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#23 廃教会



 「随分と綺麗にされてるな」


 歩く音が響くほどに高いステンドグラスで装飾された天井。

 廃教会と聞いて、どれほど傷んでいるかと思えばそれほどでもなかった。

 確実に人の手が入っていることは間違いない。


 「そうね、私を崇める教会にしたいぐらいよ」


 ユミルが冗談とも本気ともつかないことを言う。


 「それもそれでいいかもな」


 礼拝堂ももぬけの殻だ。

 いくつかある建物を見て回っているが、どれも人の気配がない。

 子供が幽閉されているとしたらもう少し、人の気配とか画あってもいいはずなのにな……。


 『何か引っかかるわね』


 神滅剣ディオス・リズィの姿に戻ったティリスも不信感を顕にしている。


 『ひょっとしたら、次元牢獄の中だったりするか?』


 教会の中に立ち入った瞬間から敵の魔法の罠にかかっているということもありえなく無い。

 むしろ、大戦の最中では一般的なトラップですらある。


 『一旦、出口を探ってみて』


 こんなときでも、ティリスは冷静さを欠かないから頼もしい。

 礼拝堂の壁伝いに歩いて扉があればそれを開けようと押して回るがどれ一つとして扉は動かない。

 【晦冥壅塞オブスクーリタース・クラウデ】に似た何かを感じる。


 「次元牢獄らしいな」


 イリーナもさすがは一軍を任されていた魔族だけあって状況をしっかりと把握していた。

 すると天井から声が聞こえた。


 「ようやく気付かれましたか」


 ゆらりと空中に現れたのは、貼り付けたような不気味な笑顔を湛えた青年。

 胸元には、オストランド聖教の聖騎士団の紋章が刻まれている。


 「ふふっ、大罪人アイヴィス、創造神ユミル、そしてイリーナ・ブランジェ、そろい踏みですねぇ」


 空中から降りたきた青年は、礼拝堂と中央に降り立つと紳士よろしく一礼してみせた。


 「ここから出せと言っても出してはくれないのだろ?」


 次元牢獄から出れるのは、その魔術を行使した者だけ。

 ちなみに次元牢獄に類する魔術は、どれも第五階梯以上のものであるから、目の前の青年は相当の魔術師と言える。

 人として達する限界の第五階梯の魔術を使ってもなお余裕のある様子を見せているあたり実力は疑いようもない。


 「それは、できない相談ですね」


 彼は表情を変えずに言った。

 それほどの実力があるのであれば、大戦にも出ていたはずなのに俺には、当てはまる人物が思い浮かばない。


 「お前は、大戦のとき何をしていた?」


 歳も俺とさほど変わらない。

 俺で戦争に出ていたのだから、彼も出ているはずだ。


 「答える義務は無いので、答えません」


 貼り付けたような笑みのまま言った。

 正体は掴ませてくれないか……。

 それならそれで仕方ない。

 だが、彼にはもう一つ訊きたいことがある。


 「【不死者の庭】の亜神もお前の手によるものか?」


 ティリスやユミルが言うには、破滅の秩序を司る神の神核の複製を有する存在。


 「亜神?何のことですか?」

 

 急にきょとんとした顔になったあたり知らないのか、あるいはブラフなのか。


 「お前も知らないのか?これを見ろ」


 深紅の神核を見せてやる。


 「これは、上に報告すべき案件ですね。ですが、何事にも予想外は付き物、これもその一つに過ぎないでしょう」


 青年は、そう言うと肩に巻いていた鎖に手を掛けた。

 得物は、鎖か……先端には重りが付いていてそれで相手に痛打を与えるというわけか。


 「そろそろお喋りも終わりにしていいですか?」


 ダメだと言っても殺り合うことには変わりない。


 「好きにしろ」

 

 俺は、神滅剣ディオス・リズィの柄に手をかけた。

 イリーナもロムルスを構える。

 

 「ではショータイムを始めましょう」


 不敵に微笑んだ青年は、静かに鎖の先端に付いた重りを回し始めた。

 

 

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