少女とバイクとヤギ男
アナハッチの予想通り。矢沢は彼女よりはるかに強かった。爪の攻撃では怯みもせず、攻撃手段を考えるにも距離をとることができない。
「その程度か? 狼怪人。やはり犬では俺に勝てない。俺にはこんなに立派な角もあるしなっ」
矢沢はアナハッチを持ち上げ、頭突きをして、海のほうへ投げ飛ばした。
「うぐっ」
落下したアナハッチはうめき声をあげた。それは海の下の砂に刺さっていたサーベルの持ち手に頭が当たったからだった。アナハッチはそのサーベルを持って矢沢の方を向いた。矢沢はサーベルを持ったアナハッチを大した脅威に思っていなかった。
「それがどうかしたのか?」
アナハッチは初めから剣を近接戦闘に使うつもりはなかった。
「くらえっ」
アナハッチはその手に持った剣を振りかぶり、矢沢に向かって投げつけた。その剣は矢沢の左の角にあたり、大きなひびが入った。
「なにっ」
うろたえて左の角を押さえた矢沢の隙を見逃さなかったアナハッチは矢沢を蹴り飛ばした。
そのまま倒れた矢沢の左の角を狼の足で踏みつけへし折った。そして飛び上がり、もう一つの角に狙いを定めて足を突き出した。
「許さんぞ」
矢沢は激怒していた。もう一つの角を折ろうとしたアナハッチの足を掴み、彼女の体を砂浜にたたきつけた。そしてアナハッチの狼に変化している左足をそのまま握りしめてへし折った。そしてアナハッチが悲鳴をあげる間すら作らずに顔を握りしめた。
「流石に頭は固いな」
そう言った矢沢はアナハッチの右足も踏みつけてへし折った。そして手に力を入れた。
「さよならだ」
だが矢沢の言葉の通りにはいかなかった。御堂がバイクに乗ったままブレーキをかけて停止しつつ矢沢を蹴り飛ばした。矢沢は海に落下して転がった。そして倒れているアナハッチに声を掛けた。
「大丈夫か!?」
だが、アナハッチの意識はなかった。御堂は慌ててアナハッチの呼吸があることを確認してから、矢沢の方を向いた。
「ぶちのめさせてもらうぞ。矢沢」
だが御堂が矢沢の方を向いた向いたときにはもう矢沢はロボットに乗り込み逃げるところだった。御堂は倒れているアナハッチを抱きかかえてコンクリートの建物の中まで走っていった。階段を駆け下りてそこにあった部屋に入った。
「なにか支えになりそうなものと包帯をもってきてくれ!」
御堂は部屋に入るや否や中にいる女神と賢者に向かって叫んでからアナハッチをベッドに寝かせた。怪我をしたアナハッチを見た女神と賢者は慌てながら周りの棚などから定規やら板と包帯を持ってきた。それを受け取った御堂はアナハッチのそれぞれの足を固定した。
「これで応急処置は終わりか」
「患部を高くしないといけませんよ。ほらクッションをどうぞ」
御堂の勘違いを女神が正した。
「あっありがとう」
御堂はアナハッチの足を持ち上げてその下にクッションをねじ込んだ。
「今度こそ応急処置は終わったか」
そう言った御堂は近くのベッドに腰掛けた。
「ええ」
今度は女神は御堂の言葉に賛同した。
「何で落ち着いていられるんだよ」
しかし賢者は賛同していなかった。
「ここに治せる人がいないんだぞ!」
だがサウリーと御堂は賢者の発言にさほど感情の変化を示さなかった。
「分かっているよ」
御堂の発言に賢者は激昂した。
「じゃあなんでそんなふうに落ち着いてるんだよ!」
「自分が大けがをして目を開けたら周りの人たちが恐ろしいほど慌てている。
この子をそんな状況にするわけにはいかないからだよ」
御堂は静かに賢者を諭した。そしてあることに気が付いた。
「ところでアラーリアちゃんはどこ?」
「そこのベッドで眠っていますよ」
女神が指さしたのはドラゴンが眠っている隣のベッドだった。
「そうか、よかった。」
安堵した御堂はその場に倒れこんだ。