星空の下、美少女と二人で
髪を切ってサッパリしたあと、スッキリしたクリアな頭で能力についてまたもや考察。そしてあることを思いつき、実験を行った。そして分かったことが幾つかある。
まず一つ。それは、自分の瞳だけでなく他人の瞳でも同じ現象が起こせる、ということだ。
俺はその現象を口に出しながら、もう一度考えをまとめることにした。
「えーと、リマと一度瞳を合わせ、その数分後もう一度リマと瞳を合わせる。そしてすぐに能力を使う。すると、現在リマと瞳を合わせた場面と、数分前にリマと瞳を合わせた場面、その二つがスライドショーのように現れた。……と」
そして能力により数分前にリマと瞳を合わせた場面に飛ぶ。
ということができたのだ。
これについては恐らく、過去から肉体を引っ張ってくる能力にも同様に使えるのだろう。
この実験のせいで使用回数制限のある貴重な能力を一回使ってしまったことにはなるが、新発見ができただけでも良しとしよう。
あと更にもう一つ。直前の過去に戻ったあと、間髪入れずに再び能力を使えば、更に直前の過去に行けるのではないか。それを続けていけば、能力を持ったまま元の世界まで遡ることができるのではないか、ということを考えた。だが、これについては実験できなかった。
それは、時すでに遅しだったからだ。
そう、先程の実験の際に、鏡を使って瞳合わせを何度もやってしまっていたからだ。
恐らくだが使用回数制限以上の瞳合わせをしてしまっている。だから、実験したくてもできなかった、という訳だ。これについてはしょうがないと割り切るしかない。
ちなみに、瞳を合わせることを『瞳合わせ』と呼ぶことにした。まあ、そのまんまだな。
あと最後にもう一つ。使用回数についてだが、これは説明書の巻物の右下あたりに小さく表示されていた。
どういう仕組みで能力を使用したことが巻物に連動するのかは不明だが、何か魔法的な力でリンクしているのだろう。うん。
そして巻物を見たところ、現在既に三回使用していることがわかった。
棍棒野郎との戦闘、断髪のときの肉体引き寄せ、そしてさっき行ったリマと瞳合わせしてからの発動、その三回ということだ。
つまり残りは二十七回。
姫にできるだけ使用回数を残したまま能力を返すとするなら、これ以上無駄に能力は使えない。
どうしても使用せざるを得ない状況の時だけ使うことにしよう。
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能力考察のあと、途中になっていた部屋の片付けを全て終えた。そしてリマと遅めの朝食を済ませ、それから旅立ちの準備を始めた。
俺は備えあれば憂いなしの精神で、様々なモノを持っていくことにした。
まずはペンチやらネジやらの小道具。これは俺の装備などを改造するためのアイテムだ。すっかり俺の武器となってしまった竿の改造もいずれやりたいし、色々と便利なグッズも作りたいしな。
ああ……!かつてプラのモデルやミニの四駆などを弄っていた時のような、少年の心が蘇ってくるようだ……!俺は少年の気持ちのままに、夜な夜な竿を弄って改造するぞ……!
ということで小道具は持っていく。絶対にだ。
それと持っていくものはパチンコ玉だ。
このパチンコ玉は、元の世界からこっちの世界に来た時に穿いていたジーンズのポケットに紛れ込んでいたものだ。装備を一新したときにこのパチンコ玉だけは抜き出していた。
本来ならこんなもの捨ててもいいのかもしれない。だが俺は、このパチンコ玉は持っていくことを決めていた。
それはなぜか。そう、この小さな丸っこいフォルムに愛着が湧いてしまったからだ。それと俺が唯一元の世界から持ち込んでいたアイテムだからだ。
更に言うと、このパチンコ玉は大当たりした時のものだからだ。つまりラッキーアイテム。だから愛着が湧いてしまったのだ。
ということでこれも持っていく。
そして俺にとって最も重要となるであろうアイテム、『手鏡』をリマから貰ったローブの内ポケットに忍ばせた。
この手鏡については、能力を使わざるを得ない状況になったときに、サッと取り出して使うためのものだ。
決して俺がナルシストだからとか、鏡を見て変身する魔法少女に目覚めたとか、そういうのでポケットに忍ばせている訳じゃない。
しかし、手鏡を使わざるを得ない状況となると、恐らくそれは戦闘中だろう。
戦いの最中に手鏡を取り出す人間……。誰がどう見てもナルシストだな。戦場のナルシスト。なんかの映画のタイトルみたいだ。気分は悪くない。
