表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界軟弱物語  作者: よっきゃ
第一章
PR
11/49

バチッ!能力と能力の衝突

 時が止まった。

 そう表現するべきかどうかは分からない。

 ただ、俺だけが世界から切り離され、活動することを許されたようだった。


 例の能力名--『アイズバック』を俺が心の中で叫んだその瞬間、世界は動きを止めた。

 窓に反射した世界に映し出されているのは、今にも俺の頭にヒットする寸前といった棍棒。そして棍棒野郎は表情をピクリとも動かさない。


 なぜ奴は動かない?

 俺は反対を向いて、棍棒野郎を直に見ようとした。だが、顔が動かない。動かせない。しかし唯一動くものがあった。それは、俺の腕と手だった。


 なぜ腕と手だけが動くのかは分からない。だが動く。動かせるのだ。そんな俺の目の前では、視点は固定されたままの状態で、頼りない腕と手だけが左右にわたわた動いていた。


 この眼前の世界は、濃い霧のようなものが漂っている。画面全体が闇のフィルターで覆われているかのようだ。

 しかし、闇を帯びた世界の中に、ただ一つだけ鮮明に輝きを放つものがあった。

 それは、窓に映し出された俺の瞳だった。

 瞳だけが、煌々と光を放っていた。


 俺は光に導かれるままに手を伸ばしてみることにした。


 すると、触れた。目の前の世界全体が、写真として存在しているかのような感覚。その写真に触れた。

 それは、眼前に巨大タブレットがあって、それを掌で触っているような感覚だった。


 今俺の目の前にあるのは、最後に瞳を合わせた光景--諦めを帯びた瞳と、その時の世界がある。


 そして手を触れて左から右に、タブレットを操作するようにずらすと、次の画面が眼前に現れた。それは、棍棒野郎と戦う直前、まだ自信に溢れていた時の瞳とその場面だった。


 過去の俺が真っ直ぐに今の俺を見つめている。なんというか、これはまさに、自撮り写真を一枚一枚眺めていくような感覚だ。



 ふむ。つまり、この能力は瞳を見た時の過去を体験できる、ということか?

 ……いや、そんな単純なものではなかったはずだ。


 確か説明書には、『記憶を保持したまま過去に飛べる』と書いてあったはずだ。

 過去に飛ぶ。つまり、この自信があった時の場面に記憶を持ったまま遡れるというのか?



 しかし、どうやったら遡ることができるんだ?


