石ころに転生しました(絶望)
えー、皆さん、こんにちは。あ、寝起きの人はおはようございます。就寝前の人はこんばんは。もう総じてハローでいっか。
皆さんは転生モノの小説や漫画って読んだりしてます?
俺は結構読んでる。そうだね、どのくらいかって聞かれると具体的な数字は分からんけど、3桁程度の作品は読んだんじゃないかな。え? 全然少ない? いいんだよ、俺の中では多い方だと思ってるから。公的な指標なんか無いんだから、俺の中で答えが完結してりゃ問題ない。こーいうのは自己満足でいいんだよ。
俺って好き嫌いが無いからさ、王道ファンタジーは勿論のこと、恋愛、悲恋もバッチコイ。ハーレムも逆ハーレムも、奴隷だろうが神だろうが勇者だろうが、何でも好物さ。面白ければオッケー。感情移入さえできれば、どんな作品も俺の世界と同義。そういう意味じゃ、読むたびに精神だけその作品の世界に転生していると言っても過言じゃないね。
唯一、難しいと思うのは、哲学的だったり詩的だったりする場合かな?
これは俺の教養の問題で、作品が悪いわけじゃない。純粋に俺の知識という引き出しに理解できる辞書が入ってなかっただけ。それ故に転生モノを愛する俺としちゃ不覚もいいところなんだけど……アレって辞書引いて勉強すりゃ理解できるかって言われりゃ、どっちかというと感性の方が大事だからさ。結局理解しきれず断念してんだよなぁ。理解できないからこそ、凄ぇと思うわ。転生の哲学って何だよってな。
おっと、まあそんなことはどうでもいいんだ。
大事なのは、俺は転生モノをこよなく愛しているということ。
人間、いつか死ぬもんだってことは分かってる。だから今を一生懸命生きて行こうと頑張るんだろうけど……でも、もし転生ってのが本当にあったとしたら? 死ぬまで築き上げてきた「俺」っていう個性が、死んで消えちまうんじゃなく――新たな世界で再び芽吹くとしたら?
不老不死とかじゃないけど、それはそれで、人類の見果てぬ夢――ってことになるんじゃないかな。
だって、リセットされるのは世界で、俺自身じゃない。
それはある意味、不老不死に近い現象であり、死という恐怖を克服できる素晴らしいことじゃないか。
無論、世界中の全ての人が転生なんてしちまったら、いくら並行的に無限の世界が広がっていたところで、必ず世界観がおかしくなって意味のわかんない世界になっちまうだろう。皆が皆、過去の記憶を持ってて、しかもそれぞれ違う文明から来てたりしたら、もう滅茶苦茶になる未来しか見えねえもんな。
だからまぁ……普通に考えればあり得ない話なんだが、言ってしまえば「夢を見るのは勝手だ」っていうだけの話だ。
そう、俺の勝手だ。俺の勝手な幻想。
これが叶ったら、きっと俺は小躍りして神様に感謝することだろうよ。
うん、間違いない。
間違い……ないはずだったんだが……。
そんな幻想を抱えて天寿を全うした俺の魂は、まさかの転生を果たした。
――――――――石ころとして。
そうきたかぁー、と思ったのは、俺が転生したことを自覚し、さらに生物でも何でもない無機物……それも誰かの役に立つような武器でも防具でもなく、まさしく路傍の石に生まれ変わったことを理解した瞬間だった。どうやって理解したかだって? 理屈ではなく、心で感じ取れた……って奴だ。原理は知らん。
ちなみに石ころなんで、五感は全て死んでいる。何も見えんし、何も聞こえんし、何も匂わないし、何も感じない。腹も空かない。何もない。まさに石ころ。自ら転がることすらできん。言うなれば、石ころに"俺"という意識が沁みこんだだけの存在、という感じだろうか。言葉で表現すんの難しいな。
ともかく今の俺の中には、人間だった頃に"当たり前"であり"必要"だったものは全て失われている、というわけだ。
絶望的な状況に感じるだろ?
