表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/41

甘んじて天狗になる


 鍵をゲットした私のテンションは爆上がりして仕事はサクサク進んだ。

 気が付いたら2時を過ぎていたが、ジムでお風呂は済ませていたので給湯室で湯たんぽを作り目の前のおにぎり屋に向かった。

 もう絶対寝てるから静かに……静かに……私は鍵を差し込んで開けた。

 開いた! すごい、騙されて無かった! 嬉しい! 喜びの次元が我ながら低い!


「おかえり」

「うおおお!!……うぐぅぅ……」


 突然に甘い声に私は持っていた湯たんぽを思いっきり下に落とした。

 それは私の足の指に当たって激痛で悶絶。めっちゃ痛い!

 隼人さんは湯たんぽを拾って、私に渡してくれた。

 そして軽く私に会釈して、歩いて消えてった。

 やっぱり深夜に出かけてる……気になるけど


「寝よっと」


 私は二階に上がった。

 隼人さんが一階にいるなんてドキドキして眠れない~と思ったけど、居ないなら逆にもう開き直って眠れる。

 でも明日もロケだから5時には起きたい。ああ、ここなら会社まで1分、メイクと着替えは会社でするから20分前に起きればいいのか。

 最高すぎる……。

 私は湯たんぽを抱えてお布団に入り眠った。

 気にしない……気にしない……隼人さんが夜中に出かける理由なんて気にしない……




「やっぱ彼女かなああ……? 桜ちゃんどう思う?!」


 次の日、私は桜ちゃんを捕まえて夕ご飯を食べながら叫んだ。

 気にしないなど無理に決まっている。

 桜ちゃんはお茶を飲みながら言った。


「なんでそんなにあの人が好きなんですか? ぶっちゃけ日向さんモテますよね」

「……この前さ……隼人さんがお花買ってるの見たの、青と白と黄色のすっごくキレイな花束」

「へえ、隼人さんって荒野にいる一匹狼感あるのに駅前で花……うん、彼女に、ですかね」

「桜ちゃん、人生で花束貰ったことある? 着回しデイズで20回くらい花束プレゼントするネタ使ったけど、私は貰ったことない」

「読モ辞める時に日向さんくれたじゃないですか」

「あれは会社が準備してるからね……そうあの花屋で買ってたの。あそこ高いんだよ。ひとつひとつ花選んでリボンも付けてもらって、包み紙も選んでさ」

「どれだけ長い間こっそり見てたんですか」

「草に同化して見てた」

「これ以上続けると、いつかストーカー規制法にひっかかりますよ」

「分かってます、分かってます……」


 私はただ部屋を借りた人。

 彼女がいるなら、諦めたほうがいい。

 ……諦められるかな。はあ。

 私たちは食事を終えてレジにたった。

 レジの前にチラシが置いてあった……商店街合同第47回天狗まつり天狗道中……そこの協賛店に隼人さんのおにぎり屋さんが書いてある。

 明日の土曜日だ。お店とか出すのかな。どうせ仕事で居るし遠くから覗こうかな。法被とか着るのかな、見たいな。声が聞きたいな。やっぱりただのストーカーだ。

 私がチラシを持ってるのを見て会計をしてくれたおじさんが言う。


「おねえちゃん天狗しない? ほうき持って歩くだけ! 入る予定だった息子がインフルエンザになっちゃてさあ~困ってるんだよ」

「分かりました、入ります」

「日向さん、即決すぎますから!!」


 桜ちゃんは爆笑して小銭を床にぶちまけた。

 着ぐるみに入ったら隼人さんの近くに行けるし、商店街の集まりなら情報を集められるかも。

 着ぐるみは仕事でよく着ているので(キャンペーンに借りだされるし、全然嫌いじゃない)余裕だ。

 おじさんは感動して「じゃあもっと飲んで行きなよ!」と奢ってくれることになったので、私は久しぶりに酒を飲み、二階で眠った。



 次の日、私は朝から着ぐるみをきた。

 天狗は色とりどりに何色もあり、私は黄色を渡された。

 着てみると……うん、視界問題なし。

 たまに視界が狭いのがあって怖いのだ。

 このイベント自体は前も見た事があった。

 天狗の着ぐるみが手にほうきのような物をもち、それで叩かれると一年無病息災……という春に行われる行事だ。

 そして最後に神社に行って、ほうきを奉納する。

 神社にはお店が複数出ているので隼人さんがいるならそこだ。


 着ぐるみ着た状態で歩き始めたら、小学生男子たちに一瞬で取り囲まれた。

 でもほうきで殴られるのはイヤらしく、振り回すと逃げていく。

 なるほど、楽しいイベントだな。私はフェイントかけながら小学生を追い回した。

 現役で楓ちゃんの子どもと遊んでるから、体力には自信があるんです!

 

「天狗さん、叩く?」

「天狗さん、痛い事する?」

 

 トコトコ寄ってくる小さい子たち……ああ可愛い、ほうきでナデナデ。

 油断していたら、後ろから蹴られた。

 ああん? 振り向いたら少年がドヤ顔で立っていた。

 なるほど、おばちゃん怒らせるとマジ怖いよ? 大丈夫?

 私は着ぐるみとは思えぬ速度で走ってその少年のケツをほうきで殴った。

「いてぇ!!!!」

「フォフォフォフォフォフォ」

 私は着ぐるみの中で笑う。

 天狗の声って何だろ? たぶんキャラ違うけど、酷いヤツにはお仕置きが必要だからね!!



 ゴール地点の神社にいくと出店があって……やっぱり隼人さんは居た。

 法被は着てないけど仕事してる時みたいにマスクしてないし、作業着着てないし私服だし、エプロンだ!

 一瞬でテンションが恋モードになってしまう。

 ……好き……。

 今日は食べ物扱ってるから髪の毛をすべて縛っていて、顔がよく見える。

 ああ、あの朝を思い出す。

 あの時はじっくり顔見られなかったけど、左頬の下から首にかけて傷があるんだ。

 全然気にならないっていうか、やっぱ切れ長の目を含めて顔も好みすぎる。

 それに小さい子に座り込んでおにぎり渡してる、ああ、おばあちゃんの階段下りる手伝いまで!!

 好き!! もっと近くで顔を見たい。

 私は天狗のまま、ととと……と再び隼人さんに近づく。

 隼人さんは私に気が付いて


「……天狗さん、おつかれさまでした。おにぎりなにが良いですか?」


 スタッフはタダでもらえると聞いていたので、迷いなく


「シャケおにぎりをください」


 と着ぐるみの中から言った。女性は何人かいたし、まさか私がここにいるとは思うまい。

 すると隼人さんは台の上からシャケおにぎりを2つ、そして私の大好物のナメコの味噌汁も出してくれた。

 そして袋に入れて渡してくれた。

 隼人さんは顔を上げて


「……二階、寝ていて寒くないですか?」


 と言った。

 !!!! ひょっとして中に入ってるの私ってバレてる?!?!

 私は慌てて天狗の頭を取った。

 すると目の前に隼人さんの顔があって、恥ずかしくなりまた被った。

 何をしてるんだ、私は。

 そして天狗の顔をかぶったまま


「……寝心地、最高です……」


 と答えた。

 私はどんな天狗? 眠り天狗?


 後で知ったんだけど、何の天狗に誰が入っているのか全て書いてあって、黄色天狗=美空社・小清水日向さんが急遽入ってくれることになりました! ってめっちゃ書いてあった。赤文字でクソデカい文字で!

 うああ……バレバレだった……恥ずかしい!

 ストーカーぶりを一つ発揮しただけじゃない!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