表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間借りから始まる恋~彼が有名声優だと私だけが知っている~  作者: コイル@オタク同僚発売中
出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/41

愛しい人(隼人視点)


 これは俺のために提案してくれたのかも知れない。

 俺は「ナレーションが人気だから執事キャラで出ないか?」とドラゴンに言われていた。

 顔出しも増えるだろうし、あまり気が進まない。

 断ろう……そう思っていた。

 

 でも会議室の真ん中で、見た事がないようなキリッとした表情で仕事する日向さんは正直カッコ良かった。

 熱意も、想いも伝わってきた。

 あのタイプのライブが実現するなら、俺は引き受けようと見ながら思った。

 日向さんの情熱は本当にすごい。

 小さいのに必死で可愛くてカッコイイ俺の恋人。 


 我慢できずに夢中でキスして気が付いたのだが……日向さんの唇が熱すぎる。

 ……熱だろうか。それとも俺が気持ちに任せて暴走したせいだろうか。

 日向さんが俺に慣れるまでゆっくり……と思っていたのに無理だった。

 顔を真っ赤にして目をパチパチさせていたが、車が動き出したらショートしたように眠ってしまった。

 ……本当にやりすぎたかもしれない。



 家について車をとめても起きる気配がない。

 俺は一度家の中に入り、二階から日向さんが寝ている布団を一階に持ってくる。

 発熱しているなら心配だから、仕事や家事をしながら見守りたいと思った。

 本音をいうと、近くにいてほしいのだ、それだけだ。

 日向さんは起きると何も言わずにトコトコ仕事に行ってしまうので、見張りたかった。

 車に戻り、日向さんを抱きかかえて出す。飲兵衛で背負った時も思ったけれど、日向さんは一度深く眠ると中々起きない。

 こんな状態で外で眠っていたなんて……危なすぎる。

 布団に座らせて、自分にもたれかからせた状態でスーツの上着を脱がせる。

 汗をかいていて、ふわりと日向さんの香りがする。

 俺は仙人のような気持ちでそれを脱がせて横にして、布団をかける。

 ……首元のシャツも苦しそうだったので、ボタンを開ける……大変な作業だ、これは。

 俺はスーツの上着をかけて……スカートは無理なので……布団をかけなおした。

 そしてふすまを完全に閉めたが……これでは何も見えない。

 少しだけ開けてその場を離れて、店に出るための準備を始めた。



 今日は金曜日なので、お店を休めない。

 平日の昼間にうちの店を利用してくれている人はとても多い。

 予告なしに休むと信用を失う。

 しかし仕事も増えて日中空ける時間も増えてきたが、美和子さんと元劇団の仲間たちも資格を取り、店を回してくれるようになっていた。

 本当に助かっている。

 美和子さんが俺に気が付いて振り向いた。


「隼人くんおかえりー! 日向ちゃん大丈夫?」

「発熱しているようだ。内科に連れていく」

「いやいや、熱くらいで病院行かなくて良いって! とりあえず寝せておこう? あれ睡眠不足でしょ? あ? もしくはなんかした? 日向ちゃんに何かした?」

「……」

「目が怖い……何かしたわね……いやとりあえず今寝てる人を連れて行かなくていいと思う……」

「……本当か」

「い、いらっしゃいませ~~~~~」


 美和子さんはかなりの楽観主義者で、わりとどうなっても「大丈夫よ」と言うのであまり信用できない。

 しかし確かに寝不足がメインだろう。あと……俺も少しやりすぎたのは否めない。

 眠っているのを見守ることにしようと思う。

 

「おかかとシャケと梅ください」

「はい、お待ちくださいね」


 注文が入ったおにぎりを出していたら、そのお客さんが台の上に何か袋を置いた。

 顔を見ると……日向さんと同じ会社の女性……コンビニで会った人、たしか桜さんという人だと気が付いた。

 桜さんは小声で聞いてきた。


「日向さん、LINEが既読にならなくて。ここで寝てますか? かなり疲れてたみたいなんで心配なんですけど」


 美和子さんが俺のほうを見る。

 俺は静かに頷いた。

 この前桜さんとミサキさんには話したと聞いている。

 美和子さんは

「寝てるって」

 と静かに答えてくれた。

「じゃあこれ、日向さん元気になるセットなんです!」

 桜さんは台の上に袋を置いた。

「あらら、ありがとう。あとで渡しておくわね」

 美和子さんが受け取った。 

 俺は軽くお辞儀して、その中身を確認したら……ユンケルとエナジードリンクが10本くらい入っていた。

 なんだこの徹夜を推進するようなセットは……。

 桜さんはにっこりとほほ笑んで言った。

 

「日向さん、ストローをこう左右にさして同時に飲む姿が圧巻なんです、2秒くらいで全部飲むんですよ! あ、おにぎり頂きます!」

「ありがとうございましたー!」

 

