霖雨の国
怪我の回復は見込み通りだったが、周りからの勧めで、チドリはもうしばらく休養を取ることになった。休養といっても、ベッドに縛り付けられるだけだったが。
チドリの話し相手は、もっぱら六人の精霊王達だった。チドリが目を覚ました数日後、名前の話をもちかけられた。
「別の名前……?」
『そうだ。我々を使役する時以外は、真名ではなくそちらで呼んでもらいたい』
『真名は大事な物だから、チドリちゃんしか呼んじゃ駄目なのよぉ』
『そういうことだ。これからは、教えた名前で呼んで欲しい』
「わ、わかった」
『真名は契約の時でいいだろう……俺のことは、藍晶と呼べ』
『アタシは紅焔!』
『私は翠妃よぉ』
『…………琥珀』
『僕はねぇ、白麗!』
『し、紫苑……』
呼ばれた名前と顔を照らし合わせ、チドリは口の中で復唱した。
「……うん!覚えた」
『うふふ。これでちゃんと、私達の名前が呼んでもらえるわねぇ』
『呼んだらいつでも飛び出して助けになるからな!』
「ありがとう」
ベッドの上で、チドリが微笑む。六人は様々なことについて興味を持ち、たくさんの質問をしてきた。それと同時に、チドリにたくさんの話をしてくれたりもした。全く退屈することがなく、毎日賑やかだった。
その賑やかさに遠慮するように、部屋のドアがノックされる。
「はい」
「失礼します。チドリ様、お加減はいかがですか?」
「大丈夫ですよ。もうすっかり元気です」
『来るたびに同じことを聞いているな』
『気持ちはわかるけど、心配しすぎだぞー?』
『…………過保護』
「俺だってわかってますよ。でも聞かないと安心できないんです」
苦笑を浮かべ、レアンが手にしたものをチドリに差し出す。藤色の手紙だった。
「シャイル様からです」
「シャイルさんから……?何だろう」
目を通し、チドリは「わぁ」と歓声を上げた。
「この間のお詫びと魔道士間の交流を兼ねて、リウビア国に招待したいって……!」
『あらぁ。いいじゃない!』
『アタシも行きたーい!』
『お前の意見など聞いてない』
『藍晶のケチ!!』
『誰がケチだ!!』
『まあまあ』
チドリは目を輝かせ、レアンを見た。
「い、行きたいです!行ってもいいですか!?」
「チドリ様がお望みなら。ですがお怪我が心配ですので、あまり無理はされない方が……俺も同行します」
『過保護だ』
『過保護だなー!』
『心配性ねぇ』
「うるさいですよ」
レアンがジロリと睨む。三人は意地悪く笑った。
「俺の事はさておき……カイトやステラも行きたがるでしょうね。早々に支度しなければ……」
「い、いつごろ行きますか?」
「そうですね……早ければ明後日にでも。チドリ様はしっかり休んでいて下さいね。準備は侍女とステラがしてくれると思いますので」
「え、でも悪いですよ……」
「チドリ様」
レアンがニッコリと黒い笑みを見せる。チドリの背筋が凍った。
「……しっかり、休んでいて、下さいね?」
「ふぁ、ふぁい……」
毛布に潜り込んだチドリを見届け、レアンは部屋を出て行った。六人が顔を見合わせる。
『従順な犬かと思えば……有無を言わせぬ時もあるのだな』
『でも、チドリちゃんの体第一っていう意味ではねぇ?』
『まあそうだな。過保護なのは変わらんか』
『甘やかしてるようにも見えるけどねー』
「何の話!?」
真っ赤なチドリに、六人は生暖かい視線を向けるのだった。
夜になり、ステラが部屋に訪れた。
最近ではチドリの体調が回復したので、またもとのように二人で寝るようにしている。
枕元で始められた会話は、シャイルの手紙のことだった。
「私はもちろん行くわよ。あのエーデルってやつは気に食わないけど、シャイルさんはチドリに優しかったし」
「楽しみだね……!手紙には、この時期にぜひ来て欲しいって書いてあったんだけど……」
「時期?何かあるのかしら」
「わからない……でも、わくわくするね」
「チドリが楽しそうで何よりだわ。さ、もう寝ましょうか。明日からは準備で忙しくなるでしょうし」
「そうだね」
目を閉じ、まだ見ぬ異国に思いを馳せながら、チドリは期待に胸を膨らませるのだった。




