弱者
「御堂さん大丈夫ですか?」
女神と賢者が慌てる。
「きっと大丈夫だよ」
ゲーミングカラーのウインドブレーカーを着ていて、絶えず変化し続ける虹色の長髪と目という何がどうなっても目立つ格好の男が現れて余裕を持って話しかけた。それと同時に髪の色と目の色は深緑に近い落ち着いた色に変化した。
「誰ですか?」
女神が質問をした。
「初めからいたのに今聞くの!?」
男が困惑しながら答えた。
「いなかったと思いますけど……」
賢者は女神に味方した。
「俺いたよ?」
「いなかったです」
女神と賢者対男の言い争いが始まろうとした。
「後で……説明するから……俺をベッドの上に……おいてくれないか?」
御堂が苦しみながら言い争いを止めた。
「ごめん」
「すいません」
「ごめんなさい」
三人は謝ってから御堂をベッドの上に寝かせた。
「早く話してやれよ御堂」
男が御堂をせかす。
「その前に外に人がいるから介抱してやってくれ」
だが、御堂はそう呟いて眠ってしまった。
「とりあえず名前を教えてもらえますか?」
女神は男に自己紹介を求めた。
「俺の名前は椿百《つばきもも》ここの居候だ。よろしくな!」
男が自分の名前を話したが、女神は満足しなかった。
「なんで私たちが気がつかなかったかとかわかりますか?」
女神の質問を聞いた椿は困った様子でその質問に答える。
「それは俺にもわからん!」
もっとも質問に答えたからといってしっかりした答えだとは限らないが。
「なぜですか?」
「それは俺がそれを調べるためにここにいるからだ!」
椿が大きな声で女神の質問に返答をした。
「声が大きいです。寝ている方々が起きてしまいますよ」
賢者がそれを制止した。
「ごめん。俺は外の人たちを介抱してくる」
椿は小声になって賢者に謝って外に出て行った。
「うう」
アナハッチが目を覚ました。
「大丈夫? アナハッチ」
「大丈夫ですか? アナハッチさん」
賢者と女神がアナハッチに声をかけた。
「あれ? 私生きてる」
アナハッチは周囲を見回してから自分が生きていることに気が付いた。
「怖かった」
アナハッチはそう呟いてうずくまり、泣き始めた。
「私もあの人も死んじゃうかと思った。私の家族みたいに。私の一族みたいに」
アナハッチを心配している二人は彼女に声をかけることができなかった。もちろん彼女が危機にさらされたのは彼らのせいではなかった。
だが、彼らは自分達が止めなかったことに罪悪感を感じていたし、自分達が彼女を守り切れなかったことを御堂のせいにするような責任転嫁をしたくもなかった。
「あの人は、御堂は生きているの?」
泣き止んだアナハッチは起き上がって周囲を見て、目の前のベッドで眠っている御堂を見つけた。
その直後涙目のアナハッチの表情は少し緩んだ。
「よかった。本当に良かった」
アナハッチはつぶやいた。
「うぇ?」
御堂は起き上がって気の抜けた声を出した。
「あなたが助けてくれたの?」
アナハッチは御堂に聞いた。
「そうだよ」
御堂は答えた。
「あなたは死なない?」
「死なないよ。これくらいじゃ。君の方が重症だろう?」
「私はフェンリル。御堂は人間」
「俺は改造人間だから死ぬ以外はかすり傷だよ」
「私だってこのくらいの傷はすぐ治るよ。それに御堂より強いし、あなたは私が守ってあげる」
「確かにそうだ。でも俺はアナハッチちゃんを守りたい。守りたいものがあるときの俺は何よりも強いんだって自信があるから」
御堂の言葉を聞いたアナハッチの表情が暗くなった。
「私のお父さんはそう言って戦って死んだ。きっとあなたも……」
言葉を言い終わらないうちにアナハッチは泣き出した。
「アナハッチちゃんは何がしたいのか教えてくれない?」
それに対して御堂は少し落ち着いていた。
「私がどうしたいか?」
「ああそうだ。君がどうしたいか教えてくれないと俺は君に何もできない」
アナハッチは泣き止んだ。
「私はあなたに死んでほしくない。だからあなたを守りたい」
アナハッチは自分のやりたい事を御堂に伝えた。