#23-2 廃教会
「【加速】、まずは小手調べと行きましょう」
【加速】で物体の移動速度を上げた鎖が唸りをあげて飛んでくる。
『折れることは無いと思うけど気をつけて』
ティリアが警戒を顕にして言った。
『わかっているさ、絡め取られない限りは、問題ない』
あの手の武器は、相手の武器の動きを封じてからが勝負だ。
そのために分銅は、鎖の両端に付いている。
軌道を見切って神滅剣で払い落とした。
「大魔術師とされながら、メインの得物は神滅剣とは、面白いですね」
戦いの最中でも構わず、青年は喋りかけてくる。
通常の魔術師は、錫杖を携帯するのが一般的なスタイルだ、だが俺は違う。
高級な魔道具ほど自身の使い手を選ぶ傾向にある訳なのだが、俺は神滅剣に正しくは、その管理人格のティリスに使い手として選ばれたために錫杖ではなく剣を使用することになった。
勿論、魔力を増幅させる媒体としても神滅剣は、使えるわけではあるが近接戦を神滅剣で、そうでなければ魔術を行使して戦うというのが俺の戦闘スタイルだ。
「これならどうでしょうか」
先程同様、分銅付きの鎖が【加速】の効果を付与されて飛んでくる。
その軌道を見切って神滅剣で払い落とそうとしたが今回は違った。
払い落とそうとする直前で
「【意従避跡】
青年の行使した魔術によって分銅は、神滅剣の剣先を避けた。
「させない!」
イリーナのロムルスが俺の眼前で分銅を払い落とす。
「そうでした、イリーナ・ブランジェもいたのでしたね。すっかり失念していました」
実際は、ただイリーナを煽っているだけなのだろう、イリーナを苛立たせて冷静さを削ぐのが目的か……。
「お前たち、仕事の時間だ。【使役】!」
青年の一声で、いつから居たのかまだ年端もいかない子供達が礼拝堂の柱の影から姿を現した。
その誰もが力無い目をしている。
「最悪な趣味だな」
無垢な子供を使役して強制的に戦わせようという手段。
彼は、俺がこれで大規模な魔法を使えなくなると思っているのだろう。
俺の手を封じた気でいるのだ。
だが、針の穴に糸を通すような魔術こそ、闇属性を得意とする俺の独壇場だとも知らずに。
「お褒めに預かり恐悦至極、戦いが終わりましたら貴方も特別にこの中に加えて差し上げますよ。僕の玩具にね!」
歪な微笑みを顔一杯に湛えて青年は言った。
「それじゃあ坊や達、あの怖いお兄さんに攻撃だ」
八人の子供達が、手に剣を持ってじわじわと近づいてくる。
どうかかって来られても大丈夫なように、神滅剣をしっかりと中段に構える。
「アイヴィス、聞いて!」
そのとき、戦いが始まってから今まで一言も喋らなかったユミルが、慌てたように言った。
「どうした……?」
ただ事では、無さそうな雰囲気に思わず聞き返す。
「この中に、ミリィちゃんに似た生体反応の子がいるわ」
そうか、何としてもこの勝負、誰一人として傷付けずに終わらせなければならないか……。
自然と神滅剣を握る手に力が入った。




