#011 聖業贖罪
「【防御障壁】!!」
展開した半透明の壁にいくつもの光の矢が突き立つ。
数が多いな……。
多くの聖騎士が駐屯する教会に乗り込んだため相手取る聖騎士の数は大凡百といったところだ。
基礎魔力がいかに俺の方が大きいとはいえ、同じ第三階梯の魔法では不安だな。
「数では我々の方が勝っている。犠牲は気にするな!!手数で勝負しろ」
聖騎士たちの中から頭目と思しき騎士が指示を下す。
これだけの騒ぎになっていれば教会周辺の住民に目撃者が出て騒ぎになるだろうと思ったが、どうやら結界を張ってあり俺たちの姿は外からでは見えないらしかった。
「【散弾】」
隙をついて撃ち込まれる第二階梯の魔術。
「【神盾】!!」
それを咄嗟のタイミングでユミルが防ぐ。
「助かるってか、創造魔法って戦闘にも使えるんだな」
正直なところ戦力としてユミルには、あまり期待していなかったが以外にも創造魔法は汎用性が高いらしく戦力としてある程度の期待をしても良さそうだった。
「これぐらいなら私にも一応できます。ただ魔力に余裕がないので……」
ユミルの展開した盾は、【散弾】の猛攻を凌いでみせた。
「十分だ。その調子で頼む」
今度は俺の番だな。
いつまでも防戦一方でいるわけにはいかない。
今度はこちらからいかせてもらおう。
「【超空粉砕】!!」
さっきので【散弾】を超える激しさで多数の火箭が俺の正面にいた多数の聖騎士へと襲い掛かる。
「【防御障壁】!!」
聖騎士たちも自分たちの身を守るために防壁を展開するが【超空粉砕】はそれを容易に貫いた。
それだけに延長線上に存在する建物をも貫く。
「な、なんなんだ……あれはっ!?」
聖騎士たちは目の前の光景に慄く。
第五階梯の魔法は、それほどまでに圧倒的だった。
軽く十五人は殺ったか?
さっきまで人だった肉塊が目の前に散乱している。
「怯むな!!」
頭目の声に眦を決した聖騎士たちが俺達を推し包むように円形に広がり距離を詰める。
「【審判一矢】!!」
全周に展開された防壁に再び光矢が突き立つ。
『アイヴィス、そろそろ私にも出番が欲しいわ』
ティリスが念話で話しかけてきた。
『ユミルにばっかりいい顔させてられないってか?』
『うるっさいわね!!ごたごた言わずさっさと私にもいい顔させなさいよ』
図星かよ……。
でもティリスは神滅剣の管理人格だ、昂ることもあるのだろう。
「【審判一矢】」
聖騎士たちの行使する魔術と同じものを俺も行使する。
「あれが、同じ魔術なのかッ!?」
信じられないものを見るよう顔をして何人かの聖騎士がそのまま息絶えた。
慈悲もなく許容もなく、か……。
師匠の言葉を思い出す。
敵に対しては、それぐらいの気持ちで臨むのだと。
「【滅厄破斬】」
そろそろ決着をつけようか。
俺達を囲むような態勢をとる聖騎士たちに対して、円状に闇色の球体が展開する。
そしてそれは、高速で回転しだんだんと聖騎士たちとの距離を縮める。
そのとき――――尖塔から一つの影が舞い降りた。
「そうは、させねぇぜ?」
その男が短剣を投擲する。
「【爆却】!!」
俺は、その男をまず消すべく【滅厄破斬】を爆ぜさせる魔術を行使した。
「ちょっと遅かったなぁ」
既に【滅厄破斬】の魔法陣は破壊されていた。
だが男に強大な魔力を持つ気配はない。
魔法陣を消し去ったのは、あの短剣か……。
だとするのならば、あれは魔道具か魔術耐性を持っているかのどちらかだ。
【滅厄破斬】は第六階梯の魔術だ。
それに耐えうるということを考えれば、あの短剣にも第六階梯以上の魔術がかけられていると考えていい。
「誰の差し金だ?」
この男からは、第六階梯の魔術を行使できるほどの魔力を感じないから後ろに卓越した魔術師が、あるいは大きな後ろ盾があると考えるべきだ。
そしてこの男を此処に差し向けた、ということは組織ぐるみで子供の誘拐が行われているということになる。
問題を解決するなら根本から絶たないとな。
「答える義理はねぇーよ」
褐色の肌に銀髪の男は口元を歪めるように嗤うと短剣を構えて低く突進してきた。
「遊ぼうぜ?」
それをすんでのところで躱す。
