#30 救出
「……本当に反則魔術師……なんで飛べるの……」
ミアが不満そうに言った。
俺達はリントの街へ向かって【隠蔽】を行使した状態で姿を隠しつつ【飛行】を並列行使することによって飛びながら移動している。
「俺を含めて五人を飛ばしてるから魔力の消費は結構デカイな」
ティリスは神滅剣の姿になっているからカウントには入らない。
「あれ、さっきまでいたちんちくりんはどこ行ったんだ?」
アデリナが炎髪を風に靡かせながら言った。
『誰がちんちくりんよ!このまな板魔族が!!』
アデリナの言ったことを聞いていたのかティリスはご立腹だ。
『知ってるか?争いってのは同レベルの奴同士じゃないと起きないんだよな』
『アイヴィスは、どっちの味方なのよ!?』
神滅剣の姿だから念話で声しか聞こえないがティリスの姿になったら、地団駄を踏んでムキィィィィとなっているんだろう。
「あれは、神滅剣の管理人格だ」
イリーナが代わりに説明してくれた。
「やっぱり……反則……」
管理人格を持つということは、神滅具であることを意味している。
神滅具は、伝説級の魔道具以上に素のポテンシャルが高い。
「そんなヤバい奴だったのか……」
アデリナは、絶句している。
そうこうしているうちに、リントの街の上空に到着した。
「イリーナと二人は、広場の人達を救出してくれ。俺は、ユミルと一緒に正面で聖騎士達を引きつける」
「任せて」
イリーナは力強く頷くと街中央の広場へと向かって行った。
「ユミル、俺達は南側の門へ行こう」
「えぇ、そうね」
いよいよ、戦闘開始だ。
◆◇◆◇
「ミア、聖騎士達と十字架に縛られている人達との間に壁を作って!」
「任された……」
ミアは、錫杖を突き出し詠唱を唱える。
「……【凍結防御コンジェロ・オベクス】」
バリバリと音を立てて氷壁が広場に形成される。
「な、なんだ!?」
「何が起きている!?」
今、まさに十字架に火を放とうとしていた聖騎士達が予想外の事態に慌てふてめく。
「アデリナは、縄を解いて!聖騎士は、私が片付ける!」
「はい!」
伝説級の魔道具、ロムルスを構えると同時にタイミングよく「【隠蔽】」の効果が切れた。
「ま、魔族が出たぞー!」
「や、やはり異端者がいたのか!?」
混乱の度合いは、さらに増す。
その間にもアデリナがテンポよく縄を解いていった。
「処刑対象を逃がすな!捕まえろ!」
縄を解かれて逃げ出す住民達を追いかける聖騎士の前にミアが立ち塞がる。
「【永劫凍廻】」
詠唱一声で聖騎士達は、その場で動きを止めた。
体内の液体が瞬時に凍ったために動けなくなったのだ。
「……死ね」
ミアは、錫杖で凍った聖騎士達を小突く。
すると彼らの肉体に亀裂が走り砕け散った。
「さて、次はお前達の番だ」
イリーナがロムルスを持って前に踏み出すと聖騎士達がじりじりと後ろに下がった。
「【散弾】」
じりじりと下がりつつも数を頼って低階梯の魔法を撃ち込んでくる。
「その程度でどうこうしようとは舐められたなぁっ!【業火一閃】!」
お返しとばかりにアデリナが放ったのは第五階梯の魔法。
あっという間に、聖騎士達が焦げた肉塊へと変わった。
「怯むな!数で押せぇ!」
それでも聖騎士達には、数という頼もしい味方がいる。
一斉に剣を抜いてイリーナへと襲いかかる。
「フン、懲りない奴め」
イリーナは、鼻で嘲うとロムルスを大きく振り回して軽く十人近くを吹き飛ばした。
そこに阿吽の呼吸で撃ち込まれるアデリナの魔法。
主従の連携で聖騎士達を寄せ付けない。
「そろそろか?」
イリーナが南門の方向をチラリと見た。
そしてタイミングを測ったように南門の方で爆音が上がった。
「やってくれるな!ミア、アデリナ!さっさと片付けて向こうに合流する!」
負けられないとばかりに、イリーナはロムルスを握りしめると聖騎士達の中へと飛び込んで行った。




