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顛末


 「起きた……?」


 うっすらと目を開けると、ユミルが心配そうな顔で覗き込んだ。

 ここは……最近来たことあるような雰囲気だな。


 「あれからどれくらい時間が経ったんだ?ついでに場所も教えてくれ」

 「あれから二日ってところだ。ここはギルドとかいうこの街の人族の拠点だ」


 教えてくれたのはイリーナだった。


 「そうか、助かる……痛てっ」


 体を起こそうとすると激痛が全身を走った。

 だが命を燃やした代償がこの程度で済んでいるのならと思うと気は楽だ。


 「アイヴィス!?」


 気ままなティリスも傍にいてくれたらしい。


 「心配かけたな」

 「べ、別にあんたのことだから心配なんかしてないし、寂しいとか思わなかったし!?」


 ティリスは、そんなことを言いながらしかし目には涙が浮かんでいた。


 「少しくらいは、素直になったらどうだ?」


 イリーナがそう言うとティリスは顔を俺の方から逸らすとと小声で


 「もう起きないかもしれないって、心配してた……」


 と言って涙を拭った。


 「心配させてすまん」


 俺も思わず涙が込み上げた。

 かつて大魔術師として名を馳せた頃は多くの人に必要とされていたがそれが今となっては大罪人として追われる身、ここまで俺のことを気にしてくれて涙まで流してくれる。

 そんな人がいるというだけで、これまでのどんな褒賞を貰ったときよりも嬉しかった。


 「ほんと、無理だけはしないでよねっ!」


 そう言うとティリスは、ガバッと抱きついてきた。

 神滅剣ディオス・リズィの管理人格であるティリスは、強く気高くあろうとしているのか涙を見せないように顔だけは伏せていた。


 「これでも使え」


 そう言っていつか渡そうと思っていた新品のハンカチーフをポケットから取り出した。


 「これは……?」

 「この前、ユミルには髪飾りを渡しただろう?ティリスに何も贈り物をしないってのは、公平じゃないなって思ってさ」

 「しゅ、殊勝な心掛けね!使ってあげる」


 ティリスは、ハンカチーフを受け取るとそのまま目を拭った。


 「手本みたいな主従だな」

 「私もかくありたい」


 そこへひと仕事終えたアデリナとミアがやってきた。


 「お前たちはアイヴィスから私を庇おうとしただろう?十分負けず劣らずの主従だ」

 「本当ですか!?」

 「好き……」


 アデリナとミアはイリーナに抱きつく。

 大切な人と大切な時間を過ごせるこの光景を守っていきたい。

 ふとそう思った。


 「ユミル、あれからどうなったんだ?」

 「あなたが倒れてから、イリーナさん達が上手く事態を収束されてくれた。僅かに生き残った聖騎士達は、教会の地下に拘束しているらしい」

 「そうか……よかった」


 それを聞いてホッとした。

 自分が始めた聖騎士との戦いに巻き込んでしまったとも言える住民達が無事ということに満足した。

 どうやって状況を収束させたのかと気にならないではなかったが、ひとまずはそれで十分だった。


 「アイヴィス、冒険者やギルドの面々がお前に例を言いたいと待っているぞ?」


 イリーナが何通かの手紙を差し出して言った。


 「これは?」

 「読めばわかる」


 ふっと笑いながらイリーナが言うので手紙を開けてみると、拙い字で書かれた便箋が入っていた。

 

 『だいまじゅつしアイヴィスさま たすけてくれてありがとう』

 『この街をすくってくれたあなたが私のなかの英雄です』

 『アイヴィス様が、たいざいにんなんて、ぜったいにうそです』


 懸命に子供たちが書いてくれた手紙からは温かさがひしひしと伝わってくる。


 「貴方には、まだやるべきことはいくらでもある。たとえ魔族と刃を交えることになってしまったとしても、私も貴方の隣で戦おうマイ主人マスター


 ここまでどうにか我慢していた涙が自然と溢れ出した。


 「ちょっと!?アイヴィス!!」

 「アイヴィスは、以外に涙脆いのね」


 ユミルとティリスに涙を拭われながら、俺は溢れる心のままに気の済むまで泣いたのだった。

 

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