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出会い

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なるほど、厄介な人だ(隼人視点)


 ある朝、日向さんはおにぎりを食べながら深いため息をついていた。

 そして「今日は琥珀の撮影なんです……」と仕事用のスマホの電源を入れた。

 すると画面をガガガガガガと大量の通知が上がって行く。

 日向さんは「はああ……琥珀が来るだけで面倒が増えるんですよ……」とちゃぶ台に倒れこんだ。

 琥珀さんは俺もよく知っている。

 今一番勢いがある俳優さんで、ドラマに出ているのをみた。

 パーティーで見たときも光り輝いていたし、事務所で一番大切にされているのが分かる。

 なんどか録音スタジオで会ったが、人柄もよく悪そうな人には見えなかったが……。

 日向さんは口を尖らせて


「ちょ~~~騙されてますよ。あの人、外面良いですからね。隼人さんは絶対近づいちゃダメです。えーん、燃やしたいよ~~」

「声は割といいんじゃないか」

「それ前に桜ちゃんが言ってましたけどね、隼人さんが300点で、琥珀は10点ですから!!」


 かなりの大差がついた。琥珀さんはわりと良い声をしていると思うが、それは評価点にならないようだ。

 日向さんは「えいや」とスマホを立ててキーボードを設置、一気にLINEの返信を始めた。

 この作業をいつも朝ごはん前にしている。


 日向さんの睡眠サイクルは相変わらずで、2時間睡眠6時間仕事を繰り返している。

 しかしそれはわりとずらせるようで、俺の起床時間に合わせて4時前に眠りに来て6時半に一緒に朝ご飯を食べるようにしてくれている。

 合わせてくれるのは嬉しい。

 それにうちのおにぎりを気に入ってくれて、残り物をむしろ好んで食べるので助かっている。

 シャケの皮を「お宝じゃないですか!!」とモシャモシャ食べ始めた時は少し驚いたが。

 今日も枯節を削った時にでた細かい粉をまぶしたおにぎりを出したのだが「!! 超おいしい粉ですね?!」と言いながらモグモグ食べている。

 一番の好物は? と聞いたら「焼き鳥、手羽先、フライドポテト……コンビニの鶏揚げくんはかなり愛してますね」というので基本的にジャンクな物が好きなのだろう。

 作る側としては気楽で助かる。


「これは何だ、何を言ってるんだ?」


 日向さんは食べながら指は止めずにキーボードを打っている。

 俺は仕事をしている姿を見るのは好きだ。

 いつもの可愛い姿とのギャップがたまらない。

 吸い寄せられるように後ろから両ひざを立てて日向さんを囲む。

 日向さんは俺の方をチラリとみて口を尖らせた。


「見られると緊張しちゃいます……」

 

 俺は器用に動く指先をもっとみていたくて、後ろから抱っこするような状態でキーボードの横をツンツンと叩いた。


「もー、早く書いちゃお」


 そう言ってカタカタと高速でキーボードを打ってどんどん返信していく。

 持ち歩き用のキーボードだと言っていたが、俺の手程のサイズなので文字がうてる気がしない。 

 細い指で器用にカタカタ打って返信を終了させて、キーボードをパタンと片づけた。

 そしてクルリと身体をこちらに向けてお団子のようになり甘えてきた。


「終わりました」

「……うん」


 俺は日向さんを抱き寄せる。

 朝のこの時間が毎日本当に嬉しいし、幸せだ。

 そして前髪を耳にかけてキスしようとしたら、日向さんがグイと背筋を伸ばして俺の服を掴み、キスしてきた。

 

「えへへ」


 そして得意げに微笑み、また小さく丸まって顎の下でモゾモゾ動いている。

 なんだこの可愛い人は。

 俺は優しく何度も唇を落として抱きしめた。

 愛しい。本当に困ったものだ。






 数日後……俺はおにぎり屋の営業を終えて収録スタジオに向かう。

 新しく始まったアニメの仕事が決まって帯で入ることになった。

 他のメンバーは固定の収録日があるが、土曜日の午前中なので俺は出られない。

 この近くには大きな公園があって、そこで食べるおにぎりを買うお客さんがとても多く、一週間で一番忙しい。

 それを伝えたら、俺だけ別日に撮ることになった。

 ドラゴンのスタジオが自宅から車で20分ほどの所にあるのもありがたい。

 深夜をメインに仕事をするスタッフさんもいて、助かっている。

 スタジオに入って収録を終わらせた。

 そして犬飼さんのアシスタントさんに「テストです」と言われてスケジュールにない朗読劇も何本か収録した。

 なんでも読むのは好きなので構わない。

 