 美和子さんがお代を頂くと桜さんは「また来ますー」と会社に戻って行った。

 俺はとりあえずそれを家のほうの冷蔵庫に入れた。

 エナジードリンク系統は体力の前借で、明日の体力を使っているのだと聞いた。

 こんなのばかり飲んでいたら……と思うが、本人が望んでいることに俺が口を出す必要はない。

 休める時はゆっくり休むと良いと思う。でも何だかもやもやしてふすまの間から眠る日向さんを覗いた。

 無理しないでほしい。大切な人間の体調が悪くなるのをもう見たくはない。

 

 


 夜9時すぎ。

 俺が片づけの作業をしていると、視界のふちで布団がモゾリと動いた。

 午前11時に倒れるように眠った日向さんが10時間ぶりに起きた。

 正直なんどか息を確かめたほど、深く眠っていた。

 動く姿に安心するほどだ。 


「……隼人さんだ。おはようございます……の時間ではないですね、何時間寝てましたかね……あれ、ここ、すいません、一階ですか」

「熱を測るといい。車で運んだ時に身体が熱かった」

「すいません、ありがとうございます」


 熱を測らせたら37.5だった。

 昼よりは確実に解熱している。触れた時はもっと熱かったと思う。

 上に置いてあったパジャマを勝手に洗濯してほしておいた。日向さんは「あわわ……すいませんでした……」と言いながら受け取り、着替えた。

 俺はその間に軽く食事の準備をする。聞いたら「このレベルまで仕事すると、すぐ山盛りたべると胃が痛いので……いつも通りお茶づけで大丈夫です」というので卵粥を出した。日向さんはパジャマに着替えた状態でそれを美味しそうに食べた。

 まだ熱があるので、お風呂はやめておいたほうが良いだろう。それにここまで解熱したなら病院も必要なさそうだ。

 食事を終えた日向さんは俺のほうをみて、四つん這いで来ようとしたが、俺は布団を指した。

 熱があるなら横になっていたほうがいい。

 日向さんは、目に見えて落ち込んでしょげしょげと布団に戻ろうとしたが……正直俺のほうが我慢できなかった。


「……おいで。……少しだけ」

「はい!」


 日向さんは俺の膝の間にトコトコ入ってきて丸まった。

 久しぶりに日向さんの体温と香りに、どうしようもなく胸が痛くなってくる。

 日向さんは「私、めっちゃ汗かいてたから……臭かったらすいません……」と更に小さくなった。

 そんなの全然かまわないというか、むしろ……俺は日向さんを強く抱き寄せた。

 パジャマという薄い布一枚で触れる日向さんの柔らかさが辛いレベルになってきた。

 手櫛で髪を整えて、まあるいオデコを出す。

 日向さんが「えへ」と笑う。俺はオデコに優しく唇を落とした。直後に身体を固くするので、優しく頭に指をいれて頭を撫でる。

 すると少しだけ力を抜いて身体を預けてきた。

 どうしようもなく愛しい。このままもう一度唇を奪って、全てを奪い尽くしたい。

 しかし……預けてきた身体が熱い……発熱している。

 寝かせなければいけない……しかし離れがたい……寝かせなければならない……


「……離れがたい」


 思わず素直に言う。

 パアアと笑顔になったが、頬が上気しているので、布団に戻した。

 日向さんは布団を鼻の下まで持ち上げて「むー……」と言っている。

 俺は台所に戻り、冷えピタを持ってきて日向さんの大きくて丸いおでこにはった。

 気休めでも気持ちが良いだろう。日向さんは「ありがとうございます」と目を細めた。

 近くにいたくて、俺は日向さんが横になっている布団の上から、横に寝てみた。


「……?! 隼人さん……?」

「体は辛くないか。痛い所とか無いか。食べたいものは無いか、近くにいてほしいか、居て欲しくないタイプか、どっちだ」

「隼人さんちょっとまってください、質問が多すぎます」


 日向さんは布団に入った状態で「ぷはっ」と笑った。

 俺は布団の上で日向さんの方を肘をつき、手で側頭部を支えて日向さんを見る。

 日向さんが布団の中でモゾモゾと寄ってきて、俺の肘にスリ……と頬を寄せた。


「疲れすぎると熱が出るんですけど、すぐに下がりますから。何も要らないです。隼人さんこそ大丈夫ですか?」


 俺は無言で日向さんに頭を引き寄せて、髪の毛にキスをして、何度も髪の毛を撫でた。

 すると日向さんは気持ち良さそうに眠りに落ちていく。

 俺はずいぶんと長い間、眠る日向さんを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 日向さん素敵すぎです。 もっともっと幸せな気持ちにさせてあげてください。
[一言] こうなんというかあれでこれで 尊い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