相当な手練れだな。
『思ったより早く、抜くことになった』
念話でティリスに話しかける。
『構わないわ。ただ、なるべくサクッと落として私が後からあの女に威張られないようにしなさいよねっ!!』
『善処はするが、思ってるより簡単にはいかなそうだな』
神滅剣を静かに鞘から抜いた。
「【散弾】!!」
黙って見ている気はないのか聖騎士の一人が魔術による攻撃を繰り出す。
「反射」
それを神滅剣が吸収し、まったく同じものを聖騎士に返した。
「ぐぉッ……」
一秒にも満たない時間の中で聖騎士は防御魔術を展開する暇もなく文字通り散った。
「そいつが神滅剣ってやつか。お前から奪ったら俺の物になりそうか?」
神滅剣は持ち主を選ぶ。
お前が、ティリスの琴線に触れれば選ばれることもあるかもな。
「どうだろうな。この聖剣、意外に気難しい性格をしていてな」
『ちょっと、何よ!!私の性格が気難しいって!?』
こころなしか神滅剣が震えてティリスが念話で不機嫌そうに声を荒げた。
『言葉のあやだ』
『どこがよ!?』
適当に誤魔化そうとしたが無理だった。
「面倒くさいのは女だけで十分だぜ。俺がお前からそれを奪ったら質屋に持ってって借金の返済にでも使わせてもらうぜ」
男は、そう言って舌なめずりをした。
「ふん、好きにしろ」
男の身辺事情になど興味はない。
「お前たち聖騎士じゃ、此奴には勝てねぇ。不必要に手を出すんじゃねぇぞ?」
男は、周りの聖騎士たちに一声かけると姿勢を低くした。
「おっしゃぁ、行くぜぇぇぇぇっ」
男が斜に構えた短剣を突きだす。
その動作を見切って神滅剣で払い落とし軌道を逸らす。
懐に飛び込間まれれば厄介だな。
「【飛行】」
地面を蹴り軽く後ろに飛んで距離を置いた。
「逃げんのかよぉ?」
男が距離を縮めようと走り出す。
「【必滅剣殺】」
走り出した男めがけて第五階梯の魔術を乱発する。
「おいおい、危ねぇな」
男は、そのどれをも短剣で叩き落としてさらに距離を詰める。
なら、数を増やせばいいだけのことだ。
「【必滅剣殺散擲】」
二種類の魔術を組み合わせ、さらに攻撃の速度を加速させた。
男は、それでも軽々と俺の魔術を叩き落とす。
常人であれば、彼の手の動作を目で追いかけることはできないだろう。
「っクソ」
男が一発を避けそこなったのか、態勢を崩した。
そして男の魔力反応が途絶えた。
殺ったか?
魔力反応が途絶えたということは、魔力機関の機能停止を意味する。
つまり、死んだということだ。
だが俺の手ごたえは雲を掴むようなものだ。
近づいて確認するか。
そう思い男に近づいた瞬間―――――
「なんてな」
男が目にも止まらぬ速さで手首を返し短剣を擲った。
「やはりか……【飛行】!!」
瞬発的に、その場から飛び下がり短剣から逃れる。
短剣は、俺のいなくなった虚空を切り裂くと意思を持っているかのように男の手元へと戻った。
「さすがは大魔術師アイヴィスってところか?接近戦もこなせるとは驚きだ」
男は立ち上がって再び短剣を構える。
今度は両手に一つづつだ。
「ラパス様、ガイドス導師の避難が終わりました!!」
そこに一人の聖騎士が駆けてきて、そう言った。
この男、ラパスというのか……これだけの手練れなら聞いたこともありそうなんだがな、聞いたことのない名前だ。
「そうか、なら俺達もお暇するぜ」
聖騎士が巻物を懐から取り出した。
転移をして逃げるつもりか?
なら逃すわけにはいかない。
「【超空粉砕】」
巻物から展開された魔法陣に向かって魔法をぶち込む。
「その手は通じねぇぜ?」
男の二本の短剣が【超空粉砕】を切り裂き消滅させた。
「お前らから先に行け」
男は聖騎士たちにそう言って聖騎士たちから先に転移させていく。
そしてその場には俺とユミルとその男だけになった。
「今日の立ち合いの土産に俺の正体を教えてやるよ。聖業贖罪って聞きゃわかるだろ?」
転移していく寸前、男はそう言った。
「んじゃ、この対決の続きはまた今度だぜ?」
男は、笑いながら転移の魔法陣へと消えていった。
聖業贖罪か……それは俺にも聞き覚えのある組織の名前だった。