 新しいナレーションの仕事も入っていたので、ついでに内容を確認することにした。

 それは世界遺産付近にくらす猫や犬を撮影したもので、映像が美しくて見入ってしまった。

 頭をなでるとパアッと笑顔になってクルクル回る犬を見て日向さんを思い出した。

 隙間からじーっとみている猫をみて、また日向さんを思い出した。

 最近何をみても日向さんに繋がってしまう。

 仕事に集中出来ていないと判断、俺は再生を止めた。 

 発音が難しい場所も多く、世界遺産の勉強をしないといけない。

 俺はスマホで何冊か本を選ぶ。

 


「……ん、もう、ダメですよお、まだ仕事してるんですからあ……」

「大丈夫」



 気が付いたら一時間ほど購入した本をスマホで読んでいたが、外であまり聞かない声に顔をあげた。

 女の人の甘い声……そしてこの音……これはまちがいなく人に見せるような行為じゃないことをしているなと思う。

 気配を消してスタジオに居過ぎたようだ。

 実はこういうことがよくある。

 静かにしすぎて気配を察知されず、誰かの秘密を知りたくもないのに見てしまうのだ。

 どうやら作業は隣の部屋で行われているようだ。

 そして声は……犬飼さんのアシスタントの女の子と相手は……


「琥珀さん……琥珀さんダメですよぉ……」

「もう黙ろ?」


 噂の琥珀さんのようだ。

 アシスタントさんが彼女さんなのかも知れないが、こんな所で行為に及ぶのは女の子にとっても負担が大きいだろう。

 日向さんが言ってたことを思い出す。

 まあそういう人なのだろう。

 そう長々と続くものでもない。俺は開き直ってヘッドフォンでホワイトノイズを聞きながら本を読むことにした。

 彼女がいた時期もあるが、あまり性的なことに積極的なタイプではなかった。

 でも今日向さんと暮らして、とても触れたいと思う。

 しかし朝しか接触がない状態で、夜は忙しそうだし、最近は土日自宅に帰っている。

 家業が忙しくて子供の面倒を見る必要があるらしい。


 俺はわりと子供が好きだ。

 演劇をしていると子どもがいる役者も多く、昔から面倒を見る事には慣れている。

 長期公演で東京を離れる仲間もいて、家で預かったこともある。

 樹くんと和真くんはとても可愛かった。

 

 実は先日あった樹くんが、うちにおにぎりを買いに来てくれたのだ。

「シャケ3つください」とちゃんとお金を持って。

 聞いたら、都内の受験専門塾に週に一度通っていて、どうせ夜ご飯を買うから来てみた! と笑顔見せて、ベンチで食べようとしていた。

 食べるなら……と自宅に招き入れて味噌汁を出したら「!! 超うまくね、これ?」と日向さんと同じ顔で言うので笑ってしまった。

 血は繋がっていないらしいが、やはり一緒に生活すると似るのだろう。

 そして食べ終わった皿をちゃんと流しに運んで、大きなリュックを背負って言った。


「日向の彼氏、名前なんていうの?」

「隼人」

「俺、樹。隼人足速そうだからさ、今度ハンターにならない? その陰キャな感じ、めっちゃハンター」

「ハンター……?」

「詳しくは日向に聞いて!」


 時間だから~~と樹くんは「味噌汁ごちそうさまでした!」と言いながら出て行った。

 礼儀正しいけど、小学生らしい元気な走りっぷりに俺は頬を緩めた。

 そういえばあれはなんだったのだろう……。

 気が付いたら行為は終わっていたので、裏口から出て帰った。






「おかえりなさい」

「日向さん」


 夜12時になり、やっと帰宅した。

 車をとめて家の前に来たら日向さんが会社から出てきた。

 

「仕事しながら隼人さんまだかな~~ってチョコチョコみてました。コンビニ行くんです。えへへ、おかえりなさい」

「ただいま」


 笑顔に吸い寄せられるように抱き寄せた。

 日向さんは俺の胸元下あたりで「おわっ!」と身を固くしてやり場無く腕を広げた。

 俺が日向さんの背中を優しく撫でたら、自分の胸元に腕を収納して団子みたいになってしがみついてきた。

 顔が見たくて覗き込むと、恥ずかしそうに更に頭をさげて、頭の一番上で俺のみぞおちをグリグリする。

 可愛くて可愛くて、優しく抱きしめる。

 愛しい人には優しくしたい……当たり前だと思う。


「……そういえば琥珀さん、なるほど要注意だね」

「何かされました? 燃やします?」


 俺以外のことになると日向さんは過激派だ。

 正直日向さんが何かされないなら、俺はそれでいい。


「あとさ、樹くんにハンターに誘われたんだけど」

「……ええ……死にますよ……? というか、いつの間に樹が……?」


 日向さんの表情が凍り付いた。

 その表情がまた可愛くて、笑ってしまった。

 日向さんに出会ってから、俺はよく笑うようになったと思う。

 しかし死にますよ? ……とはなんだろう。

 興味があり、行ってみる事にした。

 


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