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間借りから始まる恋~彼が有名声優だと私だけが知っている~  作者: コイル@オタク同僚発売中
出会い

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14/41

お部屋にお邪魔します


 隼人さんを目で追うと、華やかな女性の海に囲まれていくのが見えた。

 そりゃそうだ、あんな素晴らしい声なんだもん。

 でも隼人さんは見向きもせず、会場から出ていく。

 その素早さは私を安堵させた。でも美女祭りのドラゴンか~~私はこっそりとため息をついた。

 横にスッ……とミサキが寄ってきた。今日は今度の役の合うように紫色のドレスを着ている。

 美しい女優さんがいる中でも光って見えるから、そりゃ琥珀も狙いにくるよね……。


「……ねえ、琥珀さんがこのあとヘリコプター乗らないかって」

「そのままどこに連れていかれると思ってる?? 天国? 地獄?」

「東京湾一周って言ってるよ? ミサキ乗ってみたいなあー」

「陵、陵はどこなの?! 陵の金で乗りなさい!!」


 結局犬飼さんに挨拶だけして、琥珀を警戒しながらミサキを守り、陵の機嫌を取って終わった。

 疲れた……。



 実家で着替えた私はすぐに店に戻ってきた。

 隼人さんはあの後すぐに会場を出ておにぎり屋さんを営業、閉店後のお金の計算をしていた。

 

「ドラゴンに所属したんですね」


 私はシャッターを閉めた店内で隼人さん曰く「残り物」(超美味しいんだけど!)のおにぎりを頂きながら呟いた。

 ドラゴンなら仕事の種類も多いし、琥珀を見てれば分かるが立場は守られるし、口は堅い。

 隼人さんのような人には良いのだろう。でも女の量がハンパじゃない!!

 ぐぬぬ……と呻いていたら、作業を終えたのか、隼人さんが私に声をかけた。


「……中においで」


 と声をかけてくれた。もちろん期待してたけど、私にとってはそこから先は聖域だ。

 でも今さら純情ぶっても仕方ない。私はコクンと頷いて、隼人さんが開けてくれたドアから入った。

 ……6年間店の外からみていた場所に入っていく。めっちゃドキドキする。隼人さんのお家だ。

 奥にある障子を開くと、廊下があって、小さな台所とテレビ、それにちゃぶ台が見えた。 


「こっちが家用の台所と、リビング。そしてあっちが寝室……」


 寝室とか言われるとエッチな妄想して倒れそうになるが、なんとか耐える。

 でも本当に恋人になったら……ええ……? 私勢いだけで何も考えずに突入しすぎてない? 大丈夫なの?


「どうぞ」

「……はい」

 

 隼人さんが座布団を出してくれた。

 落ち着こう……私は隼人さんに近づくと頭がおかしくなる傾向にある。

 そもそも顔も雰囲気も体形も好みで、最高の声で殺しにくるんだから仕方ない。

 隼人さんは台所から電気ポットとマグカップを持ってきてくれた。

 そしてワサァァァァァァァァァァァと山盛りの色んな飲み物のティーバック……日本茶、番茶、紅茶はアールグレイに、レモンティー……最後にはカルピス原液まで持ってきてくれた。

 ……これはなんぞ……?

 私がその山をまじまじと見ていたら隼人さんは握りこぶしを口の前に持ってきて黙ってしまった。

 ……照れてる。

 そして分かった。

 私が何を飲むのか分からなくて、沢山準備してくれたんだ。


 隼人さんも私がいることに緊張してるんだ、意識してくれてるんだ。

 ちゃんと特別なんだ。


 一気に気持ちが楽になって、私は山の中から番茶を出した。


「お茶なら番茶が一番好きです。紅茶も好きです。コーヒーはあまり飲みません。隼人さんは?」

「……俺も番茶があればいい」


 隼人さんは番茶を二つ、マグカップに入れてくれた。

 少し落ち着いたので、リビングを見渡す。

 10畳くらいの部屋で古い箪笥があり、上に房江さんとおじいさん……それにご両親の写真が見えた。

 ずっとこの家に一人だったんだな……。

 私は常に誰かがいる家で育ったので、一人で生活するのが想像できない。

 でもそれを「淋しそうだ」とかは思わない。それは私だけの物差しで隼人さんの物差しじゃない。

 ただ分かるのは、ずっと一人だった人が、突然他人(恋人候補だとしても他人は他人だ)と暮らすのはストレスが大きそうだという事。

 舞い上がりすぎないで、ちゃんと隼人さんを見よう……と心に決めた。

 隼人さんはトン……とマグカップを置いて話し始めた。


「……アニメの声優をした時のディレクターが犬飼さんで。ずっと誘われていた」

「! 犬飼さんとお知り合いだったんですね、私もお仕事したことあります。お仕事出来る方ですよね」

 

 隼人さんは目を伏せて頷いた。


「もっと……ちゃんとすべきだと、声はギフトだから、と」

「わかりますわかります、超わかりあえます」


 私は何度もうんうんと頷く。

 WEB媒体のドラマで犬飼さんにはお世話になったのだ。

 ああ隼人さんの話をしたい、超仲間になれる……でもしないほうがいいな、専務だもんね、女と同居なんてされたくないね。黙っておこう。

 