だがまあ、数多くの転生モノを見てきた俺にとっては敵ではない。
転生したら石ころでした、みたいなタイトルなんざ脳内検索をかければ、すぐに引き出せる。フハハ、数百の転生バリエーションを極めた俺に死角など無いわぁ! 石ころ転生を題材に執筆した作者は夢にも思わないだろう。まさか自分の作品を体感し、その物語を模倣しようとする者がいるなんてなぁ!
よし、脳内データベースの検索ボタンをポチッと………………………………お、さっそくヒットしたぞ。そういや30年前ぐらいに、こんな作品を読んだなぁ。あぁ、そうそう確か短編だったな、これ。
どれどれ、どんな結末だったかなぁ。
エピローグ――――――永遠の命を求めていた俺は、確かに永遠の命を手に入れた。石ころとして。石ころは何もできない。何かを成すことすら許されない。ただそこに在ることのみを世界に許された、孤独の存在。それが石ころだ。そのまま川に流されるも良し。人間に石材として加工されるも良し。誰の目にも映らず、人知れず摩耗し、地中に埋まっていくのも良し。ただ――――自ら行動をすることだけ禁じられているだけだ。俺は…………考えることを止めた。
あぁー、まぁ……なんだ。ちょっと俺が求めていた結末と違うなぁーっと思わせる作品だな。いや、読者として読んでいる分には十分面白いんだが、当事者になった途端、話が変わってくるというか……このエンドはあかんだろ。夢も希望もないじゃないか。絶望まっしぐらの転生人生なんて嫌だぞ。夢をくれ、夢を。
再検索をかけるも、あまり結果は芳しくない。
サンプル数が少ないのは「石ころ」に転生したところで、盛り上がりに欠けるし、連載したところで話が広がらないことが原因ではないかと分析する。つまりその傾向は今の俺の人生にも直結するわけで。
おいおいおいおい、そりゃ困るよ。
ったく、しょうがねぇなぁ。読み専の俺としちゃ、専門外もいいとこだが、ここは一肌脱いでやっかぁ!
石ころ転生の物語は――これより"俺自身"が切り拓くっ!
任せろ、もうプランはできている。
転生で最も多い展開ってのが、異世界だ。異世界と言やぁ剣と魔法の世界! もしくはラブロマンス溢れる中世ヨーロッパ風世界!
後者はともかくとして、前者であることが大事だ。
魔法使い――この存在が、これより描き出す俺の物語に必要不可欠だ。
いいか、プランはこうだ。
まず魔法使いが俺の転がっている場所近くで戦闘行為を始める。戦闘行為だ、ここが重要。戦闘行為を始めると、魔法使いはなんと! 周囲の土をかき集め、ゴーレムを形成し、敵を討とうと画策する。
そこで俺の登場だ。
周囲の土と共にゴーレムの一部となった石ころの俺。一体化し、ゴーレムという新しい存在へと昇華した俺は、魔法使いの支配下にあるゴーレムの意識を乗っ取る。そうすりゃ、少なくとも自由に動ける身体と、視覚ぐらいは取り戻せるだろう。
そこまで行けば、あとは俺の勝ちだ。
魔法使いの性格にもよるが、仲良くできそうならその魔法使いと共に旅や生活をするも良し。喧嘩別れして独自の人生を歩むも良し。選択肢が多すぎて困っちまうぐらいだぜ。
え、ご都合主義すぎる?
いいんだよ、転生している時点でご都合主義なんだから。ここまで来りゃ魔法使いの一人や百人、その辺を闊歩しているはずだ。間違いない。俺の転生データベースの演算機能がそう結論を導き出している。
よぉーし、来い来い来い来い来い……!
来い来い来い来い来い来い来い来い来い………………!
コイコイコイコイコイコイコイコイコイコイコイコイコイ………………!
こいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこい§○×あだhbjへjqコココココココふぁsjhbふぁ………………………………!
そうして、俺は考えるのを止めた。
(秋の桜子さんからFAを戴きました!ありがとうございます!)
転生って……時と場合によっては、怖いですよね(´・ω・`)
あっ「考えるのを止めた」というのは、知っている方はすぐにわかると思いますが、ジョジョネタです。