矢沢じゃねえ!
今回は三人称です。
海の上に浮かぶ孤島。
緑は少なくいくつかのネズミ色の建物が立っているだけだ。
そこでは青いウインドブレーカーを着た御堂と、
頭の上に獣耳があったり腕などの体の一部が狼のようになっているアナハッチがいた。
そして彼らは、
背中から四本の足が生えたクモの怪人、
巨大な黒い翼が生えたコウモリの怪人、
腰から尻尾が生えているサソリの怪人、
白い羽の生えたクワゴの怪人、
そして海上に立ったロボットと対峙していた。
御堂が口を開く。
「クモ、コウモリ、サソリ、クワゴ。まさに序盤の怪人だな。
前出てきたクモは幹部ってことか。そもそもあれクモだったか?
あんたらのとこに他のクモみたいな怪人っている?」
怪人はうめき声をあげるばかりで会話になっていない。
質問攻めにしていた御堂の聞き方も悪いが。
「何でそんな長台詞喋って襲われないんですか?」
「さあ?」
そんな話をしていると怪人たちが二人に向かって襲ってきた。
「うおっあぶねっ」
「襲われたじゃないですか!」
二人はうまくかわしつつ会話を続けた。
「俺は襲われないって言ってないよ」
「あっそっか」
クモの怪人が糸をサソリの怪人が毒をアナハッチに向けて放つ。
アナハッチはそれを飛び上がり躱して、そのままクモの怪人に爪で攻撃をした。クモの怪人は吹き飛ばされて動かなくなった。
「クモの怪人なのに足は使わないのね」
御堂は倒れたクモの怪人に黒いプラスチックのカードを放り投げた。
「なにそれ」
「説明はこれが終わったらするからそのカードまもっててくんない?」
「わかった」
クモの怪人にぶつかったカードはゆっくりとその力を吸収し始めた。
アナハッチはカードを守りながらサソリ怪人と戦うことに精神的にも肉体的にも余裕が出てきた。
ロボットがさっきから光弾を自分たちや建物の方へ撃ってこなかったからだ。
アナハッチと違い御堂は苦戦をしていた。御堂が人間を超えた能力を持つ改造人間であることは確かだった。だが、今の彼はかつて負った怪我によってその力を発揮することが不可能になってしまっていた。また、それを補うために使っていた武器も使えない状況にあった。
「何で電送機能が停止しているんだ?」
「手伝おうか?」
「待った。あのロボの方から誰か降りてくる」
降りてくるという表現は正しくなかった。正確には落ちてくるというのが正しいのだった。
その落ちてきたなにかはアラーリアの近くに着地した。すると同時に怪人達が立ち止まった。
「だれですか?」
落下してきた男は平然と話し始めた。
「俺は多次元教団幹部のアロースワンプ」
名乗りをあげた男の名前を聞いた御堂は独り言をつぶやき始めた。
「あろー、すわんぷ? 矢湿地? あっ沢? 矢沢。 てめーヤギ怪人か?」
「何でわかった?」
某特撮作品を見ていたからだとは御堂は口が裂けても言うことができなかった。
「勘だよ」
「まあいい。俺は今の武器のないお前にはいつでも勝てるし、今はそこの狼怪人に用があるからな」
「私は怪人じゃない」
すこしアナハッチはこの男に怒りがわいていた。
「その姿は怪人じゃないか」
そういいつつ男は怪人へと変化した。
「これは私の種族の戦闘態勢だ」
「そうか。でも戦いの最中に呼び方に文句をつけるってのは弱い証拠じゃないか?」
男は適当で雑な詭弁をアナハッチにぶつけた。
「おいお前ら口喧嘩するときに論点をずらしてんじゃねえよ」
それに御堂がずれてる指摘をした。
「喧嘩じゃない」
アナハッチは御堂の発言に更に怒りが沸いた。
「これは私の種族の誇りを守る戦いだっ!」
「「口喧嘩の段階でいうセリフじゃねえだろ」」
御堂と矢沢の意見が一致した。だがこの言葉は少しアナハッチを落ち着かせた。
「そうだな。おい、お前私と一対一で戦え。卑怯な手は使わずにな」
「使うまでもないっていう格の違いがわからないのか?やはり弱いな」
御堂は矢沢にちょっかいをかけることにした。
「おい矢沢! そんな少女をあおらなきゃなんないほどお前は弱いのかぁ?」
そのちょっかいに二人は反応をした。
「そんなか弱い少女みたいな言い方をするなっ!」
「矢沢じゃねえ!じゃなくて、お前には話していない。お前ら相手してやれ」
矢沢が手を御堂に向けると三体の怪人が御堂に向かっていった。
「おい、御堂大丈夫か?」
アナハッチが御堂に声をかけようとしたが、矢沢がアナハッチに向けて光弾を放った。それはアナハッチの右に着弾して、地面が抉れた。
「戦いの最中によそ見をするな」
アナハッチは明らかに自分より強い相手と戦うことに恐怖を感じた。
アロースワンプという呼び方はめんどいので矢沢って呼ぼうと思います。
かわいそうな矢沢。