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魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
魔道士として
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チドリの奮闘(5)

「レアンが狼人間ウェアウルフではないだと……っ!?」


チドリの一言に、辺りは騒然とした。

アロガンが目を見張る。レアンも、驚いて隣に立つチドリを見つめていた。チドリの表情は変わらず、騒ぐ観衆には目もくれない。


「貴様……何を言い出すかと思えば……っ!では、此奴は一体何だと言いたいのだっ!!」

「その前に、皆さんにお話ししたいことがあります」


チドリは傍に控えていた侍女達に目配せしてみせた。侍女達が心得顔で頷き、本を抱えて進み出る。


「それは……!?」

「ここ数日で私が書庫の中から探し出した本です」

「馬鹿な!!我が国最大の蔵書を誇る場だぞ!?」

「さすがに骨が折れましたけど……魔力を使ってみたんです。自分の目に集まるように」


レアンは息を呑んだ。


(この方は、たった数日の間にそんなことを……!?)


「まず見て頂きたいのは、この本です」


チドリが青い表紙の本を取り出した。


「それは……」

「この本は、この世界に存在する魔物について書かれた本です」


チドリがページを開き、目前に掲げる。


「ここに、狼人間ウェアウルフについての記述があります」

「……っ」

「それによると、狼人間ウェアウルフというのは、主に満月の日にその身を完全な獣の姿に変え、人間としての理性を失くす凶暴な魔物で、体を元通りにするには、夜が終わるのを待つか、最悪殺すしかないとのことでした」

「そ……それがどうしたというのだ!!」

「おかしいと思いませんか?姿を変えたレアン王子には、人間としての理性が残っていました。さらに不思議なことに、体は半人半狼だったのですよ。狼人間ウェアウルフの特徴に、当てはまりません」


人々が驚愕に目を見開いた。アロガンの顔が青ざめる。

チドリは、さらに畳みかけた。


「レアン王子は、変貌する前の発作についてこう仰いました。発作が起きるのは必ず、魔力を急激に失った時で、胸元の痣が痛むのだと」

「そういったたぐい狼人間ウェアウルフであるというだけであろう……!」

「いいえ。そんな狼人間ウェアウルフのことなんて、書庫の蔵書の中にはありませんでした」


チドリは、レアンの方を向き、僅かに耳元を赤くした。


「あ、あの、すみませんが……痣を、見せて頂けますか……っ」

「え?ええ、構いませんが……」

「失礼しますっ……」


美青年の胸元を肌蹴させるなど、女性として恥ずかしいことこの上なかったが、チドリは決心してレアンの胸元を緩めた。

白い肌に、黒く歪んだ痣が浮かんでいるのが露わになる。


「それがどうした!此奴が魔物であるという証であろう!」

「いいえ」


チドリは緑の表紙の本を取り出しながら言った。


「これは、呪詛です」

「呪詛……!?」


恐怖に満ちた囁きが広がった。

アロガンの顔が益々青くなっていく。


「呪詛とは、魔法と違い、人に害を成す為だけに作られた……いわば禁忌です。レアン王子の痣は、その呪詛を受けた時に現れるものと考えられます」

「そ、その呪詛とはどのようなものなのですか……!?」


フィオーレが涙混じりに叫ぶ。

チドリは安心させるようにその青緑の瞳を見つめ、本を開いた。


「この呪詛は……対象の人物から魔力を奪い取るものです」

「魔力を……!?」

「はい。それも、一度に多量の魔力を奪うことに特化した呪詛です」


今や、観衆の目はチドリに釘付けであった。光を受けた美しいドレスを身に纏い、強い輝きを瞳に宿らせた小さな魔道士。

レアンは、もう彼女から目を離すことができなかった。


「これらのことから……レアン王子がその姿を変貌させてしまう理由の一つに、魔力の著しい減少が上げられます。では、魔力の減少が変異をもたらす種族とは何なのか」


全員が固唾をのんで見守る中――チドリは最後の一冊を手にし、こう告げた。



「それは、天狼てんろうです」

「てんろう……?」


戸惑いの声が聞こえる中、レーヴェがハッと息を呑んだ。チドリがレーヴェを見て、ニッコリ笑う。


「魔道士殿、それは……!!」

「そうです。太古の昔、この国の創国神である光輝と蒼晃の神、シェーネ・ティ・クラーロ神が創り出したと言われる、あの天狼です」

「なん、だと……!?」


呆然としたアロガンの呟きに構わず、チドリは続けた。


「伝説上の種族と言われ、存在が曖昧だった天狼ですが……王族の中に、何代かに一人、天狼の血を受け継いで生まれる者がいたのです」


チドリが本を高く掲げる。


「十二代前、三十七代前……その間隔は一定ではありませんが、歴代の王族の中に、レアン王子と同じ特徴をもつ王族の方がいらっしゃいます」

「そ、そんなこと、俺は一度も聞いたことがないぞ!」

「そうでしょうね……自分のせいで、書庫の蔵書が滅茶苦茶になってしまったのですから」

「え?」


アロガンの顔が白くなっていく。チドリの目が、奮い立つように鋭くなった。


「その前に……フィオーレ王妃。レアン王子に呪詛を施したのが一体誰なのか、知りたくはありませんか?」

「え、ええ……!もちろんですわ!」

「今からその犯人を炙りだします……カイト!ここへ!」

「おうよ!!待ってたぜ!!」


響いたチドリの声に応じ、どこからかカイトが姿を現した。後ろから衛兵に引き摺られ、先日の男と頭領が連れて来られた。女達が悲鳴を上げる。

二人の男は鎖を巻かれ、恨めし気にアロガンを睨んでいた。


「アロガン、殿下……!!」

「し、知らん!!このような者俺は知らんぞ!!」

「知らないと仰るのですね……構いません。この呪詛を返せばわかることですから」

「呪詛を、返す……?」


チドリはフィオーレに頷き、レアンの正面に来ると、その痣に両手を重ねた。


「呪詛とは、強力であるが故に、その代償も大きいのです。返されれば、関係した者はただでは済まないでしょう」

「ひっ……」


アロガンが凍りついた。チドリの手がグッと痣に押し付けられる。

赤い光が迸った。

チドリの唇が冷たく呪文を紡いでいく。


『汝の願いは途絶えたり。咎人に報復を……――』


赤黒い光が走り、悲鳴が空を裂いた。

もう少し続きます(^_^;)

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