仲間
勇者になった。
・・・・・・なんて現実感のなさだろう。
試験はあっさり終わって無事に勇者としての資格を手に入れた。そのことにあっけなさを覚えるもとりあえずの目的が果たせたので良しとする。・・・試験の中に縄跳びがあったのは永遠の謎だが面倒くさいので気にしないことにする。
「・・・と、いうわけで。今、世界は大変なことになっておるのだ」
「はぁ・・・」
場所は変わって王国の玉座。目の前に君臨する自称王様のアフロから簡単な世界の事情を聞かされている。
アフロは言う。
「まずは大魔王の配下である『死天王』を倒さねばならぬ」
「死天王?四天王じゃなくて?」
「四天王だと、ほら。いろいろ被るから」
「あ、そっすか・・・」
これ以上は何となく聞くべきではないと思い、話題を変える。
「で、どこにその死天王はいるんですかね」
「え?知らんよ。そういうのはまず近くの酒場で仲間や情報を集めてくるといい」
「雑だなぁ・・・」
手のひらを振って話は終わりだと言わんばかりのアフロ、仕方がないので投げやりに町で酒場を探すことにする。
この町はあまり広くはない町だ。言われた酒場も散策して十分もたたないうちに見つかった。
見つかったのだが・・・
「いや、だから雑すぎねぇ・・・?」
視線の先には目的の建物の看板がでかでかと掲げられている。
そこには「ルウィージの酒場」と書かれていた。
「もうどうでもいいや・・・」
早々にスルースキルを極めたおれは店内に足を向ける。
店内は意外にも人が多く、賑わっていた。
奥にカウンターがあり、円形の机が所せましと並べられているのはいかにも酒場だなといったところか。
「すいませーん、仲間とか探してる人っていますか?」
我ながらこの数時間で随分と雑になったなぁと思う、なにがって?生き方がだよ。
「あーはいはい、仲間ですね。いますよ」
「マジでいるんだそんなやつ」
「ええ、あそこにいるブレイクファーストさんが確か仲間を探してましたよ」
「へぇ?なんか朝食みたいな名前だな、えっとブレイクファ・・・」
振り向いてそのブレイクファーストさんとやらを指す店主の方向を見ると、
なんかリアル食パンマンみたいな筋肉もりもりの男がいた。
顔の部分は大きな食パンだ、そしてその下にある肉体は鍛えぬかれた筋肉を惜しげもなく晒している。つまり裸だ。申し訳程度に腰にふんどしを巻いているが本当に申し訳程度だ。謝ってほしい。
「いや、違う。絶対違う。あれがブレイクファーストなわけがない。あれはそう、ただの食パン屋だ・・・そうだよ・・・絶対そうに決まって・・・」
「ふんどしに『ブレイクファースト』って書いてますね」
「ちくしょうッ!!!」
余計なことを言わないでほしい。
「あの、さっき言った仲間探しっての・・・忘れてください・・・」
他にまともなやつはいないかと探した末に出た言葉はそれだ。
あきらめて店を出る。
「・・・どうしよう・・・ろくな仲間がいない・・・どこに行けばいいかもわからないっていうのに・・・」
酒場なのに誰も情報を持っていなかったのは流石に困った。
どうしたものかと頭を悩ませていると、
「情報がほしいのかい?」
突然の声に視線を上げると、奇妙な格好のバンダナを頭に巻いた長身の男が目の前に立っていた。
「・・・どちら様?」
「よっくぞ聞いてくれましたァ!我こそは世界情報管理局局長、ストアー・ノッティ参上!!」
「世界・・・なんて?」
長ったらしい肩書のこの男は、要するに情報屋のようなものらしい。
「駆け出し勇者のキミには特別にタダで情報を教えようッ!ここから北にある洞窟に仲間を探してる僧侶がいるんだよね」
「どうせ変なやつなんだろ?わかってるよ」
今までの流れからして明らかに胡散臭すぎる。流石にもう騙されるおれではないのだ。
「ちなみに美少女だよ」
「洞窟の場所をもっと詳しく教えてくれ!!!」
「あの、お顔コワーい」
お前これ嘘だったら許さないからな!マジで!!
ともかく方針は決まった、北の洞窟に行って僧侶とやらの美少女を仲間にしよう。
精神的に疲れたおれは癒しを求めるべく、町を後にしたのだった。