表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

兎角この世は生き辛い 3

 記憶から消しさりたい出来事があってから二日後。やはり名前以上のことはなにも言おうとしないが、それでも日に日にシスナの口数は増えていった。体調も順調に回復しているようで食べる量も増え、顔色ずいぶんよくなっている。俺がベッドに戻れる日も近そうだ。


 で、今日のシスナはというと。


「……ん」


 目の前で、これでもかというほど柔軟運動をしていた。筋を伸ばすよう脚を大きく開き、上半身を前後左右に。おー、よくそんなに体を反らせるものだ。やーらかいやーらかい。もう三十分はやってるよね。帰っていい?


「はぁあ……」


 俺は右手に持った短剣をクルクルと回しながら、息を吐く。シスナの側には細い長剣。どちらも刃は潰してある。


「身体を動かしたいからって、いきなり“戦え”とはね」


 なんと仕事が休みでゆっくりしたい俺を連れ出し、アパートの近くにある林のなかの、少し開けた広場で向かい合い立っていた。夕方だからか、カラスが鳴いている。帰ろうよ。


「寝てばかりで、身体が鈍ってる。それに、ヴェラからレオンは強いって聞いた。興味がある」

「だからってなぁ……」


 柔軟を終え、剣を構えるシスナを見る。


 子ジカのように震えていた足はしっかりと地面を踏みしめ、剣の構えも堂に入っている。身体つきというか、実際に引き締まった身体をこの目で見ているので、ある程度戦えるな、とは思っていた。だが、思っていた以上に使えるようだ。


「まぁ、いいか」


 最初は気乗りしなかったが、こういった手合わせは傭兵団にいた頃を思い出し、少し楽しくなってしまう。俺も久々に運動するとしよう。


「その長さの剣でよかったのか? シスナが持ってたの、短剣だろ?」

「いい。あれは戦うためのものじゃない」

「じゃあなんだ。狩りで獲った動物でも捌くためか?」

「……そんなとこ」

「へぇ。じゃあ今度、一緒に料理でも作ってみるか。誰かと料理なんて、久しくしてないんだよ」

「…………か、考えておく」


 ふむ。こうして無駄話をしている間も、シスナの身体の芯はブレていない。せいぜい最後に少し剣先がブレたくらいか。体調も大丈夫そうだし、これならよほど激しく動かない限り、体調が悪くなることもないだろう。残る問題は、俺が手加減する必要があるのか。それとも、手加減する余裕もない状況になるのか。


「やってみりゃわかるか。――こい、シスナ」

「ふぅ……いくよ!」


 短剣を構えた俺に向かい、シスナの足が地面を蹴る。


(――!? 速いッ!)


 予想以上のシスナのスピードに驚く。まるで地面スレスレを飛ぶ鳥のようだ。しかし、目に追えないほどではない。驚いた心を冷静に戻し、シスナの動きに合わせて情報を修正する。


 上段から振り下ろされたシスナの剣を、手に持つ短剣で受ける。修正し、予測した衝撃とほぼ一致。シスナの体格からすれば力強いが、それでも軽い。体重の足りないシスナでは、剣に重さがない。弾くか受け流すか一瞬悩み、短剣に込めた力を軽く抜き、下方向へと剣を受け流す。この隙に一発なにか入れたいところだが、これは試合や殺し合いじゃない。あくまで運動だと自重しておく。


「軽いな」

「なら、これはどう!」


 受け流された剣先を、そのまま上に跳ね上げてくる。いわゆる逆袈裟斬り。確かに下から上の斬撃であれば地面を踏締められる分、剣の重さは増すだろう。だが、そんな攻撃をバカ正直に食らう気はない。スピードなら先ほどの振り下ろの攻撃のほうが速い。俺はシスナの剣を受けることなく、バックステップで回避する。


「……避けられた」

「そりゃ避けるさ。危ないからな」


 俺は軽口で返すが、内心はヒヤリとしていた。


 シスナの最初の攻撃。目で追えないほどではないといっても、あのスピードは脅威だ。今は向かい合っての試合方式だからいいが、後ろから奇襲などされたら一溜まりもない。剣を抜く隙もなく斬られるだろう。傭兵団でも、奇襲や夜襲は一番気を付けていた。


 それと、シスナのやった受け流された直後の逆袈裟斬り。振り下ろし、素早く振り上げる。単純な動作だが、極めれば単純ゆえに効果は高い。シスナはそれを素早く、確実に、高いレベルでやってのけた。一撃目を受け流したところで不用意に手を出していれば、手痛い反撃を食らっていただろう。シスナが避けられたと驚いたのもわかる。


