#014 再戦
「ユミルは、この辺で見ててくれ」
屋敷の中に入っていくわけなんだが屋内での戦闘となったときにユミルを守り切れる自信は無い。
それにユミルに屋内戦の心得があるはずもない。
「わかった」
俺の考えを察してかユミルは素直に頷いた。
「【隠蔽】」
ユミルが狙われることの無いように一応、俺以外から存在を認知できないようにしておく。
「じゃぁ、行ってくる」
「気を付けてね」
ユミルに見送られて屋敷へと向かう。
自分の姿も隠せたらと思うが、行使する者自身に行使できないというのは魔術の大鉄則だ。
治癒魔術だとか防御魔術とかといったような例外も数多く存在するが……。
「私も戻るね」
「あぁ、頼む」
ティリスも神滅剣の姿に変わった。
屋敷の門に聖騎士が二人―――――俺の存在に気付いたのか剣を鞘から抜いた。
「【静寂】」
俺と二人の聖騎士のいる空間から音を消す。
これで屋敷内の聖騎士たちに気づかれないはずだ。
「【毒牙破斬】」
間髪開けず次の魔術を行使。
空間を切り裂くように伸びた禍々しい突起が二人の聖騎士を鎧ごと貫いた。
音の無い空間には絶鳴さえ聞こえない。
勢いよく噴き上がった血潮が地面を赤く染め上げた。
門の外から、中の様子を覗う。
「問題ないな」
豪奢な四本立ての馬車にもその周りにも人影は見受けられない。
馬の頭数を数えれば、ここにいる聖騎士たちの人数もわかるはずなのだが馬はいなかった。
『おそらく、教会から逃げた奴らね』
ティリスが念話で語り掛けてくる。
『そうだな』
転移の巻物で逃げた聖騎士たちは馬を伴って逃げてないから、ティリスの推測はあてはまるはずだ。
『なら屋敷の中に行くぞ』
「【気配探知】」
気配探知をしてイリーナ・ブランジェの気配を探すと屋敷の奥の方から弱々しいが感じることができた。
「衰弱しているか……早く行った方がよさそうだな」
おそらく聖騎士たちに襲われたのだろう。
抵抗しなかった理由に引っかかりを覚えるが……あるいは抵抗できなかったのか。
まぁ、そんなものは今はどうでもいい。
『とりあえず、ちゃっちゃと身柄を奪還しなさい』
ティリスの言う通り後からできる心配は後からすればいい。
最優先なのは、身柄を押さえることだ。
『あぁ』
短くティリスに返事をして屋敷内に踏み込む。
罠の類もない。
まだ、ここに来て時間は経ってないということか。
気配探知の魔術を行使したままエントランスに立ち入る。
一…二…三…四…五…五人か、多いな。
「【静寂】」
さっきと同じように空間から音を消す。
口を開け指を指し何かを言っているが音の消えた空間からは何も聞こえない。
「【毒牙破斬】」
数秒にも満たないうちに五人は体に大きな風穴を開けられた。
体に開いた穴からは向こう側の壁が見える。
そして血の海に聖騎士たちは倒れ伏した。
気配探知が示す気配は、すでにエントランスには無い。
そのまま廊下を進む。
狭い空間では、退路を断たれれば殺られてしまう危険性があるために気配探知をしているとはいえ後方確認は怠らない。
廊下の向こうで立ち話をする二人の聖騎士が見えた。
「【瞬滅殺刃】
俺と二人の聖騎士の間にはそれなりに距離があったのにも関わらず空間を切り裂く闇色の刃がコンマ数秒で聖騎士の胴体と首を分断した。
声を上げる時間さえ与えない。
「ほぉ、それが本当の大魔術師アイヴィスの姿かぁ。これは勇者として民衆には見せられねぇなぁ」
廊下の曲がり角から一人の男が現れた。
教会では名をラパスと言っていたか。
「ふん、時間が惜しいからな」
丁寧に答えてやる義理は無いから答えを濁した。
「実は俺は、お前の師を知ってるんだよな」
ラパスは、ニヤつきながら言った。
その言葉は予想外だった。
その事実は一般に伏せられているはずだ。
「なんたって同門だからなぁ?」
ラパスがいつの間に握っていたのか両手に短刀を構えて突貫してくる。
速いっ!?
とっさに神滅剣を抜いてラパスの剣戟を受ける。
「思ったよりは早かったが再戦と行こうか、アイヴィスよぉ」
神滅剣ごと俺を圧し潰そうとでもするかのように二本の短剣を神滅剣に押し付けながらラパスは言った。