 俺は分からないまま、闇雲にあちらこちらを触ってみることにした。だが、何も変化はない。

 分からない。俺は半ば諦めながら瞳の光を掴むように、手を奥に伸ばした。すると、


「うわはっ!?」


 思わず驚いて声が出てしまったが、無理もない。手首から先が光の中に消えたのだから。


 これだ。恐らく、思いっきり光の中に手を伸ばせば、直前に目を合わせた場面に飛べるんだ。


 俺は実行に移す前に、深呼吸することにした。


 ひっひっふー。ひっひっふー。


 ……ふひひ。よし、行けるぞ。力が漲ってきた。


 そして少し冷静になってくると、棍棒野郎が能力持ちだということが、なんとなくだが予想できてきた。そしてあれはたぶんあの能力だ。

 よし、次こそは戦える。


 そして、俺は勢いのままに手を伸ばした。すると、光源のほうに急速に身体が吸い込まれていった。



 --



 能力を使ってから、過去に飛ぶまでの間は一瞬だった。


 目の前の窓は、自信に溢れた瞳を映し出している。


「どうした? 震えて声も出ないか?」


 棍棒野郎も自信に溢れたような声で俺に話しかけてくる。


「この震えは武者震いだ、棍棒野郎」


「なっ! ガタガタうるせぇんだよ! 震えねぇようにすぐに静かにしてやる! 俺の棍棒でな!」


 以前も聞いたことのあるような台詞。

 その台詞を言ったあと、棍棒野郎は上から下へと勢いよく棍棒を振り下ろそうとした。だがこの攻撃も一度予習済だ。


 前回も難なく躱したが、今回は容易く横っ飛びで回避。棍棒は空を切り床に激突する。俺はそのスキを見て竿で脇腹を殴打した。


「初の俺からの攻撃だ! ありがたく食らいやがれ!」


「っくう! 全然痛くはないがこの俺に一撃食らわせるとは……!」


「棍棒野郎、お前はスピードがパワーに追いついていない能無しなんじゃないのか?」


「貴様こそスピードだけでパワーが足りない能無しなんじゃないのか?」


「逃げるは恥だが……えーと何だったっけな? まあ、そういう言葉を知らないのか? リア充嫌いな能無し棍棒野郎」


 前回の戦闘からさほど変わらない、逃げながらの挑発戦法。無力な俺は結局、逃げ回ることしかできないと考えている。

 それは棍棒の攻撃を物干し竿で対峙したとしても、簡単に竿が破壊されてしまうからに他ならない。やはりしばらくの間は回避と防御を徹底するしかない。



 だが、好きでこんな戦法を取っている訳じゃない。できれば俺からももっと攻撃を仕掛けたいとは思っている。しかし、奴に触れられたら一触即発。いや、一触爆発かもしれないのだ。


 また棍棒野郎の攻撃が来る。

 そう、今回のこの攻撃だ。


 前回はこの攻撃で吹き飛ばされてやられてしまった。だから今回は棍棒が振り下ろされる場所よりも大きく離れて--



 ドカンッ!!



 よし、回避成功だ。


 これで前回の敗北ルートからは外れた。

 ここから先は未知の世界。どんな道に辿り着くのか……。



「今の衝撃……。さてはお前、能無しではなく能有りだな?」


「ぐふふふふ。違う。能力者だ。能無しには能有りという言葉しか思いつかなかったか」


「なるほどな……。やはり能力者か。だから今回のように床やドアを爆破できた訳だ。しかも毎回ではなく意図したタイミングで能力を発動できるとは驚きだ」


「なっ! 貴様! なぜ俺の能力をっ!」


「ドアと床の破壊面、床に触れた瞬間の音、それと棍棒で直接触れずに俺を吹き飛ばしたことを考えたら、爆風と考えるのが普通だろうが。さらに言っておくと、始めにテーブルを薙ぎ倒したときやその次の攻撃では爆破がなかった。これだけでお前が狙った時にだけ爆破ができる能力だと簡単に想像がつく」


「うるせえうるせえ! これでもくらえええっ!」


 棍棒野郎は能力を言い当てられて怒り心頭なのか、俺の言葉は途中から聞いていない様子だった。脳内爆発寸前といった様子で、やたらめったら棍棒を床に打ちつけ始めた。


 まるで棍棒爆弾の雨あられだ。

 床に棍棒が触れるとともに爆破。あっちで爆破。こっちで爆破。どこもかしこも爆破され、木屑やら何かの破片やらが派手に飛び散っていく。


「はぁ……はぁ……。ち、ちょっと! 冷静になろーぜ!」


 だめだ。俺の言葉は聞いちゃいない。

 狂ったように棍棒を床に打ちつけてきやがる。


 そして俺は逃げ回るだけとはいえ、これだけ緊迫した状況だ。思ったよりも体力が持ちそうにない。もしかしたら奴にスタミナ切れを気づかれてしまうかもしれない。このままだとマズいか……?


 そんな僅かなスタミナを俺が不安視したその時、またも棍棒が振り下ろされようとしていた。


 俺は滑るように左の方へと回避しようとしたが、床に散らばった家具の破片に足をとられた。まずい。棍棒が直撃する……!



「ぐわああああぁぁ!!」



 棍棒がヒットする直前で身体をずらしたが、掠めただけでこの威力とは。激痛が右肩を襲う。ヤバい、骨が折れたかも。いや、それ以上かも。これはいかん。


「はぁ……はぁ……。ゴキボリみたいにちょこまかと逃げ回りやがって……。仕留めるのに骨が折れたじゃねえか。……だが、貴様はもう終わりだ」


 ゴキボリ? ゴキブリみたいな生物がこの世界にいるのか? そして俺はゴキブリみたいな奴ってことか?


