精神
「それなら。やめたほうがいい」
御堂はアナハッチを戦わせる気はなかった。
「なぜ?」
アナハッチは御堂にその理由を尋ねた。
「もし一人で戦えば君は死ぬ」
御堂ははっきりと言い切った。
「何でそう言い切れるの?」
アナハッチは御堂にまた質問をした。
「俺にはさ、人が死に関わるかわかるんだ」
「人が死に関わるって?」
「その人がこれから死ぬとか他人を殺すとかだ」
「物騒ね」
「そうだな」
御堂はアナハッチのベッドの横に椅子を持って来てそこに座った。
「今のままじゃ君は三日後に死ぬ」
「私だって今のままで生き残れると思っていない」
「じゃあどうするんだ?」
「私の一族にはずっと伝わってきた伝説の力がある」
「その伝説の力をなぜ使わなかったんだ?」
御堂がアナハッチに理由を聞いた。
「その時私はまだ使える状況になかった」
アナハッチは御堂に真剣な表情で返した。
「どうやったら使えるんだ?」
御堂がごもっともな質問をする。それにアナハッチは指を三つ立てて説明を始めた。
「今まで私たちの祖先から伝わっている条件は三つだ。一つ目は一族が危機に陥っていること。
二つ目は勇気があること。三つ目は力の器になれる強さがあること。」
「で、今足りないのは?」
御堂が肝心なことを聞いた。
「きっと強さ」
アナハッチは即答した。
「そうと決まればやることは一つだ。鍛えよう」
そう言った御堂はアナハッチの足に触れた。
「痛くない……」
アナハッチはさっきまで自身を動けなくしていた骨折がなくなっていることに気が付いた。
「じゃあ行こうか」
御堂はアナハッチの足の支えを外して彼女の手を取り、共に立ち上がった。
「あなたは別に鍛えなくてもいいんじゃないでしょうか」
ここまで二人の会話を眺めていた女神が口を出した。
「俺にもやることがあるんだよ。女神様」
そう言って御堂は部屋から出ていき、アナハッチもそれに続いて出て行った。
サウリーは困惑した。
「私、あいつの前で女神って言ったっけ?」
女神は思わず敬語も忘れて疑問を口にした。
「言ってないです。」
残された二人は御堂の言葉に違和感を抱いた。
「私たちはどうしましょう」
二人は自分のやることがないことに気づいた。
「椿さんが外で何かにやってるって言ってませんでした?」
「そういえば言っていましたね」
「手伝いに行きますか?」
「私が行きます。あなたは彼女たちを見守っていてください」
サウリーは走り出して外に出て行った。太郎はアラーリアのベッドとクラアジーナのベッドの間に椅子を置いて座ることにした。ほんの少し椅子がきしむ音がした。人の少なくなった部屋にその音が響くことはなかったが、先ほどの喧騒と合わせて二人の少女を起こす十分な刺激にはなった。
「賢者様……」
目覚めたアラーリアは太郎に抱き着いた。クラアジーナはベッドの上から動こうとしなかった。
「何……?」
太郎はうろたえた。彼はこの先の知識を知らなかった。
「私はどうすればいいの……」
もっともこの先には発展しないのだが。
「私はあの人たちのための力になれない。私は進化してないただのスライムだから」
太郎に抱き着いた状態でアラーリアは泣き始めた。それと同時に彼女の体は液体に変化し始めた。
「ちょっと待って待って」
太郎は混乱して語彙力を失った。そしてさっき怒られたことを気にして静かに入ってきた椿にその場の誰も気付かなかった。
「ちょっと人の姿を保てなくなっちゃっただけだから気にしないで」
アラーリアはその言葉を太郎に放った時、地面の水たまりになっていた。