おびき寄せたんだ。ほら、憲兵の前でもう一度話してやれ」

「違う! 私はこの男に脅されたんだ。憲兵さん、信じてくれ」


 アンドレイの身体が濡れているのは、水責めを受けたのだろう。

 フリオが水の魔法を遣って拷問したと見当がつく。

 アメリアは問い質したかったが、姿を消して息をひそめているので、必死にこらえた。


「ふざけるな! てめえ、真っ当に生きてきた人間を殺した外道だろうが。今さら言い逃れをしようったってそうはいかねえぞ!」


 建物を震わさんばかりの大喝だった。


「う、う」


 アンドレイは言葉に窮した。


「それまでだ。フリオ」


 ラージヒルが止めに入る。


「お前、自分のしたことをわかっているのか? 恐喝屋らしくもない。これじゃ素人の犯行じゃないか。昔、町で考えなしに悪事を働いていたお前に戻ったみたいだな」

「……」

「どうも違和感があったんだよ。喧嘩っ早いお前が恐喝で飯を食うなんてな。しかも、足がつかないように、入念に下調べして、憲兵に訴え出ないような連中を選んで脅す。けど、骨までしゃぶりつくすような真似はせずに、一回こっきり多額の金銭を奪う。その方が禍根を残しにくいからな。何年か前までのお前からは想像つかないやり口だ」


 ラージヒルはフリオをじっと見据えている。

 心なしか口元に笑みが浮かんでいるようだ。


「ま、そんなことはどうでもいい。大方、お前に恐喝の手口を仕込んだ奴がいるってところだろう。あとお前、『ラタン』の番頭をどうしたんだ?」

「こ、殺されたんだ。この男に」


 アンドレイが代わりに答えた。


 その言葉を聞いて、アメリアに動揺が走る。


 ――うそでしょ。


 気持ちの揺れが魔法に影響が出てしまうと思い、必死に心の平静を保った。


「ふさわしい末路を用意してやっただけのことだ。けど、おかげで裏はとれたよ。セスを殺したのは用心棒二人、指示をしたのはこのアレクセイと番頭だ」


 フリオの口調には勝ち誇った感じがあるが、同時に空虚な感情もある気がした。


 瞬時、沈黙が流れる。外から鳥の鳴き声が聞こえてきた。


 アメリアは、縛られているアンドレイの方に顔を向ける。

 彼は縋るような目つきでラージヒルを見上げていた。


「ち、ちがうんだ。この男の脅されてそう言っただけだ」

「まあ、その話の真偽についてはこれからの捜査次第ってことで。それよりも、フリオ。この人を攫ったのは失敗だったな。そんなことをしなくても、今ごろ『ラタン』の倉庫にガサ入れが入っている。お前が動く必要なんてなかったのさ」

「なに?」


 と、声を発したのはアンドレイである。


「アンドレイさん。あんた『RT44』って倉庫にトラップを仕込んだ木箱を置いているそうじゃないか。今ごろ、魔法を遣える憲兵がトラップを解いて中身を暴いている最中だ」

「やめたほうがいい」


 アンドレイはいきなり余裕の笑みを浮かべた。

 フリオの悪相が睨みを利かせても意味がないようだった。


 アメリアはその様子を見て、なにかがおかしいと感じた。

 アンドレイの視線の先には、フリオはもちろんラージヒルの姿さえ入っていないように見えた。

 強いて言うなら、ラージヒルの横側を見ている感じがある。


「あの木箱には大事なものが入っているからな。魔法遣いに頼んで、厳重に仕掛けを施してもらった。あいつじゃなきゃ解けない複雑な魔法だ」

「もし解除に失敗したら?」

「あの倉庫ごと吹っ飛ぶ」


 証拠隠滅、その言葉がアメリアの頭に過る。


「勘違いするなよ。大事なものが入っている木箱だ。勝手に開けようとしたそっちが悪いんだからな」

「アンドレイさん。憲兵に協力しないとどうなるかわかっているよね。しかも、身代わりを出頭させたんだ。今からでもトラップを解除してくれると、少しは罪が軽くなるんじゃないかな」

「なに?」

「だからさ、身代わりの人が吐いちゃったわけ。あんたに指示されてセスを殺した犯人として出頭しろって言ったんだって? そりゃあまずいよね。あんたのやっていることは素人の犯罪さ。プロの真似をして身代わりを立てたのはまずかったな。もうちょい辻褄を合わせてから出頭させるべきだったんじゃないの」


