異常な私の異常すぎる鼓動
現在の私は異常だ。
あの男を見る度に胸がドキドキする。
心臓が張り裂けんばかりにバクバクと脈打ち、暴れ回る。
これは、正常ではないだろう。
だから私は異常だ。だって、心臓が飛び跳ねて暴れるのだぞ。まるで暴れ馬にでもなったかのようだ。
南の島二日目の早朝。
このままでは今後の任務に支障が出ると思った私は、ついに相談することにした。
「……で? 相談って何よ?」
「それはだな……。ある友人の話なんだが、その友人がある男を見る度に心臓がドキドキバクバクするらしいのだ。その男を見た時だけ起こる現象らしいのだが、私はそれを病気だと思っていてな……。だが、念の為にサーチャ殿の意見も聞いておきたくて、聞いたという訳だ」
するとサーチャは、ふふーんといった目を私に見せ、
「端的に言うわ。それは病気じゃなくて『恋』よ」
「ふぁっ!?」
「何を驚いてんのよ? アイラじゃなくて友人の話でしょ? ね? アイラ?」
「そ、そうだな。これは友人の話。私が驚くことではないな。ははは。そうかー。友人にそれは恋だと早く知らせないとなー」
いけないいけない。
驚きのあまり、普段出さないような声が出てしまった。
し、しかし……。
まさか……。
わた、わた、わたたた、私が恋をしただとっ!?
恋……つまり好きだと!?
それもあの男にか!?
ありえん!
ありえんが……。
「どうしてサーチャ殿は恋だと断定したのだ?」
「それはね……。アタシも同じような経験をしたからよ」
「なるほど。自分の経験からその答えを導き出したという訳か」
「そうよ。アタシはその、シエルに恋をした訳だけど、初めは恋じゃないと思っていたの。恋じゃなくてただ心拍数が上がっただけ、そう思っていたわ」
「それはどうしてそう思っていたのだ?」
「アタシは魔物に襲われそうになったのをシエルに助けて貰ったんだけど、魔物に襲われたら心拍数が上がるじゃない? だから次にシエルを見たときにドキドキしたのも、その時のことを思い出してただ心拍数が上がってるだけだと初めは思っていたの」
「でも、それが恋だと気づいたんだろ? どうして気づけたんだ?」
「それはね。いつまで経っても治らないし、四六時中シエルのことを考えるだけで、ドキドキしていたからよ。そこでアタシは気づいたの。これはただ心拍数が上がっている訳ではない。きっと恋をしたんだって。そして思ったわ。シエルも魔物だったんだって」
「シエルが魔物?」
「だってそうじゃない。魔物と同じように、私の心拍数を否応なしに上げるのよ。全く、罪な男だと思ったわ」
なるほど。魔物……か。
「ありがとう、参考になったよ」
「それはどうも。ぜひ有効にするように、友人に聞かせといてね。友人に」
なぜ二度も友人と言ったのだ?
まあいいか。
これでスッキリした。
そしてハッキリした。
私は恋をしてしまったのだ。
あの男に。
好きになってしまったのだ。
あの男を。
そして奴も魔物だったのだ。
得意じゃないか。
魔物を攻略するのは。
決めたぞ。
私はあの男を、いや、あの魔物を捕獲する。
捕獲して、私のものにするんだ。
しかし、問題がある。
そう、まずはどう捕獲するかについてだ。
というか今思えば、迷いの森で私は野ウサギの捕獲に失敗しているではないか。
野ウサギよりもすばしっこはなさそうだが、知能がある。感ずかれたら遠ざけられてしまうかもしれん。
そして仮に捕獲できたとして、その後どうやって魔物と付き合っていくかについても非常に重要だ。
あの魔物は現在リマが管理していると言っても過言ではない。
リマにご挨拶でもしたほうがいいのか。
うーむ。どうしたものか。
とりあえずできることからやっていこう。まずは魔物使いの本を読んだほうが良さそうだな。確か私の愛読書の一つに魔物使い関連の本があったはずだ。これからじっくりと読むとしよう。
と、それにしても、私は騎士道以外に魔物使いの道にも進まないといけなくなってしまったか。
いや、でも案外面白いかもしれないな。
騎士兼魔物使い。
新ジャンル開拓かもしれない。
よし。頑張るぞ。
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「ナイト! 何をしている! おすわりと言っただろう!」
「へえ、すんまへん」
サーチャ殿のアドバイスをきいてから早速、私は魔物調教をナイトに対して行っていた。
まずはお手、次におすわり、そして次は……言えない!
次の言葉は恥ずかしがり屋な私の都合により言えないが、とにかく魔物の調教をするつもりで接し、私の口で言えないこともさせる……って、やはり私は痴女か!
だめだだめだ!
こんな色恋沙汰より島の探索!探索が先だ!それと王の特認!これを優先すべきだろうが!
煩悩よ散れ!去れ!失せるんだ!
「はぁ……はぁ……」
「教官?突然どうしたのですか?」
「な、なんでもない。それより、お前はこんな苦しみを常に味わっていたのだな……」
異性を求めたくても求められないこと。
ナイトがリマとのペット契約で何かしらを結んでいるため、リマにキスを迫られてもキスできないことはうっすらと把握できている。
しかし、それにしてもこんなに苦しいものだとは………。
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時は流れて昼過ぎ。
これから本格的に探索を行い、そして洞窟を見つけ次第内部へと潜入する予定だ。
私は気を引き締めた。煩悩も脳内から締め出した。
「アイラ、どこか吹っ切れていい顔になったわね」
「そ、そうか……?」
「そうですよ、いい顔ですよ。私なんかと比べたら……」
確かに今のリマの顔は悲惨だ。昨日のアレのせいでげっそりしている。可哀想にも思える。だが、ここに一人置いておくわけにはいかない。
探索には連れて行かないと、リマ一人にしておいて何かが起きた時に対処不可となってしまう可能性だってある。その時は既に手遅れかもしれない。
「リマ、どうにか頑張ってくれ。それとシエル殿も」
「シエル君も?」
リマが尋ねる。
「そうなのよ。シエルも急に体調が悪くなったのよ。アンタ気合い入れなさいよ!」
バシッ!
っとサーチャ殿の張り手が突然シエル殿の背中に入る。
しかしシエル殿は、
「あうっ!痛いよサーチャ……」
と背中を擦り弱々しく漏らした。
しかし痛がり方がどこかおかしい気もする。それと気のせいだといいのだが、シエル殿の背中が弱々しくなった気もする。
「あら、アタシあんまり強く叩いたつもりはなかったんだけど」
サーチャ殿は自分の手のひらをじっと見て、それからシエル殿を黙って見ていた。何かを思っているような様子で。
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今は岩地帯の真ん中くらいだろうか、あと少しで目的の洞窟に着くはずだ。
日も落ちかけてきている。
早く辿り着きたいところだが……。
「みんな!足元が不安定だから気をつけろ!バランスを崩したらケガするぞ!」
「へへっ!このくらい大丈夫大丈夫ぅ!?」
私が注意した途端これだ。
ナイトがコケてしまった。擦り傷を作ってしまっている。
やはりナイトは油断が多すぎる。
私が守ってやらねばならん。
「ナイト、なんだ今の失態は?」
「す、すみませんアイラ教官!」
「どうやらお前には手綱が必要のようだな」
「た、手綱ですか?」
「そうだ、手綱だ。その、わ、私の手という名の手綱だ!」
と、いやいや、冷静になれ。
今なんていった?
聞き間違えじゃなければ、私の口から手網とかいう言葉が聞こえたのだが……。
「教官。手網をよろしくお願いします」
ナイトが手を差し伸べてきた。
どうやら私は言ってしまっているようだ。
いや、いやいやいや。
手網って。この男は馬じゃないんだぞ。
私は何を口走っているんだろうか。
やはりこれも恋の仕業か?
煩悩がまだ脳内に残っていたのか?
この男は私が守ってやらんといかんとは思っていたが、こんな急に手を繋ぐ行為を求めてしまうなんて。
やはり痴女だったのか私は?
「アイラさん? ナイトさんには手網なんて必要ありませんよ?甘やかさないでください」
リマが私達の背後から声をかけてきた。
どこか怒りが含まれているような気がする。
それは私に対してなのだろうか?
それとも私達に対してなのだろうか?
「リマ。教官の言った通り俺には手網が必要だ。俺自身がそう思っているんだから間違いない。手網が必要かどうかはリマが決めることじゃない」
「じゃあ私が手網になります」
「リマが俺の手網になれるのか?」
「なれますよ」
突然始まったナイトとリマの喧嘩腰の会話。
そして気がついた時には、リマがナイトの手を握っていた。
手網はリマがするらしい。
私は?
私はこのまま遅れを取っていいのか?
恋とは戦争みたいなものだと聞いたことがある。
私はこれからリマと戦争をしなければならないのかもしれない。
私に戦争をやる勇気はあるのか?
私は……。
「ナイトッ!」
そして私は、ナイトと手を強く繋いだ。
戦争勃発だ。
ナイトの左手に私。そしてナイトの右手にリマ。
ナイトは両手に花だ。
だが、その花は痛いだろう。トゲがチクチクしているかもしれない。
ナイトの身体という境界線を挟んで、私とリマがぶつかっていた。
と、とにかく今は私とナイトは手を繋いでしまった。
しかしこんな状況でもドキドキは止まらない。ドキドキが伝わりやしないかそれがドキドキだ。
ふと後ろを見ると、サーチャ殿が明らかにニヤニヤしていた。
そしてシエル殿は唖然といった表情。
そして、背後からのニヤニヤと横からの殺気を感じつつ、やっと目的の洞窟へ着いた。




