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魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
魔道士として
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二人の魔道士(6)

広間に戻ったチドリは、六人と共に岩人形ゴーレムと再び対峙することになった。


『うんわー神殿めちゃくちゃじゃん!』

『もとから似たようなものだろう。だがまあ、我らが眠っていた頭上で好き勝手されていたというのは、腹立たしいな』

『よーし!サクッと燃やそう!』


シャルラハートがそう言うと、他の五人はフッと光に姿を変え、チドリの胸に吸い込まれた。


「!?」

『あはは!びっくりしなくていいよー!貴方の中でちょっと過ごさせてもらうだけだから!』

「え……あ、そ、そうなんですね……」

『あ!ねーねー!名前なんて言うの!?』

「あ、チ、チドリです!」

『チドリかー!良い名前だねー!』


シャルラハートに頭を撫でられる。和んだのも束の間、岩人形ゴーレムがこちらに向かって拳を振り上げてきた。


『おっと』

「!」


シャルラハートがチドリを抱え、フワリと飛び上がる。天井付近まで来て、チドリの顔を覗き込んだ。


『ありがとなーヴェルデヴェール!』

『どういたしまして。チドリちゃんに真名も伝えてもらえちゃったわぁ』

『シャルラハート!貴様懲りんのか!!』


チドリの中から、緑の美女と青の美男の声がした。

シャルラハートが床に降り立ち、チドリの手と指を絡ませる。


『さあチドリ。アタシの真名を呼んで、契約を詠唱してみて!大丈夫。詠唱の言葉は皆が教えてくれるからね!』

「は、はい!」


岩人形ゴーレムがこちらに近づこうとするが、緑の美女、ヴェルデヴェールの風で身動きが出来ないようだった。

目を閉じ、握りしめたシャルラハートの手に意識を集中させる。

唇から詠唱が滑り出た。


『赫焉たる炎の精霊王よ』


空気が揺らぎ、岩人形ゴーレムの足元に真っ赤な円が現れた。複雑な模様を描きながら、円は熱を増していく。


『シャルラハートの真の名を以って汝に命ず』


神殿内に炎の色が満ちた。岩人形ゴーレムの体が熱で赤黒くなっていく。

チドリは息を吸い込み、最後の詠唱を紡いだ。


『我が手に大いなる烈火をもたらさんことを!!』


爆音を立て、火柱が上がった。

灼熱の炎が天井を突き破り、岩人形ゴーレムの体を蹂躙していく。

渦巻く炎と熱風の中で、岩人形ゴーレムがくぐもった悲鳴を上げた。


『はははっ!いいねいいね!やっぱりチドリは本物だ!!』


シャルラハートの歓声に応えるように、火柱が一層激しく燃え上がった。

手をかざしながら、自分の体の中の魔力がなくならないことに、チドリは気づいた。


(こんなに大きな炎なのに、どうして……!?)

『おいシャルラハート!やり過ぎだ!神殿が崩れるぞ!!』

『え!?あー!!』


声を上げた時にはもう遅く、天井や壁が崩れ始めていた。

チドリの中から、焦ったような声がいくつも聞こえる。


『どうするのよぉ!契約してないんじゃ、私の力で地上に連れて行けもしないじゃないのぉ!!』

『だから言ったのだこの馬鹿!!だいたい貴様はいつも……』

『お説教はあとにして!!』

『……崩れるぞ……!』


炭のようになった岩人形ゴーレムが、瓦礫に押しつぶされる。

シャルラハートが泣きべそを浮かべた。


『うわーん!どうしよおー!!』


チドリが途方に暮れた、その時――


「チドリ様ッ!!」


階段付近で、自分を呼ぶ声がした。

振り返り、安堵に顔を綻ばせる。


「レアンさん……!!」


天狼の姿に変じたレアンは振ってくる瓦礫を器用に避け、チドリの傍に立った。隣のシャルラハートがキョトンとする。またチドリの中から声がした。


『一先ず戻れシャルラハート!天狼ならばチドリを助け出すくらい造作もないだろう!』

『う、うん!わかった!!』


赤い光が、チドリの胸に吸い込まれる。それを見届けると、レアンがチドリを抱え上げた。

端整な顔が迫り、チドリはドキリとする。

レアンは、いつものように優しく微笑みかけた。


「飛ばしますから、しっかり掴まっていて下さい」

「は、はい……!」


その首に両手を回し、チドリは思い切ってレアンにしがみついた。レアンが走り出す。

風が耳元で唸るのを聞きながら、チドリは自分を抱えるレアンの手にグッと力がこもったのを感じた。


「……お帰りなさいませ。チドリ様」

「へ、わ、あ、はい!ただいまです!」


耳元に落とされた囁きに、赤くなって応えた。



地上に戻ると、ステラに大泣きしながら抱きつかれた。フィオーレも駆け寄って、一緒に抱きしめられる。


「よかったぁ……!チドリが死んじゃったら、私、どうしようかと思っ……!」

「……うん。心配かけて、ごめんね」


笑って見せるも、チドリは自分で立てないほど憔悴していた。レアンに支えられながら、ようやく地面に座っていられるような状態だ。

ステラの後ろから、シャイルとエーデルが姿を見せる。

穏やかに微笑むシャイルと正反対に、エーデルの表情は不満げだった。


「よう帰ったな、チドリ。そなたは立派じゃったぞ」

「……ふん。精霊王だかなんだか知らないが、ただの偶然じゃねーか」


エーデルはそのまま、チドリの目の前まで歩いてきた。レアンがその顔を睨み上げる。


「使われたのがこの神殿じゃなければ、勝てなかったってことだろ?要は」

「……いい加減にしろ。もう俺も、王子としての体裁など取り繕ってはいられなくなるぞ」

「……へえ?俺と一戦交えるつもりかよ。犬っころが」


ビキリと、何かが割れる音がした。

エーデルがその音の正体を確かめるより早く、チドリの両手がその襟元に伸びた。

掴みあげ、自分の虚ろな目を合わせる。


「……今、なんて、言った」

「はあ!?なんだよいきなり……」

「なんて、言ったって、聞いてるの」


また、何かが割れる音。

レアンは、チドリの腕に黒いひび割れが出来始めていることに気付いた。漆黒が、そこから広がっていく。


『おい天狼!チドリを止めろ!!』


声と同時に、チドリの中から六つの光が現れ、人間の形をとった。

その中の一人、黒髪の小柄な美女が、苦しそうに胸元を抑えている。金髪の美青年が、顔を青くしてその体を支えてやっていた。


『ダメだよ……チドリ……待って……!!』


黒髪の美女の声が聞こえていないのか、チドリはますます黒い亀裂を広げていく。

その目には、激しい憎悪や怒りが渦巻いていた。


「てめぇ……!軽々しく俺に触んな!」


叫んだエーデルが飛び離れ、杖を手に取った。その先が光を帯びる。

チドリが立ち上がった。


「チドリ様!?一体どうされたのですか!!」


応えず、チドリが右手を前に突き出す。黒い光が迸り、大鎌デスサイズを形作った。光をも飲み込みそうなほどの漆黒である。

黒髪の美女が悲鳴を上げた。


『お願いチドリ!やめて!このままじゃ、貴方の体が壊れちゃう……!!』


ハッとして見ると、黒い亀裂から幾筋も血が滴っていた。

レアンの体から血の気が引く。


「チドリ様!!お待ちください!!」


伸ばしたレアンの手の先で、チドリが一歩踏み込んだ。



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