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煽り女子と王子シリーズ

乙女ゲームの世界に転生したモブの話

作者: リィズ・ブランディシュカ



 私が仕えている人。悪役令嬢になる予定の少女は、王子様に嫌われているらしい。


 乙女ゲームの世界に転生した私は、その事実を再確認した。


 私が仕える主、お嬢様は悪役令嬢だ。


 将来、断罪される運命にある。


 今は、原作開始から三年前。


 けれど、もうこの頃からすでに、不穏な気配が出ていたようだ。


 お嬢様は、婚約者である王子様の事を大切に思っているが、その思いが強すぎて時々強く干渉してしまう事がある。


 だから私は、お嬢様に遠回しに色々言っているものの、聞き入れてもらえていないようだった。


 原作知識の事など、知らないふりをする事もできる。


 ゲームの知識を知っているから、何かをしなければいけない義務などない。


 そもそも自分が転生者だという事は誰も知らないはずだ。


 誰も私をなじる事はできない。


 そもそも、いさめてどうする。

 私はただの一般人。特別な人間などではない。

 自分に何かができる。などとうぬぼれたりはしない。


 主人公や登場人物のように、誰かを救ったり、支えたりすることなどできやしないのだ。


 私は、今月で契約期間がきれるため、契約の更新を行わなければそのままお嬢様の元から去るだろう。


 その後は、おそらく、二度と会う事はないはずだ。


 だから一度去ってしまえば、お嬢様が断罪される時に巻き込まれる事はなくなるだろう。


 だが、私は躊躇っている。


 お嬢様は自分の欠点を知っていて、誰かにとめてもらいたがっている。


 けれど、知らない人などいないほどの名家の生まれであるお嬢様に、表立って意見できる人間はいなかった。


 家の者は溺愛しているため、論外。


 使用人たちは、緊張のあまり粗相ないように勤めるだけで手一杯。


 今現在、未来の事を考えて気を回せるのは、私しかいないかもしれない。


「あら、ここにいたの?」


 考え事をしている間に、お嬢様が話しかけてきた。


 周囲の光景が視界に入る。


 そうだった、今は馬車の中。


 お嬢様について行って、婚約者である王子様がいる王宮へ訪問するところだった。


 この前も追い返されていた。

 だから、今回だって追い返されるに違いない。


 しかし、お嬢様は門前払いされる事など全く考えていない様子で、ご機嫌だった。


「お嬢様」

「何? どうしたの?」

「いいえ」


 屈託のない笑顔を見せて「そう」と納得する少女。

 ただの無邪気な子供のようだった。


 きっと追い返されたとしても、次も訪問するに違いない。


 いつか破滅して、相手に嫌われていたと分かるその日まで。


「今日も門まで一緒に行くわよ」

「ええ、ご一緒します。お嬢様」

「他の人は馬車で待ってるのよ? まったくひどいんだから」


 それは追い返されるのが分かりきっているから、などと言う勇気が私にはなかった。


「い、一回しか言わないんだからねっ。面倒くさがりながらもいつも一緒につきあってくれるのはあなただけよ」


 お礼を言っているようには聞こえないが、お嬢様にとってそれは精いっぱいのお礼の言葉だったのだろう。


 へたすぎるその言葉を受け取った私は、ため息をついた。


「お嬢様、お話があります」


 書きかけの退職届が、無駄になってしまうかもしれない。あるいは今ここで退職届を書く間もなくクビになるかもしれないと。そう思いながら。



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