 運動だ自重だと舐めてかかっていた自分に感謝し、反省する。運動だという点は変わらないが、自重も舐めてかかることもできない。


「次は当てる」

「当てようとするな。寸止めにしろ」

「そんな余裕……ない!」


 余裕がないのはこちらだ、などと答えるヒマもなく、シスナの攻撃を短剣で受ける。受ける、避ける、受ける、フェイント、避ける。


 受けられない、避けられないといった攻撃は今のところないが、やはり気は抜けない。こちらが手を出す“フリ”をすれば、シスナは素早く反応し迎撃する。これで病み上がりだというのだから、本調子はどれだけ強いのか。人は見かけによらないとは、よく言ったものだ。


 俺はシスナの剣を弾き、一旦距離を取る。


「ははッ……!」


 やばい。楽しいぞこいつ。俺は別に、戦いを楽しむような戦闘狂ではない。それでもシスナと戦えば戦うほど、打てば響く鐘のように、噛み合ってしまう。そんな相手に、楽しくならないはずがない。だからこそ。


「おしまいだ。十分運動になっただろ」


 短剣を鞘にしまう。これ以上戦っていたら、本気になってしまいそう。


「……動き足りない」

「不満そうな顔をするな。動き足りないなら走って帰れ」


 身体を動かすという目的なら、もう十分だろう。疲れすぎても逆効果になるだけ。


「そろそろ戻ろう。いい時間だしな」

「――レオン様ー! いらっしゃいますかー!」


 林の外から、声が聞こえてくる。


「こちらにいらっしゃったのデすね。お探ししました」

「ひぅぅぅぅぅ……!?」


 ガサガサと草を掻き分けて出てきた人物を見た瞬間、シスナが俺の背中に隠れた。どうやら、お説教がトラウマになっているらしい。一体どんなことを言われたのやら。


「クオラオ、どうかしたのか?」

「近くの森に魔物ガ出ました。村デ戦える者を集めています。自警団じけいだんのみなさんガ対応していますガ、数が多いようデす。ゴ協力をお願いします」

「魔物が?」

「はい。出たのはスケルトンやゾンビなドの、アンデッドダそうデす」

「数が多いなら、村の自警団だけじゃ厳しいかもな」


 アンデッドには、六人の神が与えたという魔法が効く。特に癒しの魔法が一番効果がある。だが、癒しの魔法を扱えるのは、この村に一つだけ建っているシェーラ神教の教会の神父くらい。それ以外に魔法を扱える自警団員は、たしか二人ほどだったか。村にきている冒険者の魔術師なんかが協力してくれなければ、力技で押し切るしかない。相手の数が多ければ、それだけ人数が必要になる。


「わかった、いこう。シスナは」

「私もいく」

「ダメだ。病み上がりには任せられない」

「レオンを手伝いたい。恩返しがしたい。大丈夫、魔物退治は何度も経験してる。足手まといにはならない」

「そりゃ足手まといにはならないだろうが……」


 シスナの力は見ている。スケルトンやゾンビに遅れをとるようなことはないだろう。だが、まだ本調子ではない。万が一ということもある。


「レオン様。差し出ガましいようデスガ、手伝ってもらってはいかガデしょうか。『恩を返す』。美しいことデす。素晴らしいことデす」

「でもなぁ……」

「ワタシのほうデ、シスナ様をサポートいたします。お任せくダさい」

「クオラオも戦うのか?」

「はい。ゴ主人様に仕えていた頃から、戦闘は得意デす。よくやっていました」

「へぇ、よっぽど波乱万丈は人生を歩んだご主人様だったんだな」


 昔は、今よりも魔物の数が多かったと聞いている。であれば主人の身の回りの世話をするにも、戦闘技能は必須だったのかもしれない。


「わかった。シスナを任せたぞ、クオラオ」

「あ、あの、私は別に護衛なんていらない。大丈夫。一人でできる」

「“絶対”にシスナから離れるなよ、クオラオ」

「はい。お任せくダさい」

「い、イジワルだ!」


 シスナがなにか騒いでいるが気にしない。安全は大事だ。


「さて……魔物が相手、しかも数が多いとなると、ナイフだけじゃ心元ないかもな」


 一旦家に戻るついでに、ヴェラに預けていたモノを返してもらうとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