とまあ、様々な物を持っていくようにした訳だが……。
うむ。まだ不安だ。もっと色々と持っていきたい。
旅行の時いつも荷物が多くなる俺は、これだけだと絶対に足りないと感じていた。
そこで俺は家の裏にあった大きな樽を、小道具を使って早速改造。そして樽を背中からリュックサックのように背負えるようにした。
この自作リュックサック、命名『樽サック』は、昼間はリュックサックとして荷物を運ぶ機能を持つ。そして夜になれば荷物を出し、そのかわりに温水を入れるといとも簡単に樽風呂へと早変わりする、というスグレモノだ。
ちょっと大きすぎるという点を除けば、最高の旅グッズだ。我ながら凄い開発だと思う。
そして腰に騎士団から拝借したままの竿を装備。完璧だ。
手鏡を忍ばせた茶色のローブを羽織り、身支度を終えた。
リマは前回の戦闘での反省を踏まえ、魔法陣を描いた布を何枚も用意したようだ。戦闘になればその簡易式魔法陣を地面に敷き、その上に乗り呪文を唱え召喚するという算段らしい。斬新なアイデアだ。
そうこうしているうちにリマも支度が終わったようで、
「ナイトさん、これ、似合ってますかね?」
突然俺に尋ねてきた。
リマは薄いピンクのローブを羽織っていた。これから長い旅になるので、少しでもお洒落をしておきたいらしい。お洒落に決め込んでも見せる相手がいないのに、一体どういうつもりなのだろう。
まさか旅先でイケメンな男達を誘う為なのか?とも思ったが、変態に厳しいリマがそんなことをする姿が想像できない。それにリマは腐女子とはいえ女子だ。ピッチピチの女の子だ。やはり女の子だからお洒落したいだけなのだろう。
「ああ、似合ってると思うぞ」
俺がそう答えると、リマは嬉しそうな表情を見せた。かわいい。やはり女の子だ。
そうして俺達は準備を済ませ、家を出た。あたたかな香りのする家だった。
……まあ、奴が襲ってきた以降は部屋をめちゃめちゃにされたせいで埃っぽい臭いが充満していたけどね。
まあそんなことより、それじゃあ行きますか!
「うおおおおおぉぉ!!」
俺は家を飛び出した途端、叫び声とともに駆け出した。
無我夢中で。
自由を謳歌するように。
走り抜ける。駆け抜ける。
ここから俺の本当の異世界生活が始まるんだ。
って、威勢よく家を出たが、今からどこに行けばいいんだ?
素朴な疑問が浮かぶ。
姫は連れ去られてしまったが、一体どこに連れ去られたのか分からない。とりあえず馬車が向かった方に行けばいいのだろうが、その情報だけだとすぐに迷子になるだろう。
それにこの辺の土地勘もさっぱり分からない。とりあえずリマにどこへ行けば聞いて見よう。
俺は駆け出した脚を逆回転。バックオーライよろしくといったノリででリマの元へ帰ってきた。そして早速行き先を聞く。
「この街はパルフェニアの一番西にありますので、とりあえずは東に向かいましょう。まずは街の外に広がる草原を抜けて、その先にある山岳地帯の山頂にある村に行きます」
リマが答える。
山岳地帯……険しい山なんだろうか……。
いや、色々考えたって仕方ない。俺は行くしかない。
己の体力に不安を募らせるも、覚悟を決めた俺は再び勢いよく飛び出して行くのであった。
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どこまでも続きそうな草原の五分の三ほどを越えたところまでやってきた俺達は、日が沈んだのを理由に本日の行動を中断。草原の近くにあった湖のほとりで野営することにした。
そして手短に食事を済ませ、一息つく。
「ナイトさん、疲れましたね」
「ああ、脚が棒のようだ」
ふと空を見上げると、星々が凛々と煌めいていた。元の世界では見た事のない幻想的な光景に、口を開けて魅入るように眺める。
世界って、こんなに綺麗だったんだ……。
「星、綺麗ですね」
「ああ、輝いてるな」
リマも同じ星空を見て同じ事を感じたようだ。
「私、星にお願い事をしてしまいました」
「お願い? どんな?」
「早くナイトさんとキスできますように、ってお願いしました」
そう言うとリマはこちらを振り向き、えへっ、と小さく笑った。
……ああ、これが本当の意味ならどんなに嬉しいだろうか。
本当の意味なら、俺が今すぐにでも叶えてあげるのに。
「それともう一つ。早く男の人と出会えますように、ってお願いしました」
これ、リマのことだよね?俺が男の人と出会うって意味じゃないよね?