 身代わりがバレると思っていなかったのだろう。

 アンドレイは顔を俯けて苦悶の表情を浮かべた。


「さて、フリオ。その人を解放するんだな。あとはこっちで何とかするからさ。それと、お前にも色々訊きたいことがあるから連行させてもらうよ」

「断る」


 フリオは人差し指をアレクセイに向けた。

 下手な動きをすれば、水の魔法を放つのだろう。


「こっちの要求を呑んでもらいますよ」

「お前ねえ、そんなこと言える立場じゃないだろ」

「心配しないでくださいよ。大したことじゃない。六日後、北東地区の教会に行かせてくれってだけの話だ」

「なるほどね」


 なにがなるほどなのか、アメリアにはわからなかった。


 するとそのとき、アメリアの背後から強力な魔力を感じた。

 防御障壁を発動し、全員の身の安全を確保した。

 そして魔法が障壁に当たると、魔法が弾かれて天井に当たった。

 その魔法は〈撃火(パイロショット)〉で、天井が一気に燃え広がる。

 もし人に当たれば、全身が炎に包まれただろう。


「誰だ!」


 と誰何したのは、フリオである。

 アメリアは一瞬、姿を消していた自分に言ったのだと勘違いした。


「く、〈透明化〉か」


 入口の近くに二人立っていた。

 声を発したのは女の魔法遣いだった。

 吊り上がった目に見える黒目が小さく、頬がこけている、癇癖の強そうな女だった。


 彼女の後ろに薄ら笑いを浮かべた男の剣客がいる。

 この二人は冒険者崩れの用心棒らしかった。


「おお、お前たち、助けに来てくれたのか」


 とアレクセイが言うと、


「雇われた分の働きはしなきゃいけねえからな。この町の連中に訊いたら、見慣れない二人を見かけて、ここに行ったんじゃねえかって言うもんだからよ」


 男の剣士がいっぱしの用心棒を気取って言う。


「申し訳ありません、オーナー。探すのに少し時間がかかり過ぎました。でも、あたしたちが来たからには心配いりません」


 と女は言うと、杖で床を突いた。

 するとアメリアの〈透明化〉が解け、姿が現れた。

 女は魔力を感知し、魔法の効果を消す魔法を遣ったのだ。


「な、なんだ」


 驚いたのはアレクセイである。


「この間のお嬢ちゃんか」


 フリオは天井に水の魔法を放ちながら言った。

 火はすぐに消え、天井から水滴がしたたり落ちる。


「伏兵を紛らわせるとはな。なかなかきれいな女じゃねえの」


 剣士は相変わらず薄ら笑いを浮かべている。


「まだ子どもね。あたしたちの敵じゃないわ」


 魔法遣いの口調に嘲りが混じっていた。

 明らかにアメリアを格下だと見ているらしい。


「それはこっちの科白だ」


 アメリアはロッドを手に取り、用心棒たちを指す。


「貴様ごときに私が後れを取るか。多少の魔法が遣えるからといって調子に乗るな」

「へえ。言うじゃない、この子」


 女の顔に酷薄な笑みが浮かぶ。


「ちょっといいか」


 ラージヒルがそう訊くと、女を指さした。


「あんたが、木箱にトラップを仕掛けた魔法遣いってことでいいか」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、あのトラップを解いてもらおうか。うちの暴れん坊娘や解除班でもいいんだが、念のためってこともあるしさ」


