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#015 再戦の行方



 「前回のときは本気じゃなかったんだな」


 ラパスの剣戟は、より速さと鋭さを増していた。


 「実力ってのは、小出しにしてくもんなんだよ。最初から全力なら底が知れるらぁ」


 俺と同門というだけあって動作には無駄が無い。

 俺の剣の師は、俺の知らないところでとんだ化け物を育てていたらしかった。


 「【覇牙ラーミナ】」


 剣戟にもちいる魔術を用いてラパスの僅かな隙を突いていく。

 周囲に現れた鋭利な刃が、それぞれに意思を持っているかのようにラパスを攻撃する。

 しかし、それは簡単に弾かれてしまっていた。


 「おいおい、剣の試合に魔術をもちいるとは、随分とやり方が汚いんじゃないのか?」


 ラパスは後方へ飛びのき俺との間に距離を取ろうとする。

 態勢が安定しないその瞬間を逃す手はない。

 

 「【瞬滅殺刃インスタンテ・サイド】」


 常人では、視界にとらえることのできない闇色の刃をラパスは地に足をついてない状態にも関わらず短剣で払い落とした。


 「危ねぇな」

 「【瞬滅殺刃インスタンテ・サイド】」


 再び同じ魔術を行使する。

 先程のものよりも刃の数を増やしたものだ。


 「【瞬滅殺刃インスタンテ・サイド】」


 ラパスも同じ魔術を行使し俺の攻撃を自らの攻撃でいなした。


 「魔術も使えるんだな」

 「使えないとは言ってなかったかっただろう?」


 確かに教会で対峙したとき、ラパスはそんなことは一切口にしていなかった。

 なら俺の攻撃を短剣でのみ受けきったということか。


 「確かにな」

 「最初から手の内を明かすってのは馬鹿のすることだぜ?」


 【瞬滅殺刃インスタンテ・サイド】は第三階梯の魔術。

 それを十全に行使できるくらいにはラパスは魔術を使えるということなのだろう。

 それなのに魔力の気配が薄弱なのは――――――魔力を隠蔽しているということか。

 つまり隠蔽をする魔術と攻撃のための魔術を並行で行使しているということになる。


 「並列行使までできるんだな」

 「そこまでお見通しかよ」


 並列行使を止めればラパスは第四階梯すら人の身であるにも関わらず行使できるのかもしれない。

 油断できないな……。


 「【闇斬シーカーリウス】」


 ラパスが自身の短剣に魔力を纏わせて刺突してくる。

 その速度は、以前よりも増して速い。


 「【加速アジタート】」


 ラパスの刺突に対応できるようこちらも加速させる。

 もはや常人では、剣はおろか手元さえ見ることはできないだろう。

 【闇斬シーカーリウス】によって二本の短剣が数本に増え、狙いすましたように死角を突いてくる。

 しかし、神滅剣ディオス・リズィで払い落としても手ごたえを感じさせず霧散してしまうものが多い。

 つまり二本以外は幻覚ということか……?

 だとしたら随分と厄介だ。

 俺には、どれが本物かを見破る術がない。

 ならば、すべてを打ち払ってこちらから攻撃にでるまでだ。


 「【極限加速プレスト・アジタート】」


 【加速アジタート】の上位互換である【極限加速プレスト・アジタート】を行使する。

 

 「なっ!?速い!!」


 【極限加速プレスト・アジタート】によって俺が神滅剣ディオス・リズィを繰り出す速さは【加速アジタート】の二倍にまで速くなっている。


 「押し負ける!?」


 ラパスが息を飲み驚愕に顔を染めた。

 ラパスの刺突を全て払いのけるだけでなく逆にラパスに攻撃までしているのだ。

 辛うじてラパスは、それを短剣で弾き返してはいるものの腕や顔、脚に浅い傷が目に見えて増えている。

 完全にしのぎきれていないのだ。


 「俺に押されてたんじゃないのかよっ!?」


 ラパスが悔し紛れに、そんなことを言うから一言、ラパスの言葉を借りて返す。


 「最初から手の内を明かすってのは馬鹿のすることだ」


 ラパスが距離を置こうと飛び下がるが、その距離を詰める。

 優位に押しているのだ、仕切り直しにさせるわけにはいかない。


 「にしてもこんなの―――――」


 ラパスが何かを言いかけたとき、彼は神滅剣ディオス・リズィの突きを避け損なったのか首筋に赤く血がほとばしった。

 神滅剣ディオス・リズィを握る俺の手にも確かな鈍い感触。

 血潮が勢いよく噴き上がる。

 白い屋敷の柱と廊下のタイルを血雨が染め上げる。

 

 「勝負あったな」


 生を失ったラパスの体が、自身の血だまりへと倒れ伏した。




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