「専務になる予定があるから……仕事は無理させない……でもどうしても頼みたい仕事がある……と」

「新人の扱いじゃないですよ、それ。でもまあ……今日もすっごくカッコ良かったです。もうめっちゃうるさかったのに隼人さんが話した瞬間にシーン……てなって。マイクを使うと隼人さんの声っていっそう素晴らしくなります。もうたったあれだけの挨拶なのに私、本当にめっちゃ好きで……」


 熱弁ふるう私を隼人さんが優しい目で見ていた。

 ……また興奮してしまった。

 

「……ありがとう。久しぶりに人の前に立ったから、変じゃないか、心配してたから、安心した」


 隼人さんはそう優しく言ってくれた。

 私は無言で何度も首をぶんぶん振った。

 本当に素敵だった。

 隼人さんは、口元に握りこぶしを持ってきて少し考えて言った。


「……腐れ狸ってドラゴンの社長のこと……?」

「っ……聞こえてましたか! 誰かを指定した言葉じゃないですよ?! そして素晴らしい声で私のクソみたいなセリフを言うのはやめてください!」


 私は頭を抱えた。

 イヤ本当は私、ドラゴンの社長を狸と呼んでいる。だって体形も顔もそっくりなんだもん。

 隼人さんはお茶を一口飲んで


「……日向さん、仕事中は全然違う人みたいで……かっこよかった」

「かっ……かっこいい?! 腐れ狸って叫ぶ姿が?!」

「……腐れ狸……たしかに狸っぽい……」


 隼人さんはもう一度口にして、小さく笑った。

 それ絶対ドラゴンで言わないでくださいよ?!


 



 次の日、さっそく犬飼さんが隼人さんにさせたい仕事が見えてきた。

 私たちライターは、それがCMだと読者に知られないように記事を書くことも多い。

 ステマと言われる種類のもので、宣伝用に色々先に見るのだが……。


「……これ、ドラゴンはマジで売れると思ってるのかな」

「いや~~~もう逃げられないんじゃないですかね、たぶん狸から直にきてる仕事ですよ。しかし酷い、ぷはっ!!」


 私と桜ちゃんは宣伝で渡されたゲームをしながら、さっきから爆笑していた。

 それはドラゴンが新しく仕掛ける『リズム・ドラゴン』というスマホゲーだった。


 キャラクターは総勢30名。ドラゴン所属の有名タレントがアニメ化されて出てくる。

 有名デザイナーの気合の入った絵、アニメ化も決まっている、制作会社も超大手だ。

 最初から24本の2シーズン、CD発売に一年後のドームまで押さえて、鬼のような本気を感じるプロジェクト。


 でもこのゲーム、アニメやゲームのトーク部分は所属タレントのアニメ絵なのに、ゲームになると突然ドラゴンでリズムゲームさせられるのだ。

 それはドラゴンが普通に? 踊るモードとか、太鼓の隙間を抜けるドラゴン、昇るドラゴン、増えるドラゴン、脱衣ドラゴン??


「……いやもう何でもいいんですけど、なんでアニメキャラじゃなくてドラゴンなんですかね」

「桜ちゃん、それたぶん現場のスタッフ全員思ってると思うよ」

「ですよね」


 アニメパートは素晴らしいアニメ絵でぬるぬる動く。

 これは間違いなく売れるアニメ……そしてラスボスで琥珀も出てくるようだ。

 ……ゲームいらなくね? アニメだけでよくね??

 でも自信満々にゲーム先行で、先行登録受付中。絵が素晴らしいからめっちゃ登録数上がってるけど……クソゲーすぎる。

 私的に大問題なのは、クリアすると流れるアニメパート! ナレーションが多く入っていて、その声が隼人さん……いや楠さんなのだ。

 犬飼さんが頼みたかった仕事は、これだ!!!

 桜ちゃんがその部分のムービーを聞いて口を開く。


「これあれだ、パーティーのすごい声の人だ。この人のムービーは見たいかも。あ、攻略できないのか」


 隼人さんはナレーションオンリー。

 ゲームキャラにも出てこないし、コンサートにも出てこないし、攻略もできない(ちょっとしたかった)。

 でも一番ムービーでも目立っている。

 

 えええ……私、隼人さんの声集めるために、このクソゲー攻略しなきゃいけないの?

 ていうか、なんて記事かけばいいのよ。楠さん攻略できなくて残念以外書けないけど??

 でもなんだかんだ言って私と桜ちゃんは『リズム・ドラゴン』をやりながら爆笑していた。

 しかもこのゲーム、想像以上に難しい。クソな上に鬼ゲー!! もう課金一択。発売前から楠さんの声目当てで万出すわ。


 家に帰って隼人さんに聞いたら


「……劇部分? 読んであげるのに」


 と言われて首をブンブン振って断った。

 何度も言いますけど、そういうチートはよくないですから!!!

 隼人さんは優しくほほ笑み、私に番茶をだしてくれた。

 ……覚えてくれて、嬉しい。



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