 ラージヒルは頭を掻いて言った。


「誰が暴れん坊娘ですか」

「そうじゃなかったっけ?」


 アメリアに顔を向けず宙に目を遣るラージヒル。


「オーナー、どうします?」


 剣士が薄ら笑いを消して、剣の柄を握った。

 雇い主の意向次第で一戦交える気でいる。


「タマラ、お前の仕掛けたトラップは大丈夫なんだろうな」

「ええ、もちろんです。あのトラップを破れる人なんて、まずいませんわ」


 自信に満ちたすまし顔でタマラは言う。


「カバロ、お前の剣はそいつらに通用するか?」

「憲兵ごときに負けるほど、落ちぶれちゃいませんよ」


 ここでカバロという剣士が、剣を抜いた。


「動くな!」


 突如部屋の中に大声が響いた。

 後ろを振り向くと、フリオがアレクセイの首を掴んでいる。

 アレクセイの顔が恐怖で歪む。


「カバロって言ったな、お前がセスを殺したのか?」

「知らねえな」

「答えな。じゃないとお前の雇い主の首をへし折るぞ」

「そうだとしたら、どうする?」


 カバロは自慢げに答えた。

 この男は自分が負けるとは露ほども考えていないようだ。


「で、命令したのはこいつだな」

「さあな」


 カバロは雇い主との主従関係を守る気のようだ。

 人を小ばかにしたような薄ら笑いを浮かべ、答えをはぐらかしている。


「そうか」


 フリオはアレクセイから手を離した。

 アレクセイは足に力が入らなかったらしく、その場にへたり込んだ。


「おれは、てめえらを許す気はねえ」


 異様にドスの利いた声だった。

 するとフリオは強烈な蹴りをアレクセイの顔面に入れた。

 あまりの脚力に、アレクセイの身体はのけ反り背中から床に落ちた。


「くたばりな」


 フリオは右脚を上げて、最後の一撃を加えようとした。


「やめろ!」


 ラージヒルは床を蹴り、瞬時に剣を抜いた。

 刃を返し、フリオの胴を薙いだ。

 剣の峰が脇腹に当たり、体勢を崩した。

 上体を曲げて左わき腹を押さえている。


「さすがだな、ラージヒルさん。昔、おれが町中で暴れていたときもそうしたっけ。憲兵庁屈指の剣客は伊達じゃねえ。けど、怪我人はが人はほうっておけねえだろ」

「課長」

「アメリア! 二人から目を離すな!」


 ラージヒルは珍しく大声を張り上げた。

 震えるほどの声に、アメリアの身体が反応する。

 用心棒二人に顔を向けたとき、カバロが剣を振り上げてアメリアに襲い掛かる。


 躱せないと感じたアメリアは、防御障壁を張る。

 間一髪の差で間に合い、カバロの剣を受け止めた。


 奇襲に失敗したカバロは、飛び退さって距離を取ろうとする。

 その隙を衝いて、アメリアは無属性の〈魔弾(フライクーゲル)〉を撃った。

 躱しきれないと思ったのか、カバロは剣を斜めにして受け止めようとした。

 しかし〈魔弾〉が剣を折り、カバロの額に命中した。

 身体が大きくのけ反り、背中から床に落ちた。

 折れた刀身が床に突き刺さった。


「心配するな。気絶させただけだ」

「このガキ!」


 タマラはものすごい剣幕を露わにしながら、火の魔法を撃った。

 圧縮された三本の火の槍が曲線を描きながらアメリアに襲い掛かる。

 身体を貫き、骨ごと焼き尽くしかねない強力な魔法だった。


「無駄だ!」


 アメリアは三本の火の槍めがけて、三本の水流を撃った。

 火の槍を押し返し、あっという間にかき消した。

 水流の勢いが衰えず、タマラに向かって行く。

 アメリアは手首を動かして水流を操った。

 三本の水流がタマラの身体を縛り付けるように絡むと、水を凍らせてタマラの動きを封じた。


「く、この」


 タマラは巻き付いた氷を溶かそうとして火の魔法を遣った。

 身を焦がしかねないほどの火力だが、氷は溶ける様子もない。

 アメリアは氷に溶けにくい仕掛けを施していた。

 それこそ骨を焼くほどの強力な魔法を遣わない限り、溶けないようになっている。


「終わりだ。傷害未遂、公務執行妨害、及び殺人の容疑で貴様らを逮捕する」


 タマラが動けないと見ると、気絶しているカバロに〈捕縛魔法〉をかけた。


「終わったか」


 ラージヒルはフリオを追っていたらしく、裏口に続く通路から姿を現した。


「ええ、早いところアレクセイを治療しないと」


 アメリアは苦しんでいるアレクセイの傍らに蹲ると、回復魔法をかけた。

 痛みが引くにつれ、安堵の色が顔に浮かぶ。


「ひとまず大丈夫です。あとは医師に診てもらいましょう」

「そうか」

「それで課長、フリオはどうしたんですか?」

「いやあ、それがさ、逃げられちゃって」

「はあ?」


 アメリアは呆れた感情を隠さずに言った。


「なにをしているんですか」

「あっちの通りが思いのほか複雑でね。土地鑑がないもんだから巻かれたよ」

「課長、わざと逃がしたのではないですか?」


 アメリアの言葉には、フリオが六日後に北東の教会に現れると言ったことが念頭にあった。


「まあ、恐喝屋のチンピラと、大罪人三人を天秤にかけたら、フリオは後回しにしなきゃと思ったからさ。二人の用心棒だってどれくらい腕利きなのかわからなかったし。おまえさんが危ないかもと思ったからさ。部下に何かあったら俺が責任を取らにゃならんし」

「え、そうなんですか?」


 多少利己的な考えがあるものの、珍しく気を遣うラージヒルに感心を抱くアメリア。


「でもまあ、取り越し苦労だったな。よくよく考えてみれば、ストレス発散に相手をぶちのめす才媛の魔法遣いを心配する必要なんかないわな」

「課長」


 気を遣ってくれたと考えた自分がバカだった、とアメリアは思った。


「合法的に犯罪者を取り押さえることのどこがストレス発散に繋がるのでしょうか?」

「いやあ、俺が戻らなかったら、被疑者の命が危なかっただろ。まったく、少し目を離すと何やるかわかったもんじゃないからな」

「その口、封じてあげましょうか」

「ま、それはともかくさっさとこの三人を連行しよう」


 さっさと話を切り上げて、アレクセイの拘束を解き、改めて手錠をかける。


「ほんっと、どうしてやろうかしら」


 アメリアはしばらくの間、頭に上った血が下がらなかった。


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