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平均であり普通の何事もない生活 8

「んで、こうなった」

「なにが『んで』じゃ。まったく、なぜ我が、このような娘の面倒を見なければならん」

「家にいるのがお前だけだからだ。俺は今から買い物にいってくる」


 レオンのベッドを占領するように寝かされている娘。仕事先から頼まれたらしいが、なぜ我が。納得がいかん。


「……まったく、こんなことになるのであれば、クオラオを追い返すのではなかったのう。面倒を背負ってきおって」

「実際に背負って連れてきたからな」

「そういうことを言っておるのではないわ!」


 我がなにを言うても、レオンはどこ吹く風。我が魔神ということを、まったく気にしておらん。もう少し、敬うということはできんものか。


「お前は面倒を起こすなよ、ヴェラ」

「わかっておるわ。さっさとゆけ。イチジクのシロップ漬けを忘れるでないぞ! 絶対じゃぞ!」

「もう一瓶食ったのかよ。わかった買ってくるよ……来月のお詫びの分も含めてな」

「もしや、まだなにかあるのか!?」

「いんや、ないない。……ないといいな。もし、その子が目を覚ましたら、軽く事情を説明してやってくれ。いい子にしてろよ」


 玄関のドアを開けるや否や、レオンは走って出ていってしまう。やはり、敬いが足りんのぅ。我はいつでもいい子じゃというのに。


「さて、どうしたものかの……んむ?」


 テーブルの上に、見慣れぬものが置いてある。それは、一本の短剣。


「たしか、娘が持っていたものだったかの。つばもなく、柄から切っ先まで、一本の鋼でこしらえた短剣か」


 この短剣は、レオンが置いていった。病院で、医者が娘の服を脱がせたときに懐から出てきた、と言っていたか。短剣の鞘を見てみれば、鞘には装飾などなく、無骨な実用品だといいうのがわかる。しかし、刃が少々欠けておるの。


「一体、なにを斬ったのじゃろうなぁ。……はて、このしるしはなんじゃったかの?」


 柄と剣身の間に、小さく紋章が彫ってある。紋章は双頭竜。国か、それとも貴族のものか。


「どこぞで見たような気もするが……。レオンの前に契約していた亜人か、はてさて、その前の人間のときか。数年前ならまだしも、そうなってくると百年以上も昔になるかの」


 我が人の世に出るのは、契約者がいるときだけ。大体の出来事は覚えていても、見聞きしたもの全てを覚えているわけではない。年はとりたくないものじゃな。


「だが、気になるのう。こう、喉に魚の骨が引っかかっておるようじゃ」


 もやもやとした気持ち悪さが胸に残る。魚の骨であればいくらでも取りようがあろう。じゃが、これは骨ではなく記憶。娘が起きないのであれば、思い出す以外に解決方法はあるまい。


「ふぅぬぅ……思い出せん。……ええぃ、やめじゃやめじゃ! 思い出せぬということは、たいして重要なことでもあるまい」


 我が困ることなどありはせんじゃろう。


「今日はクオラオに無理やり朝餉あさげを食わされて、気分が悪いのじゃ。しかも嫌いなモノばかりじゃ! なーにが『食事は大事』じゃよ。そもそも我は食事を取らなくとも、死にも健康を害しもせぬ。なにせ、魔神じゃからのう。ひゃっひゃっひゃ!」


 ……笑ってみたが、誰もいないところで笑っても空しいだけじゃのう。


 娘の額に適当に絞ったタオルを乗せ、床に毛布を敷き寝る準備を整える。気分が悪いときは、寝るに限るのじゃ。


「しかし、厄介そうな娘を拾ってきおって。じゃがまぁ、楽しませてはくれるかの。どうせ我が力を与えているのじゃ。そうそう酷いことにはなるまい。それとも……」


 様々な運をレオンに与えたはずじゃが、そのなかでも飛び切りに運を使うときかもしれぬ。どう足掻いて回避するかを、とくと見せてもらおうではないか。

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