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魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
魔道士として
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荒涼の狼

弾丸のような速さでチドリが駆ける。

エーデルは飛び退きながら杖を振りかざした。


「フリーレン・ルス・グラキエース!」


無数の氷刃が出現し、チドリ目がけて放たれる。

チドリが大鎌を一文字に振るった。

触れた氷刃が真っ二つに割れ、塵芥と化した。

エーデルの顔が引き攣る。


「魔法を斬りやがっただと!?」


防壁を張ったエーデルを、チドリが斬りつける。

防壁が砕けた。

エーデルが咄嗟に杖で大鎌を防ぐ。

チドリはその喉元に大鎌を食い込ませようと、虚ろな目のままで手に力を込めた。

細腕からは想像も出来ないような怪力に、エーデルが歯を食いしばる。


「……ッお前一体……!」

「チドリ様!!おやめ下さい!!」


天狼姿のレアンが、後ろからチドリを抱きかかえた。

大鎌を握る手を掴み、エーデルを逃がす。

チドリの腕や背中から流れる血が、レアンの服に広がっていく。

その感触と温度に、レアンが悲痛な声を上げた。


「このままでは死んでしまわれます!!どうか!!」


チドリの体が震えた。

大鎌の形が歪み、薄れる。

哀音を、その耳元に落とした。


「俺はもうこれ以上、貴方が傷つく姿を見たくない……!!」


大鎌が霧散する。

糸が切れた操り人形のように、チドリがその身をレアンの腕に預けた。

慌ててその顔を覗き込む。チドリは気を失っていた。


『チドリ!!』

『チドリちゃん!』

「魔道士殿……!!」


精霊王とレーヴェ達が駆け寄ってきた。

黒髪の美女が、血の気の失せたチドリの頬に手を当てる。


『ごめんね、チドリ……!痛かったよね、苦しかったよね……!!』

『……天狼、礼を言う。あのままでは我らの主は命を落としていた』


レアンは震えながらチドリの体を抱きしめた。

シャイルの厳しい声が響く。


「エーデル、すぐさま転移を行え!」

「……わ、わかってる」


一同は光に包まれ、広間に戻った。

レアンは、チドリを離そうとしない。精霊王達がその傍に心配そうに寄り添っていた。

レーヴェが二人の魔道士に向かって口を開く。


「……シャイル殿、エーデル殿。今日のところはひとまずお帰り頂けますかな」

「うむ。そうしよう……騒がせて悪かった。帰るぞ、エーデル」

「あ、ああ……」


踵を返したエーデルの背に、冷水のような声がかかった。


「……エーデル」

「……な、なんだよ」


レアンの黄金色の瞳が、怒りに染まっていた。


「次に会うときは、今度こそ貴様の首を掻き切ってやる。覚えておけ」

「…………ふん」


二人が出て行ってから、レアンはチドリを抱えて立ち上がった。


「お兄様!チドリは……!!」

「すぐ手当させる……精霊王殿。話を聞かせて頂けますか」

『……そうだな』


蒼の美男が頷き、他の精霊王はチドリの体に戻った。


部屋に戻ると、侍女達が悲鳴を上げた。

レアンはベッドにチドリを寝かせ、医師を呼びに行かせた。

侍女の持ってきた布で優しくチドリの傷口を拭い、服の胸元を緩める。


「……湯浴みしてくる。終わったら、様子を見に来る」

「は、はい……!かしこまりました!」


浴場で脱ぎ捨てた服を見て、執事が青ざめた。


「殿下!どこかお怪我でも……!?」

「いや、俺ではない」


短く答え、湯に入る。

湯の縁に、蒼の美男が姿を現した。


『……すまないな。他の奴らは主の身を心配しておるのだ』

「別にかまいませんよ……気持ちは、わかりますから」

『お前は……我が主の、何なのだ?なぜ、そのようにあいつを気にかけている?』

「あの方の、ですか……それは、あの方が決められることでしょう。俺はあの方に救われたから、傍にいたいと思うだけです」

『恩義か?だが俺の目には、お前のそれは恩義以上のものに見えたぞ』

「…………自分では、よくわかりません。ただあの方が傷つく姿や苦しまれる姿を見るのは、耐えられないんです」


レアンの横顔を見つめ、美男は思案する。


(天狼の忠誠心によるものか……?それもあるだろうが、こいつの態度はまるで……)

「それで……チドリ様のあの姿は、一体何だったのですか」


レアンの明眸が、美男に向けられる。


『ああ、あれは……我ら精霊王の一人、闇の精霊王の力によるものだ』

「闇……?」

『そうだ。彼女の特性は万物の破壊……闇とは怒りや憎しみといった感情に深く関係するのだ。恐らく、あの時チドリの中に抑え難い負の感情があったのだろう。精霊王の力がそれに反応したのだろうが……契約もしないままであったせいで、力が暴走したのだ。契約とは我らの要であり、制御の鎖でもある。だが……彼女の力は、光の精霊王と同様、我らの中で一番扱い難い代物でもある。暴走とはいえ、霊具の発現にまで成功しかけたのだ。やはりチドリは別格であるということだな』

「霊具?あの大鎌のことですか?」

『左様。精霊王の力の結晶であり、主と自身の力を極限まで高めるものだ。チドリは、その発現の一端を垣間見せた』

「一端ということは……あれは、完成形ではないということですね」

『そうだ。本物の霊具を発現させれば、あの小僧などひとたまりもなかっただろうな』


レアンは顔を荒く拭い、湯から上がった。

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