二人の魔道士(4)
チドリの体は限界寸前だった。
砕けた瓦礫に足を取られ何度も転んだせいで、膝や腕をすりむき、血が滲んでしまっている。岩人形が壁を破壊するたびに破片が飛び、体に打ちつける。走り回った足は痺れ、爪先の感覚がない。喉は痛み、肺が悲鳴を上げる。そういえば持久走は苦手だったなと、霞む頭にそんなことが浮かんだ。
痛い。
痛い。
痛い。
もう走れない。
呪文も唱えられない。
怖い。
怖い。
痛い。
嫌だ。
なんでこんな目に。
(……私が、弱いから)
地面を蹴る。足がもつれる。視界が回り、鋭い痛みが襲う。
(……嫌だ。弱いのは、嫌だ)
口の中に鉄の味が広がる。瓦礫が降る。
(死にたくない)
また転ぶ。頬が切れる。
(嫌だ。死にたくない)
喉が掠れた音を鳴らす。
(……負けたくない)
何に?
(わからない)
岩人形に?エーデルに?自分に?
(わからない、でも)
負けたくない。
走り続けるチドリの上に、影が落ちた。
見上げれば、迫る岩の拳。
「ッ……ヴェールフ・アスジオッ!!」
かざした手から放たれた光が、球形にチドリを包んだ。張られた防壁の上に、拳が叩きつけられる。
包んだ球ごと、チドリが床に沈んだ。
押しつぶすかのように、拳が迫る。
跳ね返そうと、震える腕を突き出す。
何かが砕ける音がして、体が浮いた。
「!?」
足元の床に穴があき、チドリを飲み込んだ。
「きゃああああああああッッ!!」
悲鳴を上げ、チドリは闇の中に消えた。
「チドリィッ!!」
「チドリ様ッ!!」
「魔道士殿!!」
「……っ!」
ステラとフィオーレが裂帛を上げる。
レアンの足が一歩動いた。
「あらら……流石に死んだか?」
「エーデル、おぬしいい加減に……」
乾いた音を立て、ステラがエーデルの頬を張った。
紫の宝玉から、涙が零れる。
「さいってい……!チドリが死んだら、絶対許さないんだから!あんたなんか……あんたなんか大っ嫌いっ!!」
「……ふん。勝手にしろよ」
エーデルが視線を逸らす。ステラはフィオーレの肩に顔を埋め、泣きじゃくった。
「……チドリ様は、死んでいない」
静かに、レアンが呟いた。エーデルが鼻を鳴らす。
「なんでわかるんだよ。そんなこと」
「……あの方の魔力を感じるのです」
「はあ?」
「一度、体に流したからか……同じ気配を、神殿の底から感じます」
「…………なんじゃと?」
シャイルが声を掠れさせる。エーデルの目が、初めて驚異に見開かれた。
「お前、今なんて言った……?体に、流しただと?あいつの魔力を?」
「ええ、そう言いましたが……」
二人の魔道士が、顔を見合わせた。
短いですがキリがいいので(^_^;)