 って、そんな呑気なこと考えてる暇はなかった。


 俺は追い詰められていた。

 周りを見ると、両側の床にはガラスや家具の破片が散乱している。左右へ回避することはとてもじゃないができそうにない。そして目の前には棍棒野郎。まさに窮地、絶望的だ。


「わざと破片を散らばせやがったな……」


「ぐふふふふ。俺が周りをむやみやたらに床や壁を破壊しているとでも思ったか? 闇雲に逃げることしか能のない貴様とは違うんだよ。そして逃げ場を失った貴様は終わりだ。死ね」


 棍棒野郎が棍棒を振りかざそうと構える。



 …………そろそろか。



「ちょっと待て。棍棒野郎、お前こそ能無しなんじゃないのか。俺が闇雲に逃げ回っていた? 残念ながらそれは違う。お前は追い詰めた気でいるが、追い詰められているのはお前だ」


「貴様、この状況で何を抜かしてやがる。本物の能無しか」


 棍棒野郎から何か言われたが、気にせずに話を続ける。


「楽しい楽しい鬼ごっこはここまでだ。お前が負ける前に重要な事を教えといてやる。それは、お前が持つ情報は不完全かつ不足しているということだ」


「あぁん? 情報? 俺が負けるだと?」


 棍棒野郎が即座に聞き返す。

 俺は無視して引き続き説明する。



「一つ目、『俺はもう命乞いをしていた時の俺じゃない』という事。二つ目、『召喚ができない召喚士』ではなく、『魔法陣がないと召喚ができない召喚士』だという事。そして三つ目、『食べ物を粗末にしたら天罰が下る』事だ!!」


 俺は言い終えるやいなや、勢いよく背後のドアを押し開けた。そう。ドアの先は、召喚部屋だ。


「リマ! 今だ!」


「かの者に裁きを! 雷の精霊ラムウ!!」


 リマが唱えた後、魔法陣が青白く発光。赤紫色の煙が辺り一面に広がり、槍を持った人の形に変容する。そして、その槍が棍棒野郎の脳天から足先へと一直線に貫いた。



 バリバリバリバリッ!

 激しい電撃が辺りに(ほとばし)る。

 耳をつんざくような感電音が消えた頃には、棍棒野郎は真っ黒に焦げ、ぷすぷすと音を立てていた。


 そして、精霊ラムウは使命を全うした途端、霧散し消滅。呆気ない幕切れだ。


「やった……!」


 俺が喜びの声を上げたのも束の間、棍棒野郎は虚ろになりながらもまだ破壊し尽くし足りないかのように動き出した。ぐふぐふと言葉を漏らしている。


 それを見た俺は、防御から完全攻撃モードに切り替え、手にしていた物干し竿に力を込める。

 そして、棍棒野郎の脳天を目隠しなしのスイカ割りさながらに、渾身の一撃で叩きつけた。俺が非力なおかげで、脳みそが弾けてきたねぇ花火状態にならなかったのはせめてもの救いだ。


 俺は剣を鞘に収めるような素振りを見せながら、


「自宅警備員歴二十四年、そしてモブ代表の俺から一つ言わせてもらう。お前はスライムより弱い」


 咄嗟に浮かんだ最高にダサい決め台詞を見事に言い放つ。そして、棍棒野郎は動きを止め気絶した。



 俺達の勝利だ……!

 安堵感がその場の空気全体を包み込む。


 まずはまた動き出される前に棍棒野郎を紐で括って外にでも出しとくか。その後は部屋の片付けだな。全く、酷く荒らされちまったぜ。で、それから--


「うぐっ!」


 さっきの棍棒でやられた右肩が心臓の鼓動と連動するかの様に疼き始める。痛え。思わず床に崩れ込む。


「ナイトさん!」


 リマが瞳を潤ませながら俺に駆け寄ってきた。


「リマならやってくれると信じてた。まさに息ぴったり。ナイスタイミングだったな」


「魔法陣と精霊術の準備ができたのも、ナイトさんが時間を作ってくださったお陰です。それよりナイトさん、お怪我は--」


 リマが心配そうに俺を見つめる。


「ちょっと右肩をやられちまった。これは……唾では治りそうもないな」


 俺は、にっと微笑んでゆっくりとリマの肩に寄りかかるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