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#32 リント解放



 「【防御障壁アミナトイコス】」


 数ある防御系統の魔術の中で聖騎士達が使うものと同じものを選んだ。

 理由は力の差を理解させ戦意をくじくためだ。


 「ば、馬鹿な!あれほどの攻撃を凌いで見せただと!?」


 俺がかつての英雄アイヴィスだと知りながら数に頼めば勝てるとふんで掛かってきた敵は、数百の攻撃を全て無効化しただけで狼狽した。

 基礎魔力の差で、同じ階梯の魔術でも強さは異なる。


 「慌てるな!第五階梯を用意しろ!」


 第五階梯の魔術を、一般の聖騎士達が用意するには、魔力譲渡を行い術を行使する者に十分な魔力を持たせる必要がある。

 つまり、時間を必要とするのだ。

 さすがに数十発の第五階梯の魔術を受けるのは、骨が折れる。

 なので、ここで少しでも数を減らす必要がある。


 「【瞬滅殺刃インスタンテ・サイド】」


 空中に複数の闇色の刃が現れる。

 あとはそれを俺の意思で動かせばいいだけだ。

 とりあえずは近くの聖騎士達からだ。


 「うぐッ!?」

 「ヒッヒィィッ」


 闇色の刃は、目にも止まらぬ速さで次々に聖騎士達の命を刈り取っていく。

 俺の意思の方が遅れをとりそうな程だ。

 それにより、行使してる最中の聖騎士達の詠唱が行使者が死んだことにより強制的にキャンセルされ行き場を無くした魔力がその場で爆ぜる。

 それでも彼らの用意した魔術全てを潰しきることは出来なかった。 


 「わけのわからん魔術を使いおって!だがそれもこれで終わりだ!放て!」


 指揮官の号令のもと、空に白い光が溢れる。


 「「「【融合射弩ヴァリスティア】」」」


 現れたのは、いくつかの大きな光の矢だ。

 そして、それが一斉に放たれる。


 「【防御障壁アミナトイコス】」


 持てる限りの魔力を使って、それに対応する。

 砕けてくれるなよ!

 用意した六重の障壁に幾本かの矢が突立つ。

 一枚目の障壁は、あっけなく散った。

 さすがに第五階梯を防ぎ切るには力不足だったか?

 

 『大丈夫なの?』


 ティリスが心配そうに言った。

 

 『まぁ困ったらお前の反射リフレクタを頼る』


 これだけの攻撃をもろに受けたらさすがに神滅剣ディオス・リズィも無傷というわけにはいかない。

 ある程度、相殺して威力を減衰させた上でなら問題は無いだろうが……。

 三枚目の障壁も砕け散る。

 ただ、障壁一枚を砕くのに【融合射弩ヴァリスティア】が消費する時間も少し伸びていた。

 四枚目に亀裂が走った。


 『さすがに第三階梯じゃ無理があるな』

 『そろそろ私を構えた方がいいんじゃない?』

 『そうだな』


 ティリスに促されて俺は、神滅剣ディオス・リズィを構えた。

 四枚目が砕け散り五枚目へと突立つ。

 聖騎士達から歓声が上がった。

 バリバリと音を立てて五枚目に亀裂が走る。

 ただ、目に見えて威力は減衰していた。

 そして六枚目―――――俺も魔力の出力を上げて抵抗を試みる。

 【融合射弩ヴァリスティア】の数は、五つか。

 六枚目が耳障りな甲高い音を立てながら砕け始めた。


 『ティリス頼んだ!』

 『任せなさい!』


 一本、二本……と神滅剣ディオス・リズィの能力である反射リフレクタによって軌道を百八十度反転させられる【融合射弩ヴァリスティア】。


 「こ、こんなことがありえるのか!?」

 「く、来るなぁぁぁ」


 冷静な判断を失った聖騎士達に次々と突立つ光の矢。

 自分達が全ての魔力を注いで作りあげた攻撃が自分達を襲うという絶望に打ちひしがれながら、聖騎士達が次々と肉塊へと変わっていった。

 これで南門周辺の聖騎士達は片付いたか。


 「俺達もアイヴィスに続くぞ!」


 残った聖騎士達に対して武器を持った冒険者達が遅いかかる。

 街の至る所で勢いづいた住民達が聖騎士達に斬りかかり始める。

 ここからがいかに住民の犠牲を減らせるかの正念場だ。

 

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