とまあ、とんだ腐女子だが見た目はかわいい女の子。そんな女の子と二人旅。三日前の元の世界にいる俺が、この状況を知ったらどう思うだろうか。羨ましがるかな。『俺も異世界に行きたい』とか言いそうだな。
この三日間、異世界にやって来てからは慌ただしい日々の連続だった。
内容が濃すぎて三日間だと感じないほどだ。
リマと出会って、リマに変態扱いされて、リマと姫をストーカーして、それから--
リマと本音を言い合って、リマと一緒に戦って、そしてリマと一緒に旅してる。
リマばっかりだな。
「リマ、これからもよろしくな」
「き、急に改まってどうしたんですか?」
リマが突然の発言に驚き、目を大きく見開く。
「さあな。星を見ていたらセンチな気分になった、ただそれだけさ」
「もう、なんですかそれ……」
そしてリマは頬をぷくーっと膨らませながらまた星を見上げた。
異世界の夜空は俺達だけを照らすように煌々と輝いてる。
「リマ。俺、決めたことがあるんだ」
「どんなことを決めたんですか?」
リマは囁くように聞いてきた。
「これからの旅でいろんな人と出会うと思う。いい奴もいるだろうし、中には敵対して戦う奴も現れると思う。俺は、そんな出会いを大切にしたい。出会いを大切に、生きていきたいんだ」
俺も囁くように、そして心を込めて伝えた。
「そうですね。男の人との出会いは大切です」
これもリマのことだよね?俺が男の人と出会うって意味じゃないよね?
もうリマの発言は無視しとこう。
そして続けて、
「あともう一つ、俺は、無駄に命を奪うようなことはできるならしたくない。死にそうになって改めて思ったんだ。死ぬのは怖いって。まあ当たり前のことかもしれないけど。でも、だから戦う相手にもそんな怖い思いはしてもらいたくないんだ。こんな考え、甘いと言われてもしょうがないかもしれない。でも、これが俺が決めたことだ。俺は、この決めた道を進んでいく」
俺の決心を伝えた。
命は大事だ。限りがある。だからこそ、この命ある限り、俺は出会いを大切に、命を大切に、生きていくんだ。
……まあ、非力な俺には命を奪うなんてこと、そもそもできないだろうけどな。
「素敵な決意ですね」
俺が決めたことを、リマはまたも優しく受け入れてくれた。
素敵な決意、か。そんな風に言われると、なんかこそばゆいな。
「へへ……。ありがとうな。……さあ! 明日も早いぞ! 早く風呂に入って寝るとしようか、リマ!」
「え、あの樽風呂は嫌ですよ……。だって覗かれちゃうじゃないですか。変態に」
リマはそう言うとジト目で俺を見てきた。
「でも俺が朝風呂に入ってる時、その、見せたり当てたり色々したりしてきてたよな?」
「私が見せたりするのはいいんです。一方的に見られたりするのが嫌なんです。私の裸は私のモノ。ナイトさんの裸も私のモノ。そういうことです」
どういうことだよ。まるでどっかのガキ大将じゃねえか。
実は、もう一つ決めたことがある。
それは、リマに俺のことを本当の意味で異性として認めさせることだ。
難攻不落の腐女子城に住まうリマ姫を、俺が落とす。
「なにじろじろ見てるんですか、この変態。あ、私の裸でも妄想してたんですね?キスして強制送還しますよ?」
「なっ!じろじろ見てねえよ!それに想像してねえ!あとキスを迫るな!」
ハチャメチャだ。これが俺のヒロインだとは。ハンパねぇ。
それからしばらくの間、リマとの他愛もないやり取りが続いた。
うん。とりあえずはこのやり取りがこれからも末永く続くことを、この星々に祈るとするか。
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「ナイトさん。私、ウッカリ忘れてしまってました。私、お城に退職のこと話していません。お姫様が誘拐された事も、です」
翌日。
俺達が急いで旅立ってしまったせいで、姫が誘拐された事を城へ報告しないままになっていたことを思い出した。
リマに至っては、仕事を退職することを告げずに旅へ出てしまっている。突然居なくなる訳だから職場は困ったことになるだろう。
リマは不安な顔をしている。こんな時こそ俺がリマを落ち着かせるような言葉を言わなくてはならんな。
「自宅警備員歴二十四年の俺という存在が付いているから大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃありません!」
どうやらリマをさらに不安にさせてしまったようだ。
その後、姫の件についての報告とリマの退職を伝えに戻ろうかとも考えた。
だが、姫が誘拐された事を世間が知るのも時間の問題だろうし、あと退職なんてどうにでもなる、ということを就職したことのない俺がひたすらリマに言い聞かせた結果、そのまま旅を続けることになった。
まあ、何よりも一刻も早く姫を追うことを優先したかった、というのが本音か。
そして俺達が出発してから数日、山岳地帯の中腹で偶然出会った行商人から『エレス姫が誘拐された』との情報を聞いた。ついに世間にも情報が知れ渡ったようだ。
事件も滅多に起きない平和なこの世界は、今回のニュースが衝撃的だったようで多くの者が恐れ慄いているという。
そして他国では姫を守る為の強化にあたっているとのことだ。
また、犯人の特徴として『ローブを着た二人組で一人は召喚士である』という情報が出回っているらしい。この調子だとあの犯人達が捕まるのもそう遠くはないだろう。
さて、もう少しで山岳地帯の山頂にある村へと辿り着く。この世界に来て初めての村だ。どんな出会いが待っているのだろう。実に楽しみである。




