↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
銀狼と桜花
PR
52/141

咲き初める想い

ベッドの中で、チドリは重たい瞼を開けた。

夜会の後の記憶が曖昧だ。

部屋に飛んで帰ってドレスを脱ぎ捨て、泣きながらベッドに潜り込んだのは覚えている。侍女達に心配されたが、泣きじゃくるばかりで何も言えなかった。

そのまま泣いて、眠ってしまったのだろうか。

頭がボンヤリする。断片的に蘇るのは、イディアの言葉とレアンの顔だった。また新たな涙が滲む。胸が壊れそうなほど、痛かった。

泣いて泣いて、そのまま死んでしまえばいいのにと思った。

ふいに、誰かがベッドに腰掛ける気配がした。ビクリと体を震わせ、硬直する。毛布の上から、優しく頭を撫でられた。


「……チドリ、起きてる?」


ステラの声だった。


「……ねえ、夜会の日……お兄様と何か、あったの?貴方、もう数日もこのままじゃない」


答えず、体を縮こまらせた。嗚咽が漏れ、抑えられない。


「お願い、チドリ……顔を見せて。辛いなら、話して。貴方のこんな姿、私、見てられない……」


ステラの声に涙が混じる。チドリは恐る恐る体を起こし、毛布の下から顔を出した。

普段の服に身を包んだステラが、涙を滲ませて見つめていた。

その姿がぼやけて、熱い雫が溢れる。


「ッ……ステラァ……!!」


子どものようにステラにしがみつき、声を上げて泣いた。ステラが優しく背や頭を撫でる。部屋にはステラの他に、ファリアしかいなかった。ファリアが自分の目元を拭う。


「……チドリ、どうしたの?一体、何があったの……?」

「わ、私、私……っう、ぅえ……っく」


しゃくりあげながら、何とか息をする。


「私……っま、魔道士だからって、レ、レアンさんの優しさに、甘え、て……わ、私じゃ、駄目、なのに……!でも、い、一緒にいたいって、お、思っちゃって……好きに、なっちゃ……うあぁん……!!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてチドリ……!どういうことなの?」

「チドリ様……!」

「や、だ……やだよぉ……!レア、さんが、他の子に触るの、やだよぉ……!笑うのも、やだぁ……!!」


涙に濡れたステラの目が、大きく見開かれた。


「貴方もしかして、お兄様のこと……」

「……っそ、だよ……!好きなの……っ!!」


自分の言葉に、かえって涙は止まらなくなる。胸の中に溜まった悲痛な思いを吐き出すように、チドリは慟哭した。

チドリの前で、ステラとファリアは互いに顔を見合わせた。



カイトは、目の前の親友に掛ける言葉を探していた。

夜会から数日、レアンの顔は今までに見たことのない酷さだった。

まず、笑わない。目は半分死んでいるし、溜息も多くなった。公務でのミスが多発し、周りは揃って首を傾げている。いつものレアンには考えられないようなことだ。

時折、虚ろな表情をする。その空虚さは、カイトが思わずゾッとするほどだった。意識もどこか上の空で、一言でいえば元気がないのだった。

今、レアンは自分の部屋の机に向かい、公務の真っ最中である。傍らからそれを覗き込んでいたが、先ほどからずっと初歩的な書き間違いを繰り返していた。


「……レアン、そこ、間違ってるぞ」

「…………ああ」

「そこじゃなくて、こっち」

「…………ああ」


返事にもまるで生気がない。前代未聞の事態に、書類を整理していたエスカマとアジーンも心配そうな顔をした。


「レアン様、お加減でも悪いので?」

「…………いや」

「何かあったのか?」

「…………いや」

「レアン様、元気ない。ずっと、チドリ様、会ってない」


グシャリと音がして、レアンの手元の書類が破れた。

その顔に浮かんだ表情に、カイトは目を見張る。

今にも泣きだしそうな顔だった。幼いころからずっと一緒にいるが、こんな顔は見たことが無い。紺碧の双眸が、傷ついたように歪む。


「……レアン、お前……」

「…………なんだ」

「レアン様……チドリ様と何か、あったので?」

「…………別に」

「レアン……」

「何も、ない」


平静を取り繕おうとする姿は、いっそ痛ましかった。ペンを握り直す手が、震えている。


レアンから離れ、三人は額を寄せ合った。


「どう思う?あれ」

「確実に完全に絶対に明らかに何かあったんでしょうなぁ……」

「アジーンも、そう思う」

「だよなぁ……でも多分、レアンの性格じゃあ話してくれないよな」

「意地っ張りですからなぁ」

「アジーンも、そう思う」

「ふーむ…………じゃあ、レアンが話せるような相手なら、いいかな」

「と、言いますと?」

「だからさ……」




目を泣き腫らしたチドリは、ベッドに仁王立ちになったステラを、呆然と見上げた。


「ス、ステラ……今、何て……」

「だから!リウビア国に行くわよ!!」




カイトの言葉に、エスカマが目を見開く。


「なんと……!エーデル様とライゼ様と、ベスティア様に!?」

「うん。あの三人なら、何とかしてくれそうな気がするんだ」




ステラが、チドリの鼻先に指を突きつけた。


「こういう時は!女同士で語るに限るわ!」



カイトが、悪戯っぽく笑って見せる。


「こういう時は、男同士で語り合うもんだろ?」




「やるわよ。女子会!!」

「やろうぜ。男子会」




場面が混在してすみません(^_^;